第35話 制約
空中でワイバーンの群れを蹴散らしたアリスだったが、空中を飛んだり駆けることも出来ないので地面に向かってフライダイビングをする所だった。
マキナのゴーレムに優しく受け止めてくれたから、無傷で済んだが。
「はぁ、無茶をするなよ……」
「無茶じゃない。ただ、後のことを忘れていただけだ」
「それも無茶とも言うんだよ……」
呆れて溜息を吐くバトラ。アリスはその溜息を他所に、どうすれば空中を自由自在に動けるか考え込むのだった。
「ワイバーンの死体はどうしますか?」
「勿論、魔力は吸い取るとして……」
「あ、鱗や骨とかくれるか? 『武器錬成』で鉄よりは強いの作れそうなんだ」
『武器錬成』は材料が必要になり、ワイバーンみたいな竜種から取れる素材は強い武器が出来る。今迄は鉄だけで作っていたから、確実に前よりは強いのを作れると確信していた。
「ほぉ、魔物の素材からも作れるんだ?」
「硬くて、鉱石に馴染む素材だったらね。皮や肉からは無理だけど」
「肉から出来た武器とかキモイだけだろ」
「私の『巨兵創造(ゴーレムクリエイト)』に似ているね。使える素材が大体決まっているから」
スキルは其れ程に自由自在で便利ではない。創造関係のスキルは材料が決まっていたり、戦闘のスキルも制約などもある。
例えば、アリスが持つ『魔爪』は魔力を沢山込めても、伸ばせる距離が決まっていたり、伸ばした爪の形を変えたりは出来ない。『魔爪』は進化の影響で10メートルまで伸ばせるようになったり、”一文字”みたいに五本の爪を纏めて50メートルにすることが出来るが、それは制約内の範囲内であるからだ。また進化すれば、まだ伸びる可能性もあるが、魔力が多いだけでは限界を超えて伸ばすのは無理ということ。
「ゴーレムは人の形をしていないと、駄目なんだよな?」
「う、うん。動物の形は出来なかった。人の形にしないと、最初に出来た出来損ないの変な形になって、すぐに崩れちゃう。上半身だけでも人の形をすれば、なんとか出来るけど……」
この前に街を襲ったゴーレムは、上半身が人の形で下半身がスライムだったのは、下半身を機動力がある馬の形にしようとしたから、失敗した結果なのだ。
「まぁ、いいか。今はワイバーンをさっさと回収しないと魔物に食い荒らされてしまうぞ」
「えっと、落ちた場所は……うん、私のゴーレムが必要だね」
谷の底に落ちたワイバーンもあり、それらはマキナのゴーレムに任せることにし、アリスとバトラも手に届くワイバーンだけを取りに行く。
「あ、そうだ。片手だけのゴーレム……わかるか? 山から生やして伸びる手を作れるか?」
「言いたいことはわかりましたけど……」
「人の形と言っても、人の手と同じ形をしていれば、制約から外れないんじゃないかな」
「……わかりました。やってみます!!」
出来るかわからないが、アリスからの頼みだ。それを断わることは無く、試す事に決めた。
「うーん、片手だけのゴーレムね……」
2人は別の場所にあるワイバーンを回収しに行った。谷の側に立っているのはマキナだけで、谷の底にあるワイバーンを引き揚げようと行動し始める。
「人の形なら、片手だけでも大丈夫だよね。『巨兵創造(ゴーレムクリエイト)』発動!!」
核を地面に埋め込み、人の手をイメージした。そしたら、マキナの前で地面が揺れて盛り上がっていく。次第に、手の形をしたゴーレムが出来ていく。
「出来るんだね……でも、伸ばすとコントロールが難しそう……」
マキナは人間の手をイメージしたから、関節が出来ていて手順を間違えたら谷の底にあるワイバーンを回収することが出来なくなる。
「まずは、このまま谷の底に行けるように準備しておいて……」
肘となる場所を曲げて、指先を谷の底に向ける。肘から先を伸ばせばワイバーンに向けていく筈だ。マキナが力を込めるとーーーー
「え、えいっ!」
5本の指が伸びた。
「間違えたぁぁぁぁ、あ、指でも回収出来そう……」
指が伸びてしまったが、掴んで回収するには問題は無さそうだったので、このまま回収することに決めた。
「細かいコントロールはもっと練習をしないと……うぅぅっ」
ワイバーンを掴んだ指は少しずつ元の姿に戻るように縮んでいく。落とさないように、潰さないように力加減も気を付けてワイバーンを引き揚げていく。
初めての試みだから、何処かでコントロールを間違えてしまう程に難しいコントロールをしていたが、マキナは魔力の操作が微細な所までもコントロールが出来ており、一回も落とさずにワイバーンをマキナの隣まで引き揚げることに成功したのだった。
「ふぅっ、出来た……。もう少しコントロールの練習を増やさないと」
マキナは空いた時間、深夜にゴーレムをコントロールする練習をしていた。この前に街を襲った時のようにゆっくりと動かすだけなら、問題はない。だが、人間のように動かすのはまだまだ練習が足りない。アリスが人形を操作するのとやり方が似ているが、アリスは既に人間のように動かすことが出来る。それを目標にして、毎日毎日、深夜に自己修練をこなしている。
「よぅし、頑張ろう!!」
まだ谷の底にあるワイバーンを引き揚げようと頑張って、コントロールに集中するのだった…………
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