第15話出生の秘密
「それで、何で2人が来てるんだ?」
「いや、それはその……」
「私は真面目な話と聞いて子守役が必要かなと……」
言葉に詰まる志岐さんと、理屈が通ってそうにも聞こえる言い訳をする鈴木さんにジト目を向ける。
昨日、前に進む覚悟を決め2人に電話した。俺自身の心の準備期間と相手の都合を考え
それなのにどうして昨日の今日で2人がいる?この状況を招いた元凶……についての推測はおそらく間違っていないだろう。
2人が来るやそそくさと幼児2人を伴って別室に退避した人物がいる。美那さんだ。この時点で、ほぼ間違いなくクロである。
「今日は2人に聞いてほしい話だから、子守りは美那さんに任せてくれて大丈夫だ」
2人に打ち明ける時は、元々そういう話ではあったのだ。ただ、今日だとは思わなかっただけの話だ。
「分かったわ。私も聞いていいのね?」
「逆にこっちが聞きたいのだが、鈴木さんは話を聞く気はあるのか?別に聞くなというつもりではない。聞いてて面白い話じゃない、聞かなければ良かったと思う可能性の方が高い」
俺は最終確認をする。ここで鈴木さんにしか聞かなかったのは、志岐さんは昨日の電話した時点で覚悟を決めていたからだ。
「聞きたい気持ちと聞きたくない気持ち……正直な所半々だったわ。でも私の目的の為にも、ここで逃げちゃダメだと思ったの。だから覚悟を決めてここに来たの」
「そうか……分かった」
俺は志岐さんを見た。彼女は強張った
「まずは前回も話した事から……」
そう言って前回話した事を補足を入れながら説明していく。
親が心中した事……葬儀の日の祖父母だった人達の行動……結果美那さんが勘当された事……そして俺が登校拒否になった事……。
2人とも目に涙を浮かべながらも黙って聞いていた。
「ここまでが前回話した事とその補足だ。問題はここからだ。その前に一息入れよう。一気に話したから少しだけ疲れた」
疲れたなんて嘘だった。ここまでは補足があったとはいえ前回話した内容でもあった。
ここまでなら同情されるだけで済んだかもしれない。だが、真実はそうじゃない。その事を知れば2人はきっと蔑みの目を俺に向けてくるだろう。その心の準備をしたかっただけである。
「…………それで、話したかったのはここからなんだが………」
思わず言葉に詰まる。嫌悪を抱かれずに伝えられないかと、この後に及んで取り繕おうとする自分が情けない。
そんな俺の様子を気遣う様に……
「ちゃんと聞くから。思ってる事をありのまま話して」
志岐さんはそう言って俺に微笑みかけた。俺は今度こそ覚悟を決めた。
「ありがとう、もう大丈夫だ。経緯はちゃんと話すが、長くなると思うから先に結論から話す」
小さく息を吐き、そのまま告げる。
「美織は妹なんかじゃない。俺の
「えっ……娘……!?」
驚きの声を上げたのは鈴木さんだけ。志岐さんは顔を強張らせてはいるが一言も発さないでいた。
「まぁ、驚くよな。俺達の年齢を考えたら普通にあり得ない。その前提を踏まえてこれからの話を聞いてほしい」
父さんと母さんの関係は、元々は会社の上司と部下だったらしい。
母さんがその当時付き合っていた彼氏が暴力を振るう最低な奴で、その男との関係を切る為に尽力したのが父さんだった。
だが、母さんは既に働けない程に心身共に衰弱していた。他に頼る人もいない母さんを見かねた父さんが、自分達との同居を持ちかけた。
『俺は仕事でほとんど家にいないから……もし良かったら息子の面倒を見てほしい』
当時の状況は知らないが、きっとこんな事を言っていたのだと思う。
一緒に住んで分かった事は、母さんは男性に対して恐怖心を抱いていた。それは父さんに対しても同じで、母さんが心を許せるのは当時小5だった俺だけだった。
母の愛を知らなかった俺にとって、母さんは初めてそれを与えてくれた人だった。
出会った当初はまだ結婚していなかったらしく、俺が直ぐに懐いた事で父さんは結婚を申し込んだと後から知った。
そして時は流れ小6の春。俺は精通をした。引っ込み思案で、そんな話を出来る友達もおらず、性の知識に乏しかった俺が相談したのは帰りがいつも遅い父さんではなく母さんだった。
「これが全ての始まりだった。知らなかったとは言え、俺は母さんに言われるまま行為に及んでしまった。一度でなく何度も……」
俺には普通に見えていた母さんだが、既に壊れてしまっていたのだろう。大切にされていると知りながらも、その父さんに心を開かない自分が許せなくて誰かに縋りたかったんだと思う。
しかしながらこの関係はそこまで長くは続かなかった。理由は母さんが妊娠したからだ。避妊もせずに行為に及べば、そうなる事は時間の問題だっただろう。
せめて父さんともそういう行為をしていれば、どちらの子供かなんて分からなかっただろうが、それは無理な話だった。
この時点でも母さんの男性恐怖症は治っておらず、父さんとは結婚後も一度として行なっていなかったのだから。
この事実を父さんが知ったのは、もう産むしか選択肢が無くなった頃だった。母さんはお腹が目立たない体質だった事もあり、隠しきれなくなるまで告げずにいたのだ。
事実を告げた日、2人が言い争う姿を初めて見た。俺もその話に参加していたが、途中から部屋に戻る様に言われた。
翌日、父さんとこれからの話をした。離婚はせず、産まれてきた子は父さんの子供として育てると……。
俺はごめんなさいと泣きながら謝る事しかできなかった。それに対して父さんは怒るでもなく、放任していた事をただただ謝罪していた。
こうして、母さんは美織を産んだ……。
大人だからと言って、現実を誰もが受け止められるわけではない。
結果父さんは命を絶つ決断をし、その原因を招いた母さんもその罪悪感から一緒にこの世を去った。
美那さんに全てを押し付けた事は許せないが、それだけだ。俺が2人に対して恨み言をいう立場ではない。
せめてあちらの世界で仲良くして欲しいと願ってしまうのは俺の心が弱いせいだろう。
祖父母だった人が、俺を穢らわしいと思うのは理解できる。俺は言われて仕方のない人間だ。
だが美織は?何も知らずに産まれてきたあの子にどんな罪があるのだろうか……。
「話はこれで終わりだ、俺に関わらないでくれと言った理由が分かっただろ?わざわざこんな男に関わるだけ時間の無駄なんだよ……」
2人は呆然とした表情を浮かべている。その様子を見て、きっとこれで終わりだろうと思った。
少しばかりの時間、沈黙が部屋を包んだ。時間にして1分?実際は10秒程だったかもしれない。感覚的には分からないが、志岐さんが最初に重い口を開く。
「私は……」
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