第12話 大鬼(オーガ)

 


 アリスは潰したオークの集落へ向かっていた道中で、変な物を見つけた。人型の魔物で、スリムな筋肉質の身体を持ち、額にはツノが生えていた。だが、その一本ツノは欠けており、身体も傷だらけで倒れていた。

 息はしているようで、こっちに気付いた時は倒れたままでも睨んで警戒をしていた。


「ぐっ、こんな時に狂人形(マッドレイ)が現れるなんて……」


 流通な言葉に、アリスは驚いていた。ステータスを見て、この魔物は大鬼(オーガ)だとわかり、知能が低いと思っていたのだ。

 ゴブリン、オーク、コボルトは片言しか話せず、魔物全般は知能が低いと勝手に判断していた。だが、目の前のオーガは流通に言葉を操っていた。


「ほぅ、知能は低くないようだが……、種族の見分けが出来ないようでは、長生き出来んぞ?」

「な、喋っただと? 狂人形じゃないなら、狂麗体……それに、変異種か」

「すぐ変異種だとわかるのか? どういう所が普通のと違うか教えてくれると助かるがな」


 オーガの視線が右眼に向けられ、アリスは成る程と思った。この欠けた右眼が異様であり、普通の狂麗体のと違うと理解した。


「ふむ。この右眼か。教えてくれた礼に、殺さないでおいてやるよ」


 アリスは材料のために殺そうと思ったが、コミュニケーションが取れて、この世界のことを良く知っているようだから、生かすことに決めた。


「お前の名は? 俺はアリスだ」

「しかも、ネームドモンスターか。殺さないでくれるのは助かるが、私に名はない」

「ネームドモンスターね、魔物が名前を持っているのは珍しいわけか。というか、その傷は大丈夫なのか?」


 見た所、すぐに死にそうな怪我ではないが、血の気が悪く動けてないから状態は見た目より悪いのかもしれない。


「あ、いや……、怪我は放っても治るが、腹がヤバイかも。何せ、何日もーー」


 話している途中に、オーガの腹がグゥ~と鳴っていた。それに呆れたアリスだった。




「腹減っているだけかよ。心配して損した」

「ま、待ってくれ!?」


 放って立ち去ろうと思ったが、オーガは慌てて呼び止めていた。アリスはもう用がないから立ち去ろうとしたが…………




「待ってくれ! なんなら、オーガの集落の場所を教えるから!!」




 その声にピタッと脚が止まった。オーガの集落と言っていた。オーガとなれば、オークよりも質が高い人形を作る事が出来る。更に、アリスは集落を探して強くなろうとしているーーーーーーしかし、目の前にいるオーガはその事を知らない筈だ。


「お前がここら辺で集落を潰していた奴だよな? ネームドモンスターなら弱い魔物の集落ぐらいなら潰せるだろう。違うか?」

「ふむ……、確かに集落を潰し回ったのは俺だが、オーガの集落を教えるメリットはなんだ? もしかして、敵対しているオーガの群れがあるとか?」


 その動機なら、納得は出来る。しかし、その考えは否定された。


「いや、私が産まれた場所、故郷である集落を潰してくれ。何かの目的があり、集落を襲っていたなら、オーガの集落を潰しても問題はなかろう?」

「……わからん。なんで、故郷を潰させたい? その理由がわからん」


 故郷を潰したいことに嫌悪の感情を持つことはなかったが、意味がわからないような表情になっていた。


「……オーガのことを知らないよな? なら、説明をしたいと思うが…………先に御飯をくれないか?」


 お腹が限界のようで、グゥ~グゥ~と煩かった。面倒臭かったが、話の続きが気になるので、近くにいた動物を狩ってきた。熊だったので、一体だけで充分だった。






「もぐもぐもぐもぐ、ぷばぁっ、助かったよ」

「何日間食べてなかったんだよ?」


 半分ぐらいは余るかと思えば、オーガの食欲は半端ではなかった。狩ってきた熊は骨も残らず、オーガに食い尽くされていた。


「確か、6日間だったな。今は大分治ってきているが、最初は酷いモンだったぜ。自分で飯を取りに行けないぐらいにな」

「ふーん。で、話をしてみろよ? オーガのことを」

「そうだな、オーガという種族は、私みたいな一本ツノがある。その一本ツノがオーガの誇りで、長い程に地位が偉くなる」

「身体の一部の優劣で人生が決まるのかよ」

「あぁ。高潔な一本ツノには鬼神様の魂が宿ると伝えられており、オーガの誇りとなっている。ツノが無い状態で生まれたら、オーガと認められず、処分される程だ」


 ツノが無いオーガは別の魔物だと呼ばれ、生後1日目に処分されてしまう。それ程に、一本ツノと言う誇りを大切にされている。


「つまり、欠けてしまったらーーーー」

「同様に処分される。長年、過ごしてきた家族や仲間であってもな……」


 一本ツノを戦闘中に欠けてしまえば、それはオーガの恥となる。その恥を削ぐために、自決をして鬼神様に謝罪という狂った決まりがある。


「成る程、読めたぞ。お前は自決をせずに逃げ出したんだな。で、仲間に追われて傷を付けられたわけか」

「あぁ、雨の日だったから、雨に紛れて集落から逃げだせたが、傷を負いすぎてな」

「ふむ……、話を聞くには、他のオーガはお前みたいに賢しくないように思えるが、お前が特別なだけか?」


 もし、他のオーガが目の前にいるオーガのように考えて話せるなら、一本ツノの誇りという狂った決まりに疑問を持つ筈なのだ。だが、その決まりを疑いもなく、その鬼神様を奉ることから、知能はそれ程に高くないと思える。

 だが、目の前にいるオーガは人間と変わらず、流通な言葉を操っている。


「それは、スキルのお陰だが、まだ秘密にしておこう。貴女が集落を潰せたら、話そう」

「ふむ…………、まぁ、いいだろう。集落にいるオーガは全滅させるが、問題はないよな?」

「はい。一本ツノに拘り、仲間を殺そうとする種族には着いていけません。それに……皆は私を裏切ったんですよ。その報いを受けさせたい!!」


 オーガは怒りに顔を赤くして血が出そうな程に、手を強く握っていた。聞いていたアリスは裏切りという部分に共感出来た。

 当のアリスも、前世で同僚に裏切られて、罪を被されそうになっていたのを忘れていない。



「そういうことなら、やってやろうじゃないか。お前は…………名前が無いのは不便だな。よし、俺が名前を付けてやろう!」

「えっ?」


 オーガは反応に遅れてしまった。アリスは呆気に取られたオーガを無視するように、名前を勝手に付ける。


「ちょっ、まーーーー」

「待たん。お前の名は……」


 アリスはスリムな体型をしたオーガの容姿を見つつ、ロドムの姿を思い出すと、執事服に似合いそうだなと思った。というわけでーーーー




「お前の名は『バトラ』だっ!!」




 オーガの名が決まった。

 だが、この時のアリスは知らなかった。魔物へ名前を与えると言う意味をーーーー









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