第8話 新時代の勇者達

 


 この時代にも、勇者は数十人はいる。召喚された者、生まれ持って勇者の称号を持った者など。

 だが、新時代として、本当の意味で活躍する者は、たった数人だけ。その数人は勇者としての資質が高く、これからの時代で期待される者である。その数人とはーーーー




『狂王の勇者』


 王城にて、隠された地下室で数人の護衛と一緒にその者はいた。


「クリスチャス王子様、ヘカーテ家からお話があるそうですが?」

「あん? 面倒クセェな……」


 クリスチャス王子様と呼ばれた、リディア王国の第一子は王子様である同時に、勇者でもある。生まれ持った勇者の称号があり、鬼才の才能を生まれ持ってきた化け物でもある。

 それだけではなくーーーー


「貴族とか面倒な物、前の世界ではなかったからなぁ…………よし、面会は明日にすると伝えておけ」

「はっ、……大丈夫なんでしょうか?」

「あははっ、心配はするな」


 バチッ! と音が鳴ると小さな悲鳴が出る。クリスチャス王子様が何をしているのか? 何故、地下室といった場所にいるのか? それらは、クリスチャス王子様の趣味でここにいるのだ。


「うぅ、やめてくれぇ……」

「助けてぇ……」

「い、痛いよ……」


 地下室の所々から悲願な声が漏れている。地下室は小さなランプでしか照らしておらず、暗い部屋だが、眼に慣れてしまえば…………


「相変わらずですね。何が楽しいんだか」

「わからなくてもいい。楽しいからやるだけだ。アハハハッ!!」


 また鞭を打ち付けると、悲鳴が漏れる。地下室には、数人の男女が壁に張り付けられて動けないようにしてあった。中に10歳に満たない子供もいた。


「前世からやっていることだか、この趣味は飽きないな。この背徳感がたまんねぇよなぁ」

「地下室ではいいですが、外ではその様な顔をしないように、お気を付けを」

「わかっているわかっている。そんなヘマはしない」


 この王子は、転生者であり、前世も碌でもない人物のようだ。


「しかし、公爵家の娘を殺したのはマズかったのでは?」

「ヘカーテ家か。問題はねぇ。面会は明日に伸ばしたが、そんな面会は開かれることはないさ」

「はい?」


 ヘカーテ家とは、エリーナの家であり、いなくなったことにクリスチャス王子様へ面会を申し込んでいた。

 だが、王子は面会が開かれることはないと言った。その意味とは…………




「ヘカーテ家、夜中に火を付けろ」

「ッ!」


 王子の言葉に護衛の者は息を飲んだが、それだけだ。


「……畏まりました」

「そう言ってくれると信じていたぜ! 俺の言うことを聞いていれば、将来は安泰に暮らせるぜ。それどころか、贅沢もさせるぞ」

「はい。それはわかっております」


 命令を出した方もそうだが、受ける方も狂っていた。張り付けにされていた者はその様子を恐怖の目で見ていた。


「あぁ、楽しいな」


 地下室では鞭を打つ音と悲鳴が響き続けられるのだった…………






『浮浪の勇者』


 世界中を渡り歩く勇者がいる。いつも袴を着て、腰には刀を2本下げている。歳はもう40代を過ぎているが、弛(たゆ)まぬ鍛錬によって見た目は20代後半にしか見えない。

 そんな侍に似た男は自由に世界を回り、様々な国へ赴いている。

 今はルーディア帝国で腰を落ち着かせていた。


「……嫌な風の流れだ。何か起きなければいいが……」


 剣士の勘と言うべきか、この時はアリスが魔物化していた。明確な根拠はないが、この世が荒れると感じていた。

 だが、今に何が出来るわけでもなく、この時が来るまではルーディア帝国で待つと決めていた。






『純潔の勇者』


 ある元凶が生まれる十数年前のこと。

 小さな村、何処にもある村のと変わらず、特に目立ったような特徴はない。そんな村に、新たな命が生まれた。裕福、貧乏でもない家で優しそうな母に抱かれて産声をあげる小さな女の子。


「あぁ、神様。可愛らしくて元気そうな赤ちゃんを産ませて頂き、感謝しています」

「あぁ。私達の子供、いい産声を上げているな。結構元気な子になるぞ」


 両親は子供が特別な力なんて無くたっていい。健康に過ごせる身体を持って産まれただけでも嬉しく思う。

 勇者になる資質が秘められているのを知るのは近い未来だが、両親は幸せだった。


「あぅー」

「私達の可愛い娘。名前は決めてあるのよ」

「あぁ、何日も相談して考えたものだ。ある聖獣の名を少し弄っただけだが、気にいると思うぞ!」

「うふふっ、ある聖獣はあの時代で平和への道を作り出した者と一緒に成してきたの。白き龍の聖獣だと伝わっているわ」


 赤ちゃんは両親の言う言葉を理解しているような雰囲気で「あぅー!」と可愛らしい返事をしていた。


「あらあら、話が伝わっているような返事ね」

「あははっ、それはないだろう。早速、名を教えてあげようじゃないか」


 微笑ましい笑顔で、両親から赤ちゃんへ名を付けられる。将来は『純潔の勇者』と呼ばれるようになるその名はーーーー




「貴女の名は『セラディア』よ。可愛いセラディアちゃん。新しい世界へようこそ」







 様々な勇者がいる中、波乱の渦中に立つ者は復讐を諦めることはない。長かった平和が終わる時が来る。勇者達は平和をまた勝ち取ることが出来るのか?

 神であっても、その未来は見通すことは出来ない…………








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