第21話志岐家への訪問②

 誠意を尽してくれた辰夫さんの心配を払拭する為に、俺はすぐさま返事をした。


「もちろんです。むしろ大切な娘さんの相手が俺みたいな男で申し訳ありません。もう既にお聞きになっていらっしゃるとは思いますが、私の口からきちんとお話しさせていただいても宜しいでしょうか?」

「もちろんだよ、聞かせてもらえるかな?」


 そうして俺は2人に今までの事、志岐さんが俺に言ってくれた事を話した。

 俺の初めてを奪った人の部分については彼女の名誉の為にも伏せたが……。


 話を聞き終えた2人の反応は少し異なっていた。晴子さんは悲しそうな表情を……、辰夫さんは複雑そうな表情で感情が読み取れなかった。


「親としては君との交際を認めるべきではない・・・・・・・・・のかもしれない。少しだけ昔の話をしていいだろうか?」

「はい……」

「中学生の頃の亜依は聞いてるかもしれないが、どちらかと言うと引っ込み思案でオシャレにも興味のない様な子だった。多分それは私達の所為なのだよ。40を超えてから授かった子でね、私達は亜依が可愛くて仕方なかった。でも周りの友達の親御さんは私らよりも遥かに若くてね。授業参観の時とか、揶揄われていたのを見た時はショックだったよ。行くのを辞めようかと聞いた事もあったのだが、自慢の両親に自分の成長を見て欲しい。そんな揶揄ってくるような友達なんて要らないって言ってくれたんだ。その時の私の気持ち……まだ君には分からないと思うが、それに似た様な経験は既にしているのではないかい?」

「はい、仰る通りです。娘から向けられる親愛の情に嬉しいと思った事は数えきれない程あります。美織のいない人生は今の私には考えられません」


 辰夫さんは、娘を持つ父親同士・・・・として俺と話をしてくれている。だから俺もそれに応える様に本音でぶつからないと失礼だと思った。


「話を聞いた時は、正直君じゃなくても……と思った。だけど、あの子があんなに嬉しそうにしているのを見ると応援したいと思ってしまうんだよ。ほとほと娘に甘いだろう?」


 そう言って寂しそうに笑う辰夫さんに……そんな顔をさせてしまった事を申し訳なく思った。


「ただ、君達はまだ子供だ。美織ちゃんの事もある。だから今すぐ付き合う事は認める気はない」

「はい……当然のご判断だと思います」

「君は本当に大人だな……。なぁ、嶺田君。聞かせて欲しいのだが、君は亜依の事が好きかい?」


 それは昨日、志岐さんにも伝えた事だ。彼女の両親に言うのは躊躇されたが、誠意を持って接してくれる2人に嘘はつきたくなかった。


「ご両親にこんな事を言うのは失礼だと思いますが、その質問の答えを私はまだ持ち合わせてません。ただ、志岐さんには自分の傍で笑っていて欲しい……そう思っています」

「それは好きという事ではないのかい?」

「どうなのでしょうか?彼女に縋っているだけなのかもしれません。彼女の事を可愛いと思っています。彼女が泣くと胸がギュッと締め付けられます。ですが恋を知らず父親となった私にはその理由がよく分からないのです」


 2人は一瞬驚いたものの、俺に聞こえない程度の声で話し合い、何故か納得していた。


「君は今からたくさんの感情を知るだろう。私は君にそれを教えてあげられるのが亜依である事を願っているよ」

「あなた、そこは私ですよ……」

「そうだったな……すまんすまん。話を戻すが、美織ちゃんの事を踏まえても付き合うのは認める事はできない。だけど友達以上恋人未満・・・・・・・・でほぼ恋人みたいな・・・・・・・・関係・・なら認めよう。2人でゆっくりと進んでいきなさい」

「………っ!?ありがとうございます……」


 志岐さんのご両親からとりあえずでも認めてもらえた事に心が震えた。自分の娘だけでなく、俺達にも愛情を傾けてくれているのが伝わってくる。


「さぁ、私達に愛らしい孫候補・・・を紹介してくれないかい?亜依の部屋は出て左にまっすぐ行った奥の部屋だよ」

「ありがとうございます、すぐに迎えに行ってきます」



 足早に2人の待つ部屋に向かったのだが、俺はすぐさま1人で辰夫さん達の元に戻る事になる。

 その理由を知ってもらうには実際に見てもらった方が早いと思い、ご両親と一緒に志岐さんの部屋に改めて向かった。


 手を繋ぎ向き合って眠る2人の姿を見て、部屋のドアを閉め起こさない様に和室に戻った。


「あれは流石に起こせないな」

「ええ……本当に……」


 2人が嬉しそうに話しているのを見て、つい笑みが溢れた。


「嶺田君……いや優希君。改めてよろしく頼むよ」


 志岐さん達が起きるまでの間、3人で穏やかな時間を過ごすのだった……。

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