第19話友達以上恋人未満でほぼ恋人

「私は……」


 志岐さんは静かにそう切り出そうとして、下を向き黙り込んでしまう。

 当然の反応だと思った、俺が聞かされた側の立場ならなんて声をかけたらいいかなんて思い付きもしない。

 隣に座る鈴木さんが心配そうに志岐さんを見つめている。やはりダメだったかと諦めかけた時、志岐さんは先程の続きを話し始めた。


「私は、やっぱり優希君が好き。付き合いたいと今でも思ってる。でも……」


 そう言って顔をゆがめる。その続きは聞かなくても分かる。


「もういい、それ以上は無理に言わな「不謹慎だって分かってるけど……私は優希君の初めてを奪った相手が気になって仕方がない!!」」

「「…………はぁ!?」」


 鈴木さんと思わず顔を見合わせてしまった。どこをどうしたらその発想になる?これは俺を馬鹿にしているのだろうか……。


「ちょっと亜依っ!?嶺田君は話しづらい事を真剣に話してくれたのよ?それは流石にふさげすぎだって……ちょっと私でも引くわ」

「ふざけてなんかない!!ちゃんと聞いてたよ!!色々な不幸が重なったって事でしょ?同情するのは簡単だけど、私が考えるのはそこじゃない」


 普段の感じからは考えられない鬼気迫る様子の志岐さんが居た。


「過ぎてしまった過去は変えられない。私が考えるべきはこれから。優希君、美織ちゃん、美那さんとどう向き合っていくかだよ」

「…………」

「誰が悪いとかじゃないの。故人を偲ぶ気持ちは忘れないで欲しい。でもさ?いつまでも囚われているのを知ったら……優希君のご両親はきっと悲しいと思う。だから未来を見ていかないといけないの。だからこそ私は優希君を全力で支えたい」


 後半だけならきっと心が動かされていたかもしれない。それなら何故最初にあんな事を言ったのだろうか……と思ってしまう。


「いやさ、亜依の言ってる事は分かるよ。私だってこの話を聞いたからって嶺田君と距離を置きたいとか思ってないよ。でもさ?そんなに真面目に考えているなら……さ?なんで最初にあんな事言ったのよ……台無しじゃん」


 俺が思った事を鈴木さんが代弁してくれた。

 あまりの馬鹿馬鹿しさに張り詰めていた空気が弛緩するのを感じた。


「だって……美那さんのお姉さんで、美織ちゃんのお母さんだよ?絶対綺麗な人だって思うじゃん……。私が勝手にライバルだと思ってるだけだけどさ。私そんなに可愛くないし、あっきーみたいな陽キャじゃないもん。気になるし不安だもん……」


 そう言ってしょんぼりする志岐さんだが、少なくとも俺は彼女の事を可愛いと思うし、この少し抜けた明るい性格も好ましいと思っている。


 ちょっと待て……今俺は何を考えた?志岐さんが可愛い・・・だと?

 そんな事を無意識に思ってしまった自分に驚きつつも、急いで頭を振って意識の外にやった。


「ねね、嶺田君。亜依はこういう子だからさ、気にするだけ時間の無駄だと思うよ。秘密を打ち明けてくれてありがと。まだ色々消化しきれてない事はあるけど、でもさ?距離を置きたいなんてそんな悲しい事言わないで今まで通り仲良くしてよ」

 

 2人の気遣いに、思わず涙が溢れそうになるがどうにか耐えた。


「2人ともありがとう……」


少し声が震えていたと思うが、2人は見ぬフリをして感謝を受け取ってくれた。


「それで2人は付き合うの?亜依はまだ嶺田君の事好きなんでしょ。嶺田君の方は亜依の事どう思ってるの?」

「正直分からないんだ……。好ましいか好ましくないかで聞かれたら好ましいと思う。だけど美織の事もある。それに志岐さんは良くてもご両親が反対するのが普通だろ?」

「真面目かっ!!ってそりゃそうか。確かに色々あるから簡単に話進められないよね……って亜依大丈夫なの!?めっちゃ顔赤いけど!?」


 言われて志岐さんを見れば、耳まで真っ赤にした志岐さんが『好ましいって言われた……』と何度も口にしている。


「どうよ?ウチの亜依……可愛いっしょ?」


 いつから鈴木家の亜依ちゃんになったかは知らないが、あえてツッコミは入れなかった。

 しばらくして遠くに意識をやっていた志岐さんがようやくこちらに戻ってきた。


「私も本当ならすぐにでも付き合いたいけどやっぱり難しいと思うんだ。美織ちゃんの事も考えると先ずはお互いをきちんと知らないとだと思う。付き合う為・・・・・に付き合う。友達以上恋人未満でほぼ恋人みたいなポジションを要求します!!」

「亜依、それ長すぎる……」


 鈴木さんは呆れた様にしつつも、志岐さんを見る目はとても優しかった。

 この事実を鈴木さんに打ち明けずにいたら、志岐さんは親友に隠し事をしているという状況に陥っていた。結果、思い悩んでしまっていただろう……。2人に話して良かったと思った。


「嶺田君はそれでいい?」


 鈴木さんが訪ねてきた。


「ああ、志岐さんがいいならそれでいいよ。ただ……一度ご両親と話をする場を設けてもらえないか?」

「優希君、志岐さんじゃないよ。今からは亜依って呼んでね」

「ひゅーひゅー」

「もう、あっきーは茶化さないで。今大事なところなんだからっ!!」

「分かったよ亜依。どうだ頼めそうか?」

「うん、それぐらい大丈夫っ!!いつにする?早い方がいいよね!!明日祝日で学校休みだし明日にしよう。予定ないか聞いてみるね」


 話はトントン拍子で進み、明日ご両親に挨拶に行く事となった。



 話が終わった事を伝えに行き、美那さん達と一緒にリビングに戻る。

 居るはずのない志岐さんを見つけた美織は、涙を浮かべながら駆け寄った。

 『あいちゃん、あいちゃん……』と泣きじゃくりながら膝の上に乗り志岐さんに抱きつく。

 志岐さんは美織の頭を撫で続けながら、体を揺らして落ち着かせようとしていた。


 その光景を見て微笑ましい表情を浮かべる美那さんに事の顛末を話した。

 明日頑張ってらっしゃいと声援を送られ、『良かったね』と自分の事のように喜んでくれたのが照れ臭かった。


 その後、美織が泣き止んだタイミングで皆で食事にした。前と変わらず楽しそうに話す女子4人。

 『みおりちゃん…』と寂しそうに小さな声で呟く大介君を見てデジャブを感じるのだった……。

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