第7話 狩り
「ハァッハァッ!」
息を切らしながらも、森の中を突き進むのをやめない。さっきまでは手に斧を持っていたが、今は手ぶらで顔に恐怖を浮かべていた。
「バ、バケモノ……! ア、アレハナンダ!?」
走って走って、あの場所から離れても安心は出来なかった。逃げている者は1人だけで、戦いを放棄した者である。他の仲間は既にやられてしまっている。
死にたくないと必死に逃げる。
逃げていた者は、人間ではなくーーーー豚人族(オーク)だった。
「ウッ!」
オークは疲れからか、下の注意が散漫になって木の根に引っかけて、派手に転がってしまう。怪我は擦り傷だけで、オークは慌てて木の後ろに隠れる。
すぐ立ち上がって走り出したいとこだが、流石にスタミナが持たないので隠れながら休もうの魂胆であった。
「イ、イナイ?」
木の裏隠れながら後ろをそうっと確認するが、何もない。オークを追う者はいなかった。諦めたのかと思い、安堵するオーク。
安堵した途端に、肩を掴まれる感触があった。オークは冷や汗をかきながら後ろへ振り向いてしまう。そこにはーーーー
「ツ・カ・マ・エ・タ」
三日月に歪められた口に欠けた右眼がオークを射抜く。恐怖が頂点に達したオークは叫びそうだったが、その叫びは響き渡ることはなかった。
既にオークは首を刈り取られて、地面に転がったからだーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
最後のオークを狩ったアリスは、オークの集落だった場所に戻っていた。
「うーん、20体ぐらいは狩ったが、疲れはない。この身体はどんだけ便利だよ」
今は右眼から魔素を吸収しているとこだ。初めて多人数相手に戦ってみたが、オークでは相手になっていなかった。どれも身体を真っ二つにされた死体ばかりで、綺麗な死体は1つもなかった。戦闘方法が『魔爪』しかないのだから、仕方がないが。
(この調子で、集落を狙っていけば、少しは強くなるだろう…………しかし、オークしかいなかったのはおかしいな)
オークの集落にはボスみたいな存在がいなかった。普通なら一体はいるのでは? と疑問を浮かべたが、もしかしたら自分の持っている知識とは違うといえば、それまでだが。
「……ん? もしかして、狩りに出ていたか?」
向こうから足音が聞こえ、十数体のオークの姿が見えてきた。中央に身体がオークよりも一回りと大きいオークがいて、予想していた通りに、本隊は狩りに出ていたようだ。手には獲物になる動物が数体いた。
だが、集落に何かが起こったと理解し、獲物を捨てて殺気立って走り出してきた。
「あははっ! 豚が顔を揃えたって、相手にならねぇよ!!」
アリスは『魔爪』を伸ばし、1番先に突っ込んできたオークの脚を斬り裂く。首を狙いたいが、身長の関係ですぐ首を狙うにはいかなかった。まず、脚を斬って倒れた先に首を斬っていく。
「クハハアァァッ! 弱点が丸見えだぜぇっ!!」
オークは脂肪が多い魔物であり、脂肪が多い場所を狙うのは悪手である。脂肪が少ない場所が弱点になり、オークは首と脇である。
アリスは脇下を狙い、大量出血で殺していく。
「ブルゥ、イクナ! カタマッテヤレ!!」
オークの大将、ブルオークは敵の強さが普通ではないと理解し、無闇に突っ込まないと命令を出していた。
三体が組んで、武器を突き出しながら突進してきた。
普通なら回避を優先するが、アリスは違った。
「無駄無駄だ! 『狂気発作』ぁぁぁ!!」
自分を狂化させ、力を5倍にする。普通なら理性が無くなってしまうが、『自心支配(マイコンラート)』により、理性を保ったまま、その力を振るえる。5倍となった、アリスの力は三体を同時に真っ二つへ斬り裂くことが出来るようになる。これだけの力、速さ、魔力があれば、弱点を狙わなくても勝てる。
「ブル! テ、テッタイ!!」
勝てないとわかり、撤退の指示を出すが、遅かった。せめて、『狂気発作』を発動する前だったら、数体は逃げれたかもしれないだろう。
それ程に実力に開きが大きかった。
「1体も逃すと思ってんのか! 死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
アリスの『魔爪』が形を変える。五本の指の内、4本は魔爪が無くなり、全てを中指の爪へ集中した。アリス命名で、『一文字』。たった1本の魔爪だが、その威力は絶大だった。
横へ振るわれ、普段の長さより長くなり強固となった魔爪が周りの木々を巻き込んで、残ったブルオークとオーク数体を斬り捨てた。
「ブルゴァッ、ァァ……」
「おっと、大将だけは即死しなかったか。すぐ痛みから解放してやるよ」
苦しませるつもりはなく、首を胴体から離れさせて安楽させてやった。
大将だけは他のオークよりも魔素が多く、全てを吸い込み終わったアリスは充実していた。
(なんか、美味いものを食べたような充実感があるな。もしかして、強い程にこの充実感を得られるのか? そういいや、腹が減らないな。というか、腹は減るのか?)
まだ自分のことはわからないが、今は充実したような気持ちで機嫌は良かった。だが、狩りは止めない。次の獲物を探すべく、森の奥へ向かっていくーーーー
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