第4話 狂う人形

 


(何が……)


 アリスは右眼を斬り裂かれているが、痛みはない。身体が人形で『無痛』を持っているから、痛みはないが…………心は引き裂かれたような痛みを訴えていた。認めたくはなかったが、エリーナは死んだ。

 森の奥に散歩を誘った王子がやったのだ。


「やっぱり、人の死に様は綺麗だ。なおさら、高位の人が死ぬことに意義がある」


 王子は血に塗れている剣を引き抜いて、恍惚に笑顔を浮かべていた。何故、王子がエリーナを殺したのか理解は出来なかったが、エリーナを殺したのは王子で間違いない。まだ10歳にもなってない子供がだーーーー


(あぁ、アァァァァァ!! 貴様らぁぁぁぁぁ!!)


 王子は森の奥にある湖へエリーナを連れて、護衛も公爵家からの者を連れずに王子が用意した護衛の者しか連れていなかった。その護衛は王子がやっていたことを黙秘し、テキパキと現場の片付けをしていた。


「後はお任せを。クリスチャス王子様は城へお戻りに」

「いつも悪いな」

「もう慣れましたので」


 どうやら、王子は今みたいな状況を何回も起こしているようだ。それ程に、クリスチャス王子の闇は深かい。アリスのことはーーーー


 ただの人形と言うことで無視され、アリスもエリーナが埋められていくのを見ているしか出来なかった。憎悪で無理矢理に身体を動かそうとしたが、ピクッとも動かない。ただの人形であったことに呪っていた。もし、動けていたらその顔を八つ裂きにしたいと思っていた。


(やめろォォォォォ! ぶっ殺してやる!! 貴様らァ、俺から幸せを取り上げようとする奴らは許さねぇ!!)


 そんな叫びも届かない。ここが王国の外にある森だったこともあり、誰かが叫んでも街には届かないようだ。まず、クリスチャス王子がこの場所から離れ、護衛の数人が死体を埋めていく。アリスは呪い殺しそうな視線を向けていたが、誰も気付かずに視界から1人もいなくなった。


(畜生がぁぁぁ!! なんで、周りは俺から幸せを奪うんだよ!? 神は俺に恨みでもあんのかよ!? ぜってぇに許さねぇ! 許すもんか! 殺す! 殺してやる!)


 アリスはエリーナのことを気に入っていた。それを奪われたアリスは殺意と憎悪で一杯だった。




 話を変えるが、この世界には闇の残滓(ざんし)と言う魔力の物質がある。その闇の残滓は特別な魔力であり、誰にも認知出来ない物なのだ。

 皆が認知出来ないだけで、何処にもある魔力であり、まるでこの世界には存在しない物質のようだ。

 その闇の残滓にはある特性があって、魔力を持たない物質や生き物に付着しやすい。それから、闇と呼ばれるだけあって、心に深い闇を持つ者に集まりやすい。


 魔力を持たず、深い闇を持つ心。それらの条件を備えたアリスはーーーー



(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやあァアアアァァァイィィギィィィ!?)


 アリスは痛みを感じていた。人形の身体で痛みを感じるのはあり得ないが、現在は痛みの波に襲われているような感覚を味わっていた。

 斬り裂かれた右眼から闇の残滓が入り込み、身体が造り変えられていく。痛みに苦しんでいる時、あの声が聞こえてきた。




 《魔素量が上限に達しました。ただの人形から狂人形(マッドレイ)に変化致します》




 変化。ただの物質から生き物への変化が起こる。ただの人形からーーーー魔物(・・)へ。

 声は魔物になったお知らせだけで終わらず、声はまだ続いている。


 《希少スキル『暗闇眼(ダークネス)』を獲得致しました》

 《通常スキル『魔力操作』を獲得致しました》

 《通常スキル『魔爪』を獲得致しました》

 《通常スキル『狂気発作』を獲得致しました》


 新しいスキルを手に入れ、声が止むと痛みが消えた。ハァハァと息を整えている時に、気付いた。




 呼吸が出来ていることに。




 それから、身体を動かせるようになっていた。自分の身体を見ると、手足が少しだけ伸びていて関節が球関節になっていた。斬られた右眼は見えており、そぉっと触るとヒビ割れの感触を感じて咄嗟に手を離した。


「あ、あぁ、声が……。声を出せる! 右眼はどうなっているんだよ!?」


 まだ慣れない身体を必死に動かして、近くにある湖まで走った。そして、湖を鏡代わりにして見てみると…………




「な、なんだこりゃぁ……、右眼がない………なのに、見えている?」


 鏡代わりにして、自分の姿を見るとボロボロのドレスになっていて右眼がある場所は欠けており、中身が見えていた。ただ、その中身が異様だった。

 真っ暗な暗闇に1つの灯りがあるだけ。その灯りみたいな光は視線を少し右に向けると、右に動いたのがわかる。つまり、この灯りがアリスの右眼になるようだ。


「気味悪いな…………待てよ、何かスキルを手に入れたんだよな?」


 そう思い、自分のステータスを確認するとーーーー




 ステータス

 名称 アリス

 種族 狂人形(マッドレイ)

 称号 なし

 スキル

 希少スキル

『自心支配(マイコンラート)』、『暗闇眼(ダークネス)』


 通常スキル

『無痛』、『防水』、『思考』、『瞑想』、『遠視』、『魔力操作』、『魔爪』、『狂気発作』




「声の通りに新しいスキルが増えているな。詳しく内容がわかれば、良かったんだがな」


 ステータスは自分のなら見れるが、漫画や小説みたいに説明文みたいなのは見れない。この前に試したことであり、詳細は見れないことは知っていたが、『暗闇眼(ダークネス)』の詳細を知りたいなと思いながら見ていたらーーーー



 暗闇眼(ダークネス)


 敵のステータスを見れるようになり、自分のスキル詳細を知ることが出来る。

 それに、弱点が黒い靄(もや)になって浮かんで見えるようになる。


「は? 見れた!? もう一回!!」


 再度確認してみたら、ちゃんとステータスに詳細が現れた。何故か、希少スキルの『自心支配(マイコンラート)』だけは出なかった。何故、出なかったのかは後で考えることにして、アリスは自分が笑っていることに気付いた。


「あはっ、アハハハハハッ!! 動ける、強くなれる!!」


 自分の願いが届いたと嬉しさを隠しきれなかった。これで、あの王子にーーーー




「王子だけじゃねぇ、全ての人間は敵だ。俺を随分と不幸にさせてくれた分だけは倍返しに返してやれる!! これが、笑わないでいられるか!!アハハハハハ!!」




 狂気に狂う人形が動き始めた。ここからがアリスの復讐劇が幕を開くのだったーーーー







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