第48話 勇者王



 勇者王、千年前に生まれた英雄のことだ。勇者カズトは世界を揺るがした魔神ゼロを討ち取り、平和を勝ち取ったことから勇者王と歴史に名を残した。激戦の後、自分自身の身体が強力すぎる能力に耐え切れず、亡くなってしまったが――――その子孫はいた。

 カズトに想いの人がいて、一緒に冒険をして来た女性に種を残していたことがわかり、その女性と子孫は帝国によって大事に扱われていた。千年経った今でも、その子孫は続いていた。世界を救った英雄の子孫として、神の力が働いているかのように全員が類稀な力を持って生まれていた。


 今の子孫はアルベルトと言う名で、ルーディア帝国で過ごしている。実力はSSSランク相応の力を持っており、勇者王の子孫として魔物や魔人を狩って、平和を守っていた。アルベルトはもう20歳でそろそろ結婚のことも考えている頃になっていたが――――




 その子孫に闇が覆うように、敵がルーディア帝国へ襲ってきた。




「準備は出来たか?」


 アリス達は既にルーディア帝国の近場まで近付いていた。そう、これからルーディア帝国を襲うのだ。


「はい! アリス様の言う通りに、ゴーレム隊を作りました」

「こっちは出来るだけ武器を作っておいた。ヨハンからの材料もあったから、大分良いのが出来ているぞ」

「よろしい。兵士どもを抑えるのは任せる。数が足りないと思ったら、ヨハンから提供された死体集合体と言う奴も使え」

「死体集合体ね、千年前の戦争でも使われたから出来るだけ今は隠しておきたいよね」

「あぁ、俺もそう思うが、自分の身が危ないと思った時だけに使えばいい。これだけのゴーレムがいれば、充分だろ」


 アリスが勇者王の子孫、アルベルトと戦っている間を持たせる事が出来れば問題はない。もし、ゴーレム隊が全滅しても、アリスが勝てばそれで終わりなのだから。無理して、ルーディア帝国を潰す必要はない。




「行くぞ。『天来無塵(カタフロスト)』発動!!」




 アリスが兵器を発動した。まず、ルーディア帝国に混乱を与えておく。魔力は全てアリスが受け持っており、魔力は前より結構増えているから十分の一だけで前回と同じ規模で撃てた。

 ルーディア帝国の上空には魔力の塊が留まり、そして大量の雷が落ちてきた。

 聖アリューゼ皇国と同様に、突然のことに街にいた人は反応することが出来なかった。その攻撃だけで数百人が死んだ。今回も人形を地中の中に潜めている。ただ、人形より人に近い存在で擬人という生き物になっているが、アリスは人形と呼んでいる。


「今だ、正面からゴーレム隊を突っ込ませろ」

「はい!!」


 ルーディア帝国は山に囲まれており、入り口が正面にしかない。馬鹿正直に真正面から行けば、奇襲だとしても被害は大きくならないだろう。――――だが、アリスはゴーレム隊をあえて、正面から行かせていた。


「俺は行くぞ。お前達はゴーレム隊を任せたぞ?」

「死なない程度にやるよ」

「活躍して見せます!!」


 アリスだけが別行動をする。ヨハンから教えてもらった、真正面の正門ではない、ルーディア帝国の囲む壁を抜ける道へ向かっていく。今のアリスは右眼が全て黒いこと以外は、人間と変わらない姿をしている。右眼を眼帯で隠せば、何処でもいるような金髪の少女が人間の街を歩いているのと同じだった。何処も悲痛な叫び声が上がっており、アリスはそれらを冷たい目で見回していた。




「やれやれ、人間は脆いな」




 潜入に成功したアリスは、真っ直ぐと皇帝が住まう城へ向かう。アルベルトは、今日の午前に皇帝の間へ向かう予定があると。それもヨハンが調べていたようだが、どうしてそこまで知っているのだろうかと疑問を浮かべたが、今は勇者を殺す事だけを考える。


「着いたか」

「待て!! お前は何処の――――」

「うるさい」


 アリスは最後まで言わせるつもりもなく、魔王爪であっさりと門番の人を殺した。ただ、威力が高過ぎたため、周りの建造物も壊れてしまった。それで、城にいた人に襲撃が起こったことを知らせてしまった。


「まぁ、いいか」


 それでも気にせずに城の中へ入っていく。次々と兵士達が襲ってくるが、アリスの相手にはならなかった。そして、今までの兵士とは違う人が出てきた。


「待て、何者だ――――っ!?」

「ほう、避けたか」


 今までと同様に容赦なく爪を振るったが、避けられた。虫を払う程度の力だったが、今までの兵士とは違うとわかる。


「面倒臭いから、こっちの要求を言うからね。ここにいる勇者王の子孫、アルベルトを出せ」

「む、皇帝を狙ったわけじゃない……?」

「そんな雑魚はどうでもいいから、場所を教えてくれない? 無駄に兵士を殺されたくはないでしょう?」

「……このまま、行かすのは聖騎士としては失格だろうが……私ではお前に勝てそうは無いな。わかった、教えてやるから、兵士には手を出さないでくれ」

「いいよ、時間を無駄にしたくないし」


 聖騎士の男性は本気で戦っても、勝てないとわかるぐらいの実力があると理解した。だから、勇者に任せる事にしたのだ。それから、被害が少しでも減るようにと、お願いする事にした。

 アリスはゴーレム隊が他の兵士を抑えているうちに、事を終わらせたかったから、聖騎士の願いを受けることにした。






 アリスのことをどうやって伝えていたかわからないが、兵士訓練場に一人の男が立っていた。その男こそが『勇者王の子孫』、アルベルトだ。日本人の姿で黒目に黒髪で、魂の色がとても濃かったから、すぐアルベルトだとわかったのだ。


「下がってくれ、ここにいては、巻き添えをくらう」

「わかりました、御武運を……」

「兵士は見逃すけど、聖騎士は別よ?」


 アリスは聖騎士を見逃すと約束してないと言うように、案内をしてくれた聖騎士を斬り裂いていた。


「なっ!? 何をしている!! 聖騎士は既に戦意はなかったはずだ!!」

「そんなのは戦争では通用しないよ。殺すか、殺されるかのどちらかよ」

「くっ! 非道な魔人だ。貴様、名を名乗れ!! 何処の魔王の配下だ!?」

「魔王の配下? ふざけるな」


 アリスが大量の敵を引き連れた魔王の配下だと思われているようだった。ヨハンから少しの助けが会ったといえ、魔王の配下ではない。


「俺はアリス。魔王へ成り、人間どもを全滅するために生まれた!! まず、お前を殺して、俺の礎になって貰う!!」

「魔王へだと? なら、ここで消えて貰う!」


 アルベルトは皇帝から授かった魔剣を構え、アリスを睨む。アリスもさっきの侮る視線を控えて、真剣な目で魔王爪を構えていた

 勇者王と子孫と狂気なる人形魔人による戦いの幕が開かれるのだった――――






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