第13話 ネームドモンスター

 



「グォぇッ……、気持ち悪りぃ……」

「だから、止めようとしたのに……。名付けは死ぬ場合もあるんだから」


 バトラと名付けられたオーガは呆れていた。名付け親であるアリスは横になっていた。今のアリスは魔力欠乏で暫くは動けない状態だった。

 どうして、魔力欠乏の状態になっているのかは、名付けに起因する。

 魔物へ名付けをすると、ネームドモンスターに昇格され、名を付けた側から魔素と魔力を譲渡されて、名を付けられた者は強化される。

 現に、バトラはさっきより強くなっていた。種族は大鬼(オーガ)のままだが、変異種になっていた。スリムな体型だった身体に女性特有の丸みを帯び、先程のよりも女性らしくなっていた。


「お前は女だったのかよ……」

「言ってなかったっけ……というか、気付いてなかったのかよ」


 アリスは今まで男性だと思っていた。短髪で胸も無かったし、喋り方が男っぽかったから男性だと思っていたが、名付けをするとよりに女性らしい体型になって、男喋りのオーガは女性だったことに気付いたのだ。


「バトラか。まさか、魔人でもないのに、名付けをして生きているとはな」

「まさか、魔素と魔力を譲渡する行為だと思わなかったぞ……。下手したら死んでいたな」


 名付けや魔素についての情報はバトラから聞いており、少し賢しくなったアリスであった。

 バトラは新しいスキルを獲得したようで、自分のステータスを見てうんうんと頷いていた。


「どうやら、私はアリスの配下になったみたい。称号に出ていた」

「はぁ!?」


 ステータスを鑑定で見ようと思ったが、スキルが見えてしまうことに気付き、やめた。

 オーガの集落を潰した後に見せて貰えばいいやと思いつつ、身体を慣らしていく。


「魔力は回復出来るが、魔素は元に戻らないんだな。また集めるしかないな……」

「え、集めるって? 魔力を集めるならわかるけど、魔素を集めるなんて……」


 そんなの特別なスキルがないと不可能だと言いかけた所で止めた。まさかと思い、震える声で聞いてみる。




「まさかと思うけど……、あるの?」

「当たり前だ。じゃなかったら、言ってないだろ」


 アリスはバトラが言いたい事を察して、すぐ返事を返していた。身体は疲れない仕様だが、魔力欠乏になると体力が落ちたような気分になる。オーガの集落を攻める前に、ゴブリンやオークなどの弱い魔物で魔素と魔力を集めてから攻めた方がいいと判断した。


「ネームドモンスターって、どれくらい強いんだろう? 自分は変異種だから比較に出来ないんでな」

「変異種ではない、ネームドモンスターねぇ…………心当たりはある。確か、東にネームドモンスターのゴブリンがいた筈だ」

「ほぅ。東か、まだ行ってない場所だな。近いなら、行ってみたいが案内は出来るか?」

「集落の場所が変わっていなければ、案内するには問題はない。1日も掛からずに着く」


 オーガの集落へ行く前に、ゴブリンの集落へお邪魔することに決めた。ネームドモンスターのゴブリンと戦うために。


「あ、ちょっと待ってくれ」

「ん?」


 そろそろ動き出そうと思った先に、バトラが何かを思い出し、アリスを呼び止めていた。


「武器が必要だ。作ってから出発しよう。アリスは何も持ってないようだが、得物は何を使うんだ? ついでに作ってやるよ」

「武器を作るって、鍛治のスキルでもあるのか?」

「あぁ、覚えたてだが、武器はないよりはマシだろ」

「ふーん。武器はバトラが必要のだけ作ればいい。俺の武器はこれだからな」


 そう言って、短い『魔爪』を見せてやる。そのスキルに関心したように、『魔爪』の鋭さに見惚れていた。


「へぇ、『魔力操作』を持っているのか? それにしても、精密で鋭く尖らせてあるな。そんな細かいことも出来ることに驚きだ」

「こっちもその知識量に驚きだよ。それもスキルのお陰か?」

「そうだよ。それより、武器を作るから周りを警戒してくれるか? 10分もいらないからさ」


 武器を作るのに、10分もいらないことに普通に槌を使って打つ訳じゃなさそうだ。バトラは集中が必要なのか、周りの雑音を消し去っていた。




「ーー『武器錬成』」




 バトラの両手から魔力が集まり、少しずつ地面から材料となる鉄鉱石の屑を吸収して、屑は鉄鉱石そのの物に変わっていった。

 その鉄鉱石が形を変え、上空に伸びるように細長い武器が出来上がった。


「槍か?」

「あぁ、いい材料があれば、もっと質が高いの作れるんだがな。ここから少し削るから」

「ふーん、武器が壊れても新しいのを作れるのは便利だな」

「戦闘中は無理だけどね」


 刃の部分を少しでも殺傷能力が高くなるように、削っていく。アリスは周りを警戒してみたが、姿は何も見えず、気配もしない。削っていく音を聞きながら今後のことを考えるのだった…………








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