第16話『Side A』③
美那さんから公園で助言された通り、私は今日から優希君を無視……距離を置くと決めていた。どうやら無視されると人は意識してしまうものらしい。
『好き避け』という駆け引きらしいのだけど恋愛初心者の私にはよく分からない。
そんな事をしてますます嫌われないかな?と心配になっったけど、美那さんは
教室に着くと、まだ優希君は来ていなかった。あっきーの姿が教室にあった事にホッと胸を撫でおろす。昨日の内に事情を話し協力者になってもらったのだ。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
「何が?」
席に着くと、あっきーが心配そうに……尋ねてきた。
「昨日も言ったけど、ちゃんと話したほうがいい気がする」
「でも……美那さんが言うには『好き避け』が効果的なんだって。優希君は恋愛に臆病だから正攻法はダメ、変化球で攻めるべしって……」
恋愛経験に乏しい2人が話した所で、他に良い案が思いつく訳でもない。
「まぁ、言っても美那さんって綺麗じゃん?あのレベルならそれもアリかもだけどさ……。とりあえず彼が来たら私はいつも通り挨拶するからさ。亜依は頑張って無視してね!!」
「あっきーお願いね。私も視線を向けない様に頑張るからっ!!」
私にとって、ツラい1日がこうして幕を開ける。今日までの私は気づけば優希君を目で追っていて、積極的に話しかけていた。今日からはそれが出来ない。
授業中に我慢出来ず優希君の方を何度か見たが、一度として目が合う事はなかった。
結局、彼が私なんて意識してないと思い知らされるだけだった。
放課後、私とあっきー以外が居なくなった教室。
この後予定がある為居残っている私達は、ひと足先に今日の反省会を始める。
「あっきー、優希君って私の事気にしてる雰囲気あった?」
「…………いや、ないかな……」
「………だ、だよね……」
お互い気まずい空気を感じ、歯切れの悪い会話となってしまう。
「亜依、やっぱり無視するだけってのはダメだよ」
「でも私どうしたらいいか分かんないし……」
「まぁ、ちょっと聞きなさいって。こう見えて私、恋愛漫画は結構見てるんだよね。経験こそないけど、知識は同い年の子には負けないと思ってる」
へぇ、あっきーってそういうのを見るんだ。私は見ないから、すごく大人に感じた。
「私凄い事思いついたよ」
「ほんとっ!?」
自信に満ちた顔をしたあっきーを見て、私は前のめりに立ち上がった。
「どうどう、落ち着きなって」
「ひどい……私馬じゃないのに」
そうやって口を尖らせる私に向かって苦笑いを浮かべるあっきー。
「とりあえず、続きは美那さんと合流してからするね」
「え……お預け……なのっ!?」
「勝手に私達で話を進めたら仲間外れみたいでしょ?」
「た、たしかに……」
あっきーの言う事はごもっともだった。私が美那さんの立場だったら、知らない所で話を進められて嬉しいとは思わない。
そんな当たり前の事すら気づけない程、冷静さを失っていた自分を恥ずかしく思った。
「話は変わるけど昨日、亜依が帰った後の話していい?」
「あ、うん。いきなり帰っちゃったから迷惑かけたよね….…」
「自分を責めないって約束で聞いてほしいんだけど……」
先程までの雰囲気は霧散し、あっきーの雰囲気が重苦しいものとなった。
「起きて亜依が居ない事に気づいた美織ちゃんさ?泣きながら家中をを探し回ってた。凄い騒ぎだったから大介起きちゃってさ。気を遣った嶺田君に帰るよう言われたんだけど……正直見ていて可哀想だった……」
「美織ちゃん……」
美織ちゃんを悲しませてしまった事実を知り、胸がギュッと締め付けられた。
自分の事しか考えていなかった自分を恥じた。
「美織ちゃん、なんで亜依にあんなに懐いているんだろうね……。まるで
空気が重くなったのを感じたのだろう、あっきーが茶化してくる。
でも、それに応える余裕は私にはなかった。
「あ、そろそろ行こうか。美那さんとの約束の時間に遅れちゃう」
「本当だ……急がないと」
美那さんの指定したお店は、隣駅の近くにある落ち着いた感じのカフェだった。
到着すると、既に美那さんがお店の前で待っていた。
「亜依ちゃん、聖音ちゃん…こっちこっち」
黙っていても人目を引く美人がそんな風に大声を上げたら……心配は的中し、周りの視線を集めた美那さんは恥ずかしそうにしていた。
中に入ると、テーブル席が個室みたいな作りになっていた。他の人の視線を気にせず話が出来るので、1人でゆっくり考えたい時にたまに使うお店との事だった。
飲み物を注文し到着するのを雑談を交えながら待った。
「さて、これより第1回優希攻略会議を開催します」
飲み物を届けにきた店員さんが去った後、真面目な顔をして美那さんがそう切り出した。
私は耐えたが、あっきーはダメだったらしい。笑いが止まらず、美那さんが恥ずかしそうにしていた。
落ち着きを取り戻した美那さんがコホンと一つ咳をして気持ちを切り替える。ようやく会議が始まった。
まずは今日の学校の様子と昨日私達が帰った後の優希君の情報を交換し、反省点を挙げていく。
無視しても疎遠になるだろうという意見で一致したのだが、
反省会を早々に切り上げ、今後の話に時間を割く事にする。
「それで私に名案があるんです。美那さんの話を聞いて確信しました、今度は絶対にうまくいきますよ」
そう言ってニヤリと笑うあっきーに少し心配になるが、何の案も浮かばない私は藁にもすがる思いだ。
「他の男の影を匂わせればいいんです。そうだな……私の友達が女の子を紹介して欲しいと言ってる事にするんです」
「いいじゃない、聖音ちゃんなかなかやるわね。そのシチュエーションだと、普通ならヤキモチを焼くわよね。優希は絶対亜依ちゃんの事気になってるから何かしら反応があると思うわ」
好きと言っておきながら、振られてすぐに他の男の子と遊びに行くって……節操なくないかな?
そんな私の思いとは裏腹に、私を置き去りにしたまま話はどんどん進んでいく。
本当に2人を信じて大丈夫だよね?心に一抹の不安が過った……。
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