第11話カラオケ
気まずい空気で幕を閉じた日から一夜明けた。気持ちも晴れず、俺の心を表すかの様な曇り空だった。
「にぃに、きょうはあいちゃんくる?」
「志岐さんは忙しいから来れないって言ってたな」
昨日は昼寝から起きた美織が、『あいちゃんどこ!?』と騒いだせいで大介君が起きてしまった。
そのまま鈴木さん達も帰ってしまい、美織の機嫌はすこぶる悪くなってしまった。両頬を膨らませて怒ってますアピール……宥めるのに本当に苦労した。
「でんわはできる?」
「電話もダメって言ってたな」
何が美織をそこまで駆り立てるのかは知らないが、なかなか引き下がってくれない。俺は小さく溜息を漏らす。
結局保育園に着くまで、美織は頬を膨らせつつもこのやり取りを繰り返していた。
美織を送った後、近くの公園で時間を潰して学校に向かう。その甲斐もあり教室にはギリギリの到着となった。
2人と顔を合わせたくないが、席が近いからそれは叶わない。せめてもの抵抗だった。
「嶺田君おはよう」
「ああ…おはよう」
既に2人は席に着いており、鈴木さんだけが挨拶をしてきた。
返事をする際に、チラリと志岐さんを見る。こちらを意識すらしておらず目が合う事はなかった。
『これでいい』と心の中で何度もつぶやく。
朝の挨拶以降、2人とは会話もする事もなく放課後になった。志岐さんと一言も会話する事のなかったのは今日が初めて。これが日常となるのだろうと考えながら教室を出た。
保育園で迎えてくれたお姫様は、笑顔で走ってきたかと思うと、俺を見るなり朝と同じ様に頬を膨らませる。
「むぅ〜」
「美織、いい加減機嫌を直してくれ……」
なんでいきなり不機嫌になるんだよ。さっき笑ってたじゃないか……。
「あいちゃんは?」
「だから来ないって朝言ったじゃないか」
「むぅ〜」
来ないと言っていたのに、志岐さんが来てるかもと思って笑顔だったのか。先程の行動の意味を
「美織ちゃん、今日はずっとこの調子だったんです」
そう言って苦笑いを浮かべながら、先生が美織の園内での様子を説明してくれる。
聞けば友達に対しても素っ気ない態度を取っていたらしい。
「ご迷惑をお掛けしました。帰ったら美織に言っておきます」
「そういう日もあるでしょうから、あまりキツく怒らないであげて下さいね」
「はい。ほら美織、帰るから先生に挨拶して」
「せんせぃ、ばいばい」
「美織ちゃん、さようなら。また明日ね」
しっかりと美織と手を繋ぎ歩き始める。嫌がられるかと思ったが、キュッと握り返してくれた。いつも通りで安心した。
家に帰り夕食の支度をしていると、美那さんから
志岐さんと電話したいと駄々を捏ねる美織を寝かしつけるのに疲れた俺は、テーブルに美那さんへの書き置きを残しそのまま寝床についた。
翌日登校すると、挨拶をしてきたのは昨日と変わらず鈴木さんだけ。
志岐さんに避けられているのは明確ではあるが、俺からも干渉しようとは思わないのでお互い様である。
「亜依、昨日話してた件の返事どうする?」
「えっと……あっきーには悪いけどあんまり乗り気じゃないんだよね」
「う〜ん、困った。他に誘える人も居ないんだよね」
「…………」
もう用はないとばかりに会話を始める2人。俺もその流れで自分の席に着いた。志岐さんが一瞬だけこちらを見た気がしたが、俺の勘違いだろう。
「そもそも入学したばかりなのに、友達を紹介してとか……言ってくるなよって感じだよね」
「………うん」
「亜依、奢るからさ。私の顔を立てると思って今日だけ付き合ってよ!!」
「あっきー、その言い方はズルいよ。断りにくいじゃん」
「相手の男の子達はほっといて、私達でカラオケ楽しもうよ。どうしても嫌だったら適当に理由つけて早抜けしていいからさ」
チャイムが鳴り始めたので、顔を上げる。すると2人が慌てて目を逸らした姿が見えた。
「もうっ……今回だけだからね」
志岐さんが
俺には関係のない事と思いつつも、志岐さんに良い出会いがあって欲しい。
心の中で、その方
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます