第1話 公爵の娘
(お、落ち着け……、ここは病院ではないのは間違いない。だが、なんで人形になっているんだ?)
何度もガラス板を見ても、自分は西洋人形である現実は変わらない。青い眼をしていて、髪は金色で可愛らしい人形だった。元男である亮太から見ても、良く作られているとわかる。
(む!? ガラスの向こうに人が見える!! …………なんだよ、偉そうな人が着ていそうな服や魔女みたいな服を着た人もいる!?)
亮太が見えた人は、貴族と魔術師だった。現代の地球ではあり得ない服装に、街の風景や馬車が通ったことから理解を得た。
そう、ここは地球ではなく、異世界なのだとーーーー。
(…………人形か、人間じゃないのは良かったけど、せめて動ける生物の方が良かったな……)
理解した亮太が真っ先に思ったことは、人間に転生しなくて良かっただった。普通なら人間になりたかったと思うだろうが、亮太は人間に失望していた。あんなことがあり、不幸な人生を過ごしたのだから、人間のことを信じられないのは当然のことだろう。
(ううっ、動きたいーー!! 動けねぇ!!)
ただの人形だから、亮太の思うように動くことは出来ず、心の中は空回りしていた。
(はぁっ、マジかよ……。異世界なんだから、動けるようにしてくれても良いんだろう!? 融通が利かねぇーー!!)
人形に転生させたと思われる神に愚痴を念じていた。どうやって転生したのかはわからないが、前世の記憶があることから、普通ではないのは理解している。人形に転生した時点で普通ではないが…………
心の中で葛藤していた亮太だったが、ドアが開いた音にビクッと心の中で震えた。
客が入ってきたのだ。震えたのは、誰かに買われてしまうことに対してだ。亮太は人間不信になってしまい、誰であっても買われたくはなかった。
誰にも買われないようにと祈った。心の中で祈るしか出来ないが、とにかく祈った…………だが、その祈りは届かなかった。
「あー! この人形、可愛いっ!」
「この人形かい? 確かによく作られていて綺麗だな」
「この人形がいいー!!」
「そうか、エリーナが欲しいならそれにしよう」
亮太は絶望した。嫌いな人間に買われて、一緒に過ごすことになるとは。欲しいと願った少女が視界に入り、その少女は可愛らしい容姿をしていた。笑顔でこっちを抱きあげて、喜ぶように回っていた。
「わーい! 私はエリーナだよ! 宜しくねっ!!」
「大切にするんだよ」
「うん! 一生、大切にするね!! あ、貴女の名前はえーと、あ、『アリス』ね!!」
アリス。その名前を付けられ、抱きつかれたことに亮太はなんとも言えない気分になっていた。
抱きつかれた際に、感じた温かさが心地良いと感じてしまったのだ。自分は人間が嫌いなのに、どうしてそんな気分になったのか、わからなかった。
そのまま、エリーナの家へ連れて行かれて、屋敷が見えた所から驚愕の気持ちで一杯だった。どうやら、この少女は良い所のお嬢様だったようで、出迎えに来たメイドから公爵家だとわかった。
自分はとんでもない家に買われたな
と思いつつ、限りのある視界や音から情報を集めていく。
(人形に転生したといえ、まだ動くのを諦めたわけでもない!! それに、この世界は魔法と言うものがあるじゃないか。なら、人形でもやれることはある筈だっ!!)
亮太……いや、アリスと名付けられたのだから、この世界ではアリスと名乗ろうと決心し、自分が出来ることを考える。
まず、動けるようになることが第一目標である。この世界は魔法があると思ったのは、エリーナのお父さんだと思われる男が天井に向けて手を挙げたら、天井にあったシャンデラが付いたからだ。スイッチを入れた様子は見当たらなかったから、魔力を送ったと思われる。推測でしかないが、手を挙げた理由がそれしか思い付かなかった。
魔力、魔法が実際にあるなら、自分の身体を浮かして移動させる事が出来るかもしれない。
そのような希望を持ち、エリーナを注意深く見ていく。
「アリス~、ここが私の部屋だよ。これから宜しくねっ!」
(こちらは宜しくするつもりはねぇよ! お前が可愛らしい少女であっても、人間なのは変わりないのだからなッ!!)
アリスは動かせるようになったら、すぐ逃げ出すつもりだった。その心を見通せないエリーナはニコニコと笑顔でアリスを抱きついていた。
それからは、アリスにとっては地獄だった。食事、風呂、睡眠の時も、エリーナと一緒だった。風呂はエリーナがまだ7歳だったことで目に毒とまではなかったが、ウザいと感じていた。人形はそれが普通であっても、魂があるアリスにしたらウザいの一点張りだった。
それよりも、風呂に入っても身体に異常がなかったのは驚いた。まさか『水耐性』とかあるんじゃないかと冗談なことを考えていたらーーーー
《通常スキル『防水』を獲得致しました》
(ぶぅっ!?)
アリスは吹いた。心の中でだが。
まさか、人形がスキルを獲得出来るか半信半疑だったので、あっさりと獲得出来たことに驚いた。『水耐性』ではなく、『防水』だったのも少し笑えたが、人形なら防水の言葉が似合うと思っていた。
とにかく、エリーナと一緒だが、風呂は気持ち良かった。気持ち良いだけではなく、一回浸かっただけで、『防水』を手に入れたのはラッキーだと思いつつ、湯船に沈んでいく…………
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