第50話 赤の天使
上空に現れた天使は八枚の羽を生やしており、覇気もただの魔人に出せる様なレベルではなかった。『執行者(サバクモノ)』は天使を召喚するスキルだったようで、アルベルトの戦力が増えてしまった。
「赤の天使よ、卑劣なる魔人を消せ!」
「畏まりました」
今のアリスは左腕を斬られたままで、『英雄者(タオレヌモノ)』で不具合を移されたので、勇者と天使を同時に相手にするには厳しい状況だった。それでも、アリスは逃げの手は無い。
「天使を召喚するスキルも持っていたのか」
「消えよ、『聖火槍』!」
「ちっ!」
赤の天使と呼ばれた者はアリスの言葉に耳を貸さず、早速に攻撃をして来た。火と光の複合魔法であり、魔人であるアリスが触れただけで消し去られそうな雰囲気を感じ取った。天使から放たれる攻撃を避けるだけなら、アリスなら難しくは無いが……
「切り裂け、『空斬』!」
『聖火槍』を避けた先には、聖錬剣による攻撃が飛んでくる。軌道は剣本体を見ないと避けられないので、同時に攻撃されると危険だ。それに、身体の調子も悪いのも相まって、アルベルトの攻撃を受けてしまった。
「くっ! アルベルトぉぉぉ! お前を消せば、天使も消えるだろ!?」
アリスは重い身体を必死に動かして、アルベルトへ向かおうとする。だが、その脚はすぐ止まった。天使の方からやばい程の魔力を感じたからだ。
「なっ!?」
「言っただろ。一瞬で終わらせると」
赤の天使は両手を挙げて、赤く光る輪を生み出していた。そこから凄さ増しい魔力を放っているのを感じ取っていた。おそらく、一撃でアリスを消し去る事ができるような威力だろう。
「『赦火世輪(オーバーリアスト)』――――」
赤い輪から聖なる光を宿した炎が一線の光になって、アリスの胸を中心に貫いた。貫かれたアリスは一言を発する事も無く、灰になって消え去った。
その様子を見たアルベルトは倒したかと安堵していた。もし、見逃してしまったら、更に強くなって人間の敵である魔王になって現れていたのだろうと確信していた。とにかく、まだ未熟な内にこっちへ襲ってきてくれて良かったと――――
「安心するのはまだ速いんじゃないかな」
「えっ? ぐあ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ――――!!」
安堵していたアルベルトに声を掛けられていたのは、灰になった筈のアリスだった。アルベルトの後ろに回ったアリスは声を掛ける同時に両足を斬り落としていた。
「なっ、なんでだ!?」
「貴方は消えた筈―――」
「簡単な事だ。あの光線を受ける前に、あるスキルを使って避けたんだよ」
アリスは擬人の身代りスキルを使っていた。このスキルは一日に三回しか使えないが、有用なスキルだと考えている。擬人を三体、収納で準備させておき、攻撃される瞬間に入れ替わることで攻撃を回避できるのだ。入れ替わった擬人の姿はアリスとは変わらない姿になり、本物は視界に入れられる場所へ転移できる。
アリスは無装備のアルベルトをすぐ殺す事もできたが、それでは天使が消えてしまう。だから、すぐ殺さないで脚を奪った。
「さて、アルベルトより天使の方が強そうだから、力試しをさせて貰うぞ」
「馬鹿な魔人だ。契約者を殺せば、私と戦う必要はなかったのに」
「それでは駄目なんだよ――――」
アリスは今まで、『超速思考』と『激狂発作』は使っていない。特に、『激狂発作』を使えば、苦戦もせずに勝てるとわかっているからだ。まず、『超速思考』だけを発動しておく。
「天使は大量の魔力を溜め込んでいそうだな――!? だから、死んでくれよ!!」
「魔王ではない敵に遅れを取る私ではない!!」
赤の天使は位階を持っている大天使にはかなりの差があるが、色の階級を貰えるほどの強者である。赤の色は火魔法を得意しており、聖の力である光魔法の複合魔法で悪者を燃やし尽くす力を持つ。召喚された回数は少ないが、全ての結果は一瞬の間で燃やし尽くすことで終わっていた。だから、魔王でもない敵に遅れを取ることは無いと自信があった――――
「遅いな……」
アリスの方では、『聖火槍』を放たれているのを眼で見ていたが、こっちに届くまで数秒は掛かりそうな感覚を味わっていた。これがフォネスが感じていた世界なのかと納得しつつ、ゆっくりと向かってくる『聖火槍』を歩くだけで避けていく。
「……は?」
天使側から見れば、アリスは緩やかな動きをしているように見えるのに、攻撃が全く当たってないのだ。おかしいと感じるのが普通であろう。アリスから余裕を感じ取り、恐怖が生まれたのか全力の攻撃を放つことにしたのだ。
「――――っ、『赦火世輪(オーバーリアスト)』ぉぉぉぉぉ!!」
この攻撃は赤の天使が使える中で、一番スピードを持つ技でもある。それが発射されたが――――
「やれやれ、勝負にならないな」
「さ、避けた……?」
「遅過ぎるんだよ」
『超速思考』を発動したアリスにしたら、その攻撃でも、遅過ぎるぐらいだった。もう勝負にならないと思い、終わらせようとしたが…………六角形の光る盾が天使を守っていて、爪を弾かれた。
「ん、これは『守護者(フセグモノ)』だったか」
「今だぁぁぁ!!」
脚を斬られたアルベルトだが、天使をサポートするだけは可能だった。攻撃される天使を守ったのは、『守護者(フセグモノ)』で強固な護りを誇っている。天使は今のうちに接近戦で拳をアリスに攻撃しようとしていた。遠距離からの攻撃が避けられるなら、接近戦でやるしかないと判断していた。強固な盾があるなら、攻撃に集中できると考えた天使だったが、その考えは甘かった。
「やれやれ、接近戦なら勝てると思ったか?」
「いつの間に後ろへ……」
「くっ、『守護者(フセグモノ)』!!」
「ふん、今度はその程度で止められると考えるな。『回天突(スパイラルショット)』」
アリスは盾があろうとも関係ないというように、爪先に魔力を集めて、回転を加えながら飛ばした。その回転はヨハンから貰った魔剣の能力だ。それも吸収したから、使える能力が増えており、一点に集中され、回転も加えられた魔王爪は盾ごと天使の胸中心を貫いていた。
「こ、この私が、ここで――――」
天使にも核がある。それを壊されてしまえば、活動を停止されてしまう。アリスはすぐ魔力を吸収した。そして――――
《魔力のある上限量を超え、一つの能力が開放されました。『眷属増殖』を取得致しました》
アリスは新しいスキルが増え、更に強くなったような感触を味わったのだった――――
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