第18話『Side A』⑤

 来てしまったものは仕方ないと言って、優希君は先にあっきーだけ部屋に入れた。

 大介君が遊びに来た事にするから、少し待っていて欲しいと。私は玄関の前で1人で待つ。

 どれだけ待ったか分からないけど、玄関の扉が開き中に招かれる。


 リビングに入るとあっきーが既にテーブルの椅子に座っていた。その隣に私も座る。

 キッチンへ向かった優希君が『待たせて悪かった』と言って飲み物を持って来てくれた。


 優希君には昨日の内に、あっきーも話を聞く意思があると伝えていたが最終確認をしていた。

 彼はあっきーの回答に『そっか……分かった』とだけ言って続いて私に視線を向けた。私は無言で小さく頷いた。


 「まずは前回も話した事から……」


 前回聞いた話は本当に一部なんだと分かった。

 ご両親が自ら命を絶った事、登校拒否になった事は既に聞いていたが、祖父母の話と美那さんが勘当されている事は初耳だった。


 遺言状があったとはいえ、親との縁を断ち切ってでも優希君達の面倒を見ると決めた美那さんはどんな気持ちだっただろうか?

 そして、そうさせてしまった事に優希君がどれだけの罪悪感を抱えているのだろうか?それを思うと自然と涙が頬を伝った。


 ここまで話した優希君が、話疲れたから一息入れようと提案した。これは泣いている私達を気遣っての事だと思った。


 静かなリビングで各々物思いに耽る。どれだけその時間が続いたか分からないけど、私達が落ち着きを取り戻した頃に優希君は重い口を再び開いた。

 その様子は、まるで迷子になった子供の様に不安な顔をしていた。


「ちゃんと聞くから。思ってる事をありのまま話して」


 私は彼が少しでも安心する様に、そう言って微笑みかけた。


「美織は妹なんかじゃない。俺のだ……」


 予想すらしていなかった言葉が紡がれた。

 娘……?えっと私達は16歳で美織ちゃんは……3歳。年の離れた妹ではなく娘なの?どういう事っ!?

 私は驚きの余り声を発する事すら出来ずにいた。

 驚きの声を上げたあっきーは凄いなとか他人事の様に思った。


 そこからは怒涛の勢いで情報が流れ込んできた。ご両親の馴れ初めから……禁断の行為に至るまでの経緯。

 話をしている間の優希君からは感情というものが感じられなかった。一見冷静に話しているとも取れるが、多分そうじゃない……。


 優希君はもう壊れている・・・・・。辛い現実を生きる為に感情を殺したのだと……何故か私には思えたのだ。


 この話を聞いても、距離を置きたいとは思えなかった。彼が背負っているものを少しでも軽くしてあげたい……。


 でもこの感情をどう伝えるべきだろうか?どう伝えたとしてもきっと信じてもらえないと思う。


 優希君が恋愛がくだらないと言ったのは私の為だと、公園で美那さんが言っていた意味がやっと分かった。

 そして美那さんの過去の話というのは嘘で、本当は優希君の事を私に遠回しに伝えてくれていたんだ。


 この家族は、不器用ながらも優しい。

 美織ちゃんは多分この事を知らないだろう。年齢的に考えても分かるはずがないし、この事実をいつか告げる日が来るのだろうか?


 私は美織ちゃんのお姉ちゃんとして、そして母としての役割を果たす事が出来るのだろうか?高校生の私にそれは難しいだろう。

 だけど、私なりの愛情を注ぐことは出来る。


 美織ちゃんが私に懐いてくれている理由が何となく分かった、愛情に飢えているのだ。

 あの子は一件我儘そうに見えて、聞き分けがいい。優希君にも美那さんにも遠慮している節があり自分から甘える事・・・・・・・・が少ない。


 この話を聞いて私は美織ちゃんと一刻も早く会いたいと思った。あの子が年相応に甘えられる様に……この気持ちを伝えよう。


 優希君がお母さんを恨めないと言っていた意味……それは恨んでしまえば、美織ちゃんを否定する事になるから……。

 いつまでもお母さんは優希君の心に居座るのだろう。美那さんの双子のお姉さんなんだからきっと凄い美人だったんだろうな……。


 私はもうこの世に居ないライバルに向けて宣戦布告をする。

 優希君の大切なところにいるあなたの事を、必ず追い出してみせると……私で上書きするんだ。

 思い出は美化されるというけど、そんな事は絶対にさせない。ただ、美織ちゃんが産まれた奇跡を絶対に後悔もさせない。


 あなたが捨てた・・・2人を私が幸せにするから見てて下さいね。

 彼を知り己を知らばなんちゃらという言葉があったはず。敵を知る事は重要だ、美那さんは写真とか持ってるのかな?


 どんな美人が来ても私は屈しない……と1人で盛り上がっていたこの時の私に身の程知らずと言ってやりたい。

 写真を見て早々に弱気になった私を励ましてくれた2人の優しさを生涯忘れる事はないだろう……。

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