第8話約束の日曜日

 あっという間に時間は流れ、約束していた日曜日が訪れた。

 昼ご飯を皆で食べる事になっているので、朝から美那さんと2人で準備に取り掛かる。

 美織もお手伝いを申し出てくれている、本当によく出来た娘である。


「優希、今日は何を作るの?」

「美織から大介君の好きなものを聞いてるから、それと美織の好物を中心に作る予定だよ」


 大介君は唐揚げ、美織はハンバーグとの事だったので、唐揚げの方を美那さんに任せる事にした。


「ようやく亜依ちゃんと会えるのね。楽しみだわ」


 美那さんがこういうのには理由わけがある。

 今日に至るまで美織と志岐さんは何度かビデオ通話をしており、その流れで既に美那さんとも面識があるのだ。


 適度に会話をしつつも最初の料理を完成させ、次の料理に取り掛かる。


「俺はオムライス作るから、美那さん次はスープお願いしてもいい?」

「任せて!!と言ってもお湯で温めるだけだけど」


 スープに関しては、子供向きにコーンポタージュにした。

 美織の好物で、大介君にも喜んでもらえるだろうと仕事帰りに美那さんがデパートで買ってきてくれたものだ。


「そんな事ない、わざわざ買ってきてくれただけで感謝だよ。美織、コーンスープ嬉しいよな?」

「みおり、このスープすき!!みなちゃん、ありがと」

「あ〜もう。美織は本当に可愛いなぁ〜」


 そう言って、美織を抱き上げている。


「美那さんに美織も。遊んでないで出来上がった料理をテーブルに持って行ってくれ」

「「はーい」」


 折角の幸せな空気を壊すのは躊躇われたが、時間も迫ってきているので2人を嗜める。

 オムライスを作り終わる頃、タイミングを見計らった様にチャイムが鳴った。

 モニターでゲストの3人が映っているのを確認し、美織にお迎えをお願いした。


「あいちゃん、あきねちゃん、だいすけくん、いらっしゃいませ」

「こんにちは美織ちゃん。今日はお招きありがとね!!」

「うわっ、嶺田君の妹さん相変わらず可愛いな〜」


玄関先から、弾んだ声が聞こえてくる。


「あいちゃんたち、はやくはやく」

「「お邪魔しま〜す」」

「おじゃじゃします」


 リビングのドアが開き、4人が入ってきた。


「いらっしゃい。優希と美織の叔母の柏木美那です」

「叔母さんですか!?え、若っ。美人だし……マジですか!?」


 過剰なまでの反応をしたのは、鈴木さんだった。

 とは言っても、志岐さんも初めて美那さんとビデオ通話した日に同じ反応をしてたのだが。

 褒められて美那さんも満更ではない様子だ。


「もう28歳だから叔母さんよ。でも嬉しいわ、お名前を伺っても?」

「あ、すいません。鈴木…鈴木聖音です。こっちは弟の大介です」


そう言ってお辞儀する鈴木さんと、それを見て大介君も同じ様にお辞儀する。


「これはご丁寧に」


そう言って美那さんもお辞儀を返す。


「そして、亜依ちゃんもようこそ。初めましてと言うのも何だかおかしい気がするけど」

「確かにそうですね。改めまして志岐亜依です、美那さん初めまして!!今日はお招きいただきありがとうございます。これケーキ買ってきたので良かったら……」

「気を遣わせてしまったわね。ありがとう、後で皆でいただきましょう」


 手ぶらで本当に良かったのだが、やはりそうはいかなかったか……。

 こうして自己紹介は無事に終わった。


「顔合わせも終わったから、まずは昼食にしようか」


 俺の合図をきっかけに始まった昼食はとても騒がしいものになった。

 とは言っても、会話をしているのは主に女性陣だけで俺と大介君はその様子を見ているだけだ。

 大介君はじっと美織を見ているが、美織はそんな彼の事なんてお構いなしで楽しんでいる。

 彼の言い出した事を発端に今日があるのにな……。少しだけ気の毒に思ってしまう。


「大介君、ご飯はどう?」

「お、おいしいです」

「それは良かった。いっぱい食べて行ってくれ」


 美織の件で、本当なら敵意を向けたいはずの相手に、なんで俺が気を遣っているのだろうか?

 しょんぼりしている大介君を見ると、どうしても励まさずにはいられなかった。


「ご馳走様でした、凄く美味しかったです!!」

「良かった。亜依ちゃん達が来るからって、朝から優希と張り切って作ったのよ」

「えっ!?優希君も作ったのですか!?」


 別にこれぐらいなら誰だって出来るだろうに大袈裟だなと思ったが、『どうしよう、私料理出来ない……』と志岐さんが言っていたのは聞かなかった事にしておこう。

 ここで謙遜したら嫌味にしか聞こえないだろうし、触れない事がベストであると判断した。


 食器を流し台に運び、食後の飲み物と持ってきてくれたケーキをお皿に入れて並べる。

 最初に大介君に選ばせようとしたら、『みおりちゃんをさきに』と紳士的な対応をみせた事に舌を巻く。


「だいすけくん、ありがと」


 美織から笑顔を向けられて、慌てて視線を逸らす姿がとても可愛らしい。


 そんな様子を見て、美那さんが大介君を気に入る事になるのだが……あれだけ反対してたのだからもっと厳格にしてほしいと恨みがましく見ると目を逸らされた。


 遊びに来てから美織と話す機会がほとんどなかった大介君が可哀想だったのと、俺からも志岐さん達に話があったので、美那さんが幼児2人を連れてリビングを後にした。


「たぶん気になってる事があると思うんだけどさ……」


 美織の部屋のドアが閉まる音を確認し、そう言って俺は話を切り出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る