第13話 一度あることは二度ある
「さて、今日はもう宿屋に行きましょうか」
「……安宿に泊まるのか?」
「何を言ってるんですか? たんまりお金があるんです。少し高めの宿にしましょう」
こうやって、少し裕福な生活をするってことは貧乏人の生活を理解する必要が無いということだろうか? それともヒュウランがアホなだけなのだろうか。
「わかった」
表通りから離れたところにあった店を出て、再び表通りに戻ってくるとやっぱり人通りが多いななんて思ったりした。だがその分アホなヤツも増えるようで。
「そこの姉ちゃん可愛いねぇ」
「ぐへへへへ」
男二人組が絡んできた。こいつらは軽く落としたのだが、いかんせん、絡んでくる輩が多すぎる。……ヒュウランってそんなに可愛いのか?
「
「……別に聞いてないけどな。ただ、ちょっとすれば声をかけてくる連中も減るだろ」
「そうですね……。ひとつの町に留まっていればの話ですが」
なんて、不穏なことを言ったヒュウランを無視し、歩くこと約十分。
「ここですね」
「……」
「どうしたんですか」
「いや、意外と普通なところをチョイスしたなと」
「バカにしてるんですか? ちゃんと考えて選びましたよ」
「じゃあその崇高な考えを聞かせてもらおうか」
「えぇ、いいですよ。まず――」
「――お前さんら、こんなところで話してたら通行の邪魔になるだろ」
ヒュウランの崇高な考えとやらを聞こうとしたら後ろから野太い声が聞こえたので振り返ると、顔下半分が隠れるくらい髭を伸ばしたその小さい爺さんがいた。ドワーフか? と思うくらい小さい。いや、多分ドワーフだな。
「宿屋の入り口前で立ち止まって話すなんて、何考えてんだ?」
「すまない、ドワーフの民よ。我々が悪かった」
「けっ、俺ァドワーフじゃねぇ。混血だ」
そう言ってドワーフ……いや、混血の爺さんは宿屋の中に入っていった。
「……貴方、丁寧な喋り方できるのね」
「それくらい出来るだろ。俺をなんだと思ってる」
「自分と自分の子供以外の種族はカスだと思ってる龍」
……否定できないのが辛い。そういう態度をとっていたからそう思われるのも無理は無いが、ドワーフはむしろ尊敬する。昔、俺がこの世界に来る前の世界で、俺の体に傷を与えた者がいた。そいつの種族ってのがドワーフで。なんと、自分で剣を打ち自分で振るうらしい。そのドワーフとは仲良くなったが、数百年程度ですぐ寿命で死んでしまった。
「てめぇこそ口悪女じゃねえか。いや、神の使徒に性別とかないのか?」
「はぁ、うるさいです。ちなみに女で合ってますよ。
なるほど。多分、
◇
――翌朝
「あぁ~。この体やっぱり不便だな」
睡眠と食事を必要とするからだは不便極まりない。2日目にして、龍の姿が恋しい。
ちなみにヒュウランとは別々の部屋に寝た。普通の人間は男女別々の部屋で寝るらしい。
また、昨日の夜は宿屋で提供されたご飯を食べたのだが、可もなく不可もなくであった。昼食が美味すぎただけに、仕方ない。
「エルガ、随分と早い起床ね」
俺に宛てがわれた部屋の窓を開けて欠伸をしていると隣の部屋で同じことをしていたであろうヒュウランから声をかけられる。
「勝手に目が覚めただけだ。それにお前も随分早い起床だな」
「
「なるほど。つまり普通の人間はもっと長く睡眠時間を必要とするわけだな」
「はい、その通りです。それより早く起きたことですし、もう出発しましょうか」
「あぁ」
もちろん、俺の荷物なんてものは無いから、ただ部屋を出るだけで済む。だが、ヒュウランは寝間着に着替えていたらしく、着替えるから待てとのことだ。
そうして宿屋の外で待つこと数分
「おまたせしました」
「平気だ。悠久の時を生きた俺からすれば数分なんてあってないようなものだ」
そう言って歩みを進める。
「そうですか。では行きましょうか」
「あぁ。それで、どこに行くんだ?」
「………。冒険者ギルドです」
うん。なんの溜めだ? あとドヤ顔する意味もわからない。
「わかった。行くぞ」
「無反応ですか。そうですか。てっきり嫌がると思っていました」
「何故だ?」
「昨日、ちょっとした騒ぎになったじゃないですか。なので、気まずいかなと思いまして」
「ますます意味がわからん。俺が他の奴らの気持ちを考えると思うか? もしかしたら今日も俺が来ると思って冒険者ギルドに行かないようにしているやつもあるかもな」
「それそうですね。それじゃあ気負いせず行きましょう」
その後の道中、ヒュウランは注目を集めた。男も女も皆、すれ違いざまに振り返る。「人からすればお前の容姿はよっぽどらしいな」なんて言ったら、「貴方も注目を集める要因ですよ」なんて言われたので、恐らく周りからは美男美女の番いだと思われている。
――ガチャ
ギルドに到着し、ドアを開けると。全員がこちらを向き、静かになる。
「やはり、昨日の今日ではこの反応か」
「まぁ仕方ないわね」
なんて軽口を叩きあっていると、
「おい、来たぞ。ヤツらだ」
「俺は手を出さないぞ。次は殺されるかもな」
「おい、誰が行かないのか? ああいうのは見る分には面白いからなぁ」
どうやら昨日、騒ぎを見ていた連中がほとんどらしく、誰も話しかけに来ない。それは好都合だが。
しかし、昨日この場に居なかった者もいるわけで。
「ヘイ、そこのレディ! このボクとパーティーを組まないかいっ?」
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