第57話 クリスチャス王子



 王の間には、二人の影だけが残っていた。クリスチャス王子は側に護衛を置かず、魔王アリスと相対していた。アリスにしたら、何人いようが、どうでも良かったので言葉を交わすこともなく魔王爪を伸ばした。


「叫んだと思えば、いきなり攻撃をするか。まるで獣だ」


 爪はクリスチャス王子が座っていた王座を貫いていたが、本人には一つの傷は付いてなかった。頬の横を通り過ぎていたからだ。


「俺のことを知らないとは言わせんぞぉ!!」

「はぁ、お前とは会った覚えはねぇな」


 クリスチャス王子はアリスのことを知らないと言う。そうだろう、魔物になってから、一度も会った事はないのだから。だが、アリスは罪を悔い改めさせる為に、教えてやる。相手が嫌いな敵だとしてもだ。


「エリーナ。この名前は聞き覚えがあるだろ?」

「エリーナ……? あぁ、ヘカーテ家のか! それに何の関係があるのか?」

「まだ気付かないのか。エリーナは人形を持っていたことに」

「人形、持っていたな――――っ、まさか!?」

「そうだ!! 俺がその人形だ!! 魔物になって、復讐を誓った!!」


 ようやくクリスチャス王子も相対している敵のことが誰だったのかわかり、とても驚愕していた。


「ク、クカカカカカ!! まさか、あの人形が魔物……いや、魔人か。魔人になって復讐してくるとはな!! 希少な経験をしているじゃねぇか、俺はよ!?」

「俺は既に魔王になった。お前を殺すために魔王アリスとして、強くなってきたぞぉぉぉぉぉ!!」

「魔王ね、あの頃からまだそんなに時間は経ってねぇと思うが……魔王だとしても、問題はねぇな!!」


 アリスが魔王だと知っても、クリスチャス王子はまだ余裕も持っていた。自分が殺した少女が持っていた人形が復讐してきたことには驚いたが、何も恐怖を浮かべてはいなかった。それどころか、相手が魔王だとしても自分は勝てるというような雰囲気を持っていた。

 それで、アリスは一つの推測が当たりそうな気配を感じていた。アリスが魂の濃さを見てから、一つの推測が立っていた。ヨハンがあり得ないと言っていた現実が――――




「相手が魔王なら、本気で行かせて貰うぜ!! 悪魔王と契約して、手に入れた力を味わうといい!! 王者能力(キングダムスキル)『傲慢王(ベルゼート)』をなっ!!」




 クリスチャス王子の背後に、一つの巨大な影が現れた。実体ではないが、『傲慢王(ベルゼート)』を発動した瞬間に出るようになっていたようで、契約した悪魔王の姿があった。


『悪魔王、第四位のベルゼートです。貴方が契約者を害する敵ですか?』

「喋れるのか?」

『そうです。敵で間違いないのなら、私が相手をさせて頂きます!!』

「なっ!?」


 クリスチャス王子の足元を見れば、影がベルゼートと言う悪魔王の実体として、この世に顕現しているのがわかった。


「これが俺の王者能力(キングダムスキル)『傲慢王(ベルゼート)』だ!! 悪魔王の分身を支配し、相手を消し去ることが出来る!! 俺の手を出すこともなく!!」


 その言葉で『傲慢王(ベルゼート)』はアルベルトが使っていた『執行者(サバクモノ)』に似ていると思った。ただ、その規模が全く違っているが。

 アルベルトは色付きの天使程度だったが、クリスチャス王子は天使の最上存在である、位階持ちと同様に力量を持っている悪魔王なのだ。それを一つのスキルだけで分身と言え、本体と変わらない力量を持つ存在をクリスチャス王子は自由自在に使えるのだ。

 契約をしているといっていたが、見た目ではクリスチャス王子が代償を払っているようには見えなかった。


「悪魔を呼び出すのに、代償を払うのは俺だって知っている事だ。しかし、お前に払っている様子がないのはどうなんだ?」

「そこに気付くか。そうだ、俺は一欠けらも何も払ってねぇからなっ!! 呼ぶごとに生贄を毎回準備させているからな!!」

「……なるほど。思ったよりのクズ以上だったな」


 王城の地下、クリスチャス王子しか立ち入らないような場所で死体が積み上げられていることを、クリスチャス王子はそう示唆していた。自分も人間を殺すことに躊躇しないが、仲間なら大事にする。目の前にいるクズは仲間であっても、必要なら生贄にすることにも躊躇は全く無かった。実際に、クリスチャス王子の護衛だった人も、地下で動かぬ屍となっていた。






「相手が悪魔王だとしても、お前は必ず殺してやる!!」

「やってみやがれぇ!! ベルゼート、塵一つも残すな!!」

『あぁ、わかった』


 今ここ、魔王と悪魔王の戦いが始まるのだった――――








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