第67話 焔氷の不死鳥
朱雀が『愚焔』と『愚氷』を操るようになり、体力と魔力を奪われ、幽腐鬼からトドメを刺されて倒れていく兵士が増えていく。聖騎士、竜騎士、勇者であっても、『愚氷』の効果を発揮された吹雪によっていつもの実力を発揮出来なっている。
「これはヤバイかも」
『そんなことを言っている場合かッ!? お前のスキルでなんとか出来ないのか!?』
「でも、魔法は全く効かないし、スキルによる攻撃でも魔力を使っているから黒い焔を突き抜けるのは難しいよ。そして、近付こうとしても吹雪があるんじゃなぁ……」
リントは出来る術がなかった。リントのスキル、『超幸運』とは別の希少スキルである『模倣者(マネルモノ)』の力を持っても、朱雀には通じない。『模倣者(マネルモノ)』の能力は、見たことがある技を模倣することが出来る。完成度は上乗せする魔力量とイメージが鍵になり、場合によっては本家を超える技を放つことが出来る。しかも、見たことがある技は忘れていない限りは、いつでも好きなのだけ使えるようになるのだ。発動に必要なスキルを|持っていなくても(・・・・・・・・)。
だが、朱雀相手には今まで見たことがある技を持っても、通じないのはユアンの放った技が通じなかったことから理解できていた。無駄撃ちをすることなく、ガロに乗ったまま隙を窺っていた。もしかしたら、朱雀を纏っている黒い炎が弱まる時があるかもしれないと希望を持って。
「わかんねぇ、いつ魔力が切れるんだよ。あれを使っている間は間違いなく、魔力が減り続けている筈なんだけど……」
少し観察を続けたが、朱雀本体から魔力の減りが全く感じなかった。『愚焔』、『愚氷』の能力を発現しているなら、魔力か体力などのエネルギーを使っている可能性が高い。なのに、朱雀は魔力が減ったり、疲れた様子を見せることはなかった。
『確かに、魔力が減っているようには見えないな。他から供給されているか?』
「あぁ、他から魔力を使っている可能性か。塔の中にいたなら、お手上げだわ」
『おい! あっさりと諦めるな!?』
「だってよ、あの黒い焔を超える攻撃を放たないと本体まで当たらないよ? 見た限り、アレを突き抜ける攻撃を出来るような人がいない」
『むっ……』
リントの言う通り、ここにいる人達は『愚焔』を超える攻撃を行える者がいない。ユアンが一番攻撃力を持っていたが、それも通じていなかった。本気を出しているかはリント達にはわからないが、ここで出し惜しみをしていたら負けるのは理解している筈だ。
「ここで一番強いのはユアンだと思うけど、本気を出していると思う?」
『わからん。だったら、聞いて見るか?』
「だな。すぐ向かって!!」
リントとガロは前線で刀を振るい続けているユアンの元へ向かう。
「ふっ!!」
朱雀へ三之太刀、四之太刀と一振りだけでありえない現象を起こして、攻撃をし続けていたが……
「ゴガァァァァァ!!」
「チッ! 全く効いていない!!」
「ユアンさん! こっちに来てください!!」
「お前は……!?」
『失礼するぞ』
ガロが炎を吐き、目暗ましをして一瞬だけ隙を作り出した。その一瞬でガロはユアンを捕まえていた。
「何をする!?」
「すまない! さっきので本気の攻撃か?」
「む、いや、まだ本気ではない。本気を出すには少々の溜めが必要になる。しかし、この戦場では――――」
「わかった! まだ本気を出していないのだな!」
『なら、やることは一つ。リントは技を見せてもらって、他に強い攻撃が出来る者を集めて、一点に集中させる!』
リントとガロの考えは、ユアンみたいな攻撃力が高い人を集めて、一点に集中して朱雀へ攻撃をする。その為に、ユアンの最強である技を一度だけ使って貰い、リントもその技を使えるようにする。
「ユアンさん、その技は発動に時間がかかるのか、威力を高めるために時間が掛かるのか、どちらなんですか!?」
「発動するだけなら……すぐ出来るが、あの化け物には威力が足らんぞ」
「構いません! 私の能力は――――…………」
「成る程、さっきのはそういうことか」
リントのスキル、『模倣者(マネルモノ)』のことを説明し、ユアンを納得させた。納得してもらったことで、近くにいた幽腐鬼を的に技を発動して貰った。
「この技は魔力を込めただけ、威力が上がるシンプルな斬撃だが――――五之太刀『絶斬(ズイ)』」
さっきまでの現象とは違い、一振りだけで一太刀の技だったが、威力は溜め無しでも先程の技よりも強く、重い。的にされた幽腐鬼は頭から両断され、一撃で簡単に切り伏せた。
「シンプルだからのこそ、この威力だ」
『それを時間を掛けて、溜めれば――――』
「あの朱雀でも切れそうだな……よし、ガロ! ゼルクとビアドも加えて、攻撃を仕掛ける。他は足止めをして貰うのが一番だが!?」
『ワシもそう思う。指揮者に伝えるぞ!!』
ガロは念話で指揮者にこれからの策を伝え、兵士達や勇者達にも伝達して貰った。リント達は前線から少しだけ離れた場所で、ゼルクとビアドを待ちつつ、見せてもらった技の溜めを始める。
「話は聞いた。後のことを考えずに撃った方がいいな」
「任せろ」
後からゼルクとビアドも合流し、それぞれが最強だと自負している攻撃の発動準備を始めた。朱雀の方はこっちに気を止めず、向かってくる兵士達の相手をしていた。こっちの攻撃を受けてもダメージを受けない自信があるのか、ただ向かっている兵士に気を取られているのかわからないが、リント達にしたらチャンスである。
兵士達や勇者達に数分と言う時間稼ぎをしてもらい、遂に準備を終えた。
『朱雀はこっちを見ておらん。同時に撃つのだ――――今だッ!!』
「「五之太刀『絶斬(ズイ)』!!」」
「『金蓮龍破(ゴルドバースト)』!!」
「『豪炎槍突牙(エミストリアド)』!!」
四人の勇者による最強の技が発動され、全てが朱雀へ向かう。こっちを見ていなかった朱雀は防御をすることもなく、最強の技を喰らっていた。
ドバアァァァァァァァァァァァ――――――――ン!!!!
上空で凄さ増しい爆発が起き、その閃光が戦場を包む。だが、閃光は一瞬だけで戦場が混乱することはなかった。その束ねられた一撃が朱雀に直撃したのを見た兵士達は歓声を上げていた。アレほどの威力を受けて、消え去ってはいないと信じていたからだ――――
だが、もうもうと煙が漂う中、影がはっきりと見えるようになると、兵士達の歓声がピタッと止まる。
「嘘だろ、アレを受けて――――生きているのか!?」
『まさか、これだけの威力でも無駄だったのか――――?』
リント達も驚愕していた。あの一撃は皆が出せるだけの最強の技だったはずだ。それを受けてもまだ生きていることに顔を歪めないでいられなかった。
煙が完全に晴れ、現れたのは少しだけ傷が付いた朱雀の姿だった。傷が付いているといえ、致命傷とは言い難かった。先程の攻撃でアレしかダメージを与えられないなら、もう人間側には出来る事はなかった。
「もう駄目なのか――――」
誰がも絶望するような表情を浮かべる中、よく通る声が戦場に響いた。
「人間はこの程度しか出来ないだろうな」
その声が聞こえた瞬間に、朱雀が青い炎に包まれ、苦しそうに暴れ始めた。そして、身体を包んでいた黒い焔を燃やすように青い炎の輝きが強まっていく。
「ゴガァァァッ!?」
「うるさいなぁ」
「所詮は獣ですから」
青い炎とは違う攻撃が苦しんでいる朱雀に向かい、その身体を簡単に貫いて、地へ落としていた。そのことに唖然とする人間達、誰がやったのかと周りを見ると、朱雀より上に三つの影が浮いていた。
『なっ、何故! あいつらが!?』
千年前から生きているガロだけがその正体を知っていた。その三つの影は――――
「裏切り者を消しに行きますよ」
「ついでに、この騒ぎを起こした魔王もね」
「はぁ、私達がこんなくだらないことに動く事になった魔王は許すことは出来ませんね」
千年前から生きている魔人、そして現在では魔王と呼ばれている存在がそこにいた。しかも、元は魔神ゼロの配下だった者。
その三人は――――――――魔王フォネス、魔王シル、魔王マリア。三人の魔王がこの戦場へ現れたのだった――――
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