第42話 結果
爆発が起こった所には、一つの影が立っていた。その影は左腕が欠けており、何も言わないまま、目の前にいる存在を睨んでいた。
その影はフォネスで、先程の攻撃で死ぬことは無かった。左腕は欠けているが、今も少しずつ回復していっているので、致命傷からは遠い。
アリスは木を支えに倒れたままで、睨んでくるフォネスの眼から逸らすこともなく受けて止めていた。
フォネスは驕っていた自分に情けないとイラつきつつ、自分にダメージを与えたアリスを内心で黙って褒めていた。魔王である自分に左腕を欠けさせるというダメージを与えたのは、凄いことだ。こんなことは魔人でも難しいのに、まだ魔物の範疇であるアリスにやられたのだから。
感心しているのと同時に、脅威も少しながらも覚えていた。ここで消しておかないと、いつか災いを呼ぶ存在となると予想出来たからだ。
アリスはダメージが深いのか、動けないまま近付いてくるフォネスを睨むしか出来なくなっていた。
「……お見事と言っておきましょう。まさか、王者能力(キングダムスキル)を使わせてしまうとは思いませんでした」
「くっ、やはり、あの爆発は……」
そう、フォネスは咄嗟に王者能力(キングダムスキル)の『幻焔王(グラナエル)』を使って、強化された魔王爪(サタン)を防いでいたのだ。もし、使わなかったらフォネスの身体が半分に別れていた可能性もあった。魔力の盾を破壊された後、左腕が斬られている途中に爆発を起こして、自分の腕を犠牲にアリスの攻撃を防ぐことに成功していた。
「やはり、見逃すには少々危険です。ここで消えて貰います」
「ま、まだだ……、俺はここで終わるには……」
フォネスとの力の差を見せられてもなお、アリスの心は全く折れていなかった。まだ身体が動いていたら、フォネスに突撃していただろう。それぐらいの気迫がアリスにあった。
それでも、動かない身体は動いてくれない。フォネスはアリスの首を掴み、持ち上げる。もうトドメを刺すつもりだ。
「次があれば、いい人生を過ごしなさい」
元の姿に戻った左腕に青く燃える焔を纏い、アリスの核へ突き刺そうとする。アリスの右眼へ――――
だが、その腕は動かなかった。横から誰かに掴まれており、攻撃を止められていた。
「……邪魔をするのですか。ロドム?」
「ホホッ」
腕を掴んでいたのは、アリスの影から現れた執事のロドムだった。ロドムは笑みを浮かべながら、自分の主からのお言葉を届ける。
「我が主からです。『あの娘は我の観察対象だ。生かしておけ』と……」
「何、見逃せと言うのか? こいつは間違いなく、いつかこの世界に災いを呼ぶぞ」
「|それでもです(・・・・・・)」
掴まれているアリスはロドムの主であるミディに助けられたのを理解したが、内心は悔しさで一杯だった。だが、指一本も動かせない状態では、何も出来ないまま話を聞いているしか出来なかった。
「……はぁ、もし、こいつが世界の害となる存在になったら、お前達が始末しろ。あの方の手を煩わせるな」
「ホホッ、わかっております」
「……」
フォネスはトドメを止め、アリスは地面に降ろされた。
「アリスと言いましたか。貴方の目的は人間の復讐と言いましたが、世界に害を成すのは止めた方が賢明ですよ。長く生きたければね……」
フォネスはそう言葉を残して、瞬間移動でこの場から消えた。残ったアリス達にロドムは顔を見合わせ、苦笑していた。
「ホホッ、危なかったですね。まさか、もう魔王とぶつかるとは思いませんでしたよ」
「くっ」
「とりあえず、回復したらこの場から離れるのが良いかと思います。では」
ロドムも自分の影に潜るように消えていった。完全に魔力を感じ取れなくなったことから、フォネスの瞬間移動と似た能力だと予想出来た。
それよりも、アリスは攻撃が全く通じなかったことに憤りを感じていた。この程度では復讐をするには力が全く足り無過ぎる。
「くっ、クソオオオオオォォォォォォ!! もっと力が欲しい!!」
アリスの身に宿す復讐心、怒り、虚しさが更に膨れ上がって、右眼が強く光っていた。アリスの膨れ上がった心の感情に呼応するように、暗く光った眼がアリスを魔物に生まれ変わらせた物質である闇の残滓を吸収していく。足りない部分を補うように、自分の一部へと構成していく。
同時に、頭の中へいつもの声が流れてきた。ただ、いつもの言葉と違って、機械じみた感触を感じられた。
《検証致します。王者能力(キングダムスキル)の取得に力が足りえるか。闇の残滓、『狂気発作』、『激昂発作』、『人形遊戯(ドールフェスティバル)』を材料に、『暗闇眼(ダークネス)』を進化させます。
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
結果……半々成功しました。
王者能力(キングダムスキル)『狂凶王(アジ・ダハーカ)』を獲得致しました。ただ、魔力が上限量に達してないので、能力の一部に封印を施すことで使用が可能になりました》
《通常スキル『瞑想』が希少スキル『明鏡止水』に進化致しました》
《闇の残滓、『高速思考』、『明鏡止水』を材料に希少スキル『自心支配(マイコンラート)』を進化させます。
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
検証中……
結果……成功しました。
王者能力(キングダムスキル)『完全無欠(パーフェクトマイコンラート)』を獲得致しました》
《魔力量が上限に達し、更に闇の残滓の影響で歪な進化になります。狂剣体(ソフィア)から魔歪体(ドレリアス)に進化致します》
アリス達から離れていたフォネスは、突然に向こうから魔力の増幅を感じて、足を止めていた。背筋が凍るような冷たくて暗い魔力に、その魔力量に思い当たることがあった。
「この魔力、王者能力(キングダムスキル)? まさかね……」
フォネスはアリスが王者能力(キングダムスキル)を手に入れたとは考えてなかった。実力は高いと言え、まだ魔物で王者能力を受け入れるような器には見えなかったからだ。
ロドムからの言葉もあり、無視することにした。その判断に後悔することになるのはもっと後のことだった……
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