第23話 受付嬢の変貌


「とりあえず、街に戻る、で良いのか?」


「逆にそれ以外何があるのよ」


「……ないな。一応聞いただけでは無いか。そんなにキレるなよ」


「無駄なお喋りが嫌いなのよ」


 それを発すること自体無駄じゃないか、なんて言葉は胸の奥に仕舞っておく。


「フェンは空を飛べるか?」


『ワレニソラトブチカラハ、ナイ』(我に空を飛ぶ力は、ない)


「……」


「……」


 フェンの言葉に俺とヒュウランは目を合わせる。どうやら考えていることは同じらしい。


「ヒュウランがフェンを抱きながら飛びたいってよ」

「私よりエルガの方が力があるし、エルガが抱えるのがいいと思うわ」


「……」

「……」


『ソ、ソノ、ワレハハシッテツイテイッタホウガイイカ?』(そ、その、我は走ってついていった方が良いか?)


「それは時間の無駄だ」

「そんな、非効率的なことはしないわ」


「……」

「……」


『キガアウノカ、アワナイノカワカランコンビダナ』(気が合うのか、合わないのか分からんコンビだな)


 フェンこいつさっきからうるせぇな。なんで連れてきたんだっけ。


「はぁ、めんどくさいわね。このままじゃ平行線よ。私が連れていくわ。これで決定」


「お、助かるぜヒュウラ……ン」


 なんと、ヒュウランはフェンの頭を鷲掴みにして飛び始めたのだ。


「え、まじか。えぇ~」


『イ、イタイ』


 フェンは頭を鷲掴みにされながらもなんとか必死に抵抗しているが、いつしか抵抗はなくなってしまった。


「ヒュウラン、お前エグイな」


「うるさいわね。明日からは別の町に行くわよ」


「え?」


 初耳なんだが。


「え、じゃない。あなたが人里に下りた理由は何?」


「何って、神になるためだ」


「あぁ、それも間違ってないけれど! なんで神になるために人里に下りたのよ!」


「人と交流し、人の生活に慣れるため、だな」


 こいつ、無駄な会話はしないとか言ってたよな。わざわざ俺に言わせないで自分で言った方が早いだろ。


「そう。人と交流するため。ダンジョン都市での役目は終わり。次の街に行くって訳」


「ふーん。じゃあ街の奴らはもう会うことの無い奴らってことだよな」


「えぇ」


「なら、空飛んだまま入っても良くないか?」


 だって、そうだよな。今までは問題が起きないように直前で降りて歩いて帰ってたけど、その必要は無くなるってことだよな。


「はぁ、そういう問題じゃないの。人間の情報網は侮れないわ。私たちが飛んで帰ってきたって噂はすぐに広まる。居心地が悪くなる」


「いや、俺居心地とか気にしないし、お前もそういうの気にするようなタチじゃないだろ」


「それはそう。けれど、あなたの、人の生活に慣れる、という目的を果たすためには障害になり得る」


 まぁ、言っていることは間違ってないんだよな。それに、ヒュウランの言っていることに従っとけば、なんとかなる的な感じだ。


「なるほどな。じゃあそろそろ降りるか」


「えぇ」


 そろそろ、街が近くなってきたということで降りることにする。すると、ヒュウランは驚きの行動に出る。


「キャゥン」


 なんと、上空からフェンを落としたのだ。


 幸い、ちゃんと着地出来ていたから良かったものの、頭から落ちたら大変なことななっていた。


「ヒュウラン、お前まじかよ」


「なにか問題があったかしら」


「いやいや、おかしいだろ。フェンをそのまま落とすなんてよ」


「あれでも一応私と同じ、神の使徒よ? 自由落下程度で死ぬわけないじゃない」


 え、あ。そうなんだ。そういう認識でいいんだ。一応動物だし、優しく扱うのかと思ってたけど、全然頑丈な動く物体とでも思えば平気なんだね。


『クッ、ツイニホンショウヲ、アラワシタカ。ヒュウラン』(くっ、遂に本性を表したか。ヒュウラン)


「本性も何も、私は私のままよ。それに、あなたより私の方が使徒としてレベルが上なの。逆らわないでちょうだい」


 どうやら、使徒の中にも上下関係があるらしい。俺も神になったらそういうのに巻き込まれたりするのだろうか……。


「君たちは……」


 街の入口の門まで行くと門番に話しかけられる。


「どうした? ほら、冒険者証だ。なんも問題はないだろう」


「あ、あぁ。それよりそこのウルフは……」


 なんて答えて良いのか分からず、ヒュウランの方を見る。


「これは偶然テイム出来ましてね。ギルドの方へ行ったらちゃんと従魔証明証も発行してもらいますわ」


「そ、そうか。通ってよし」


 ◇


 街に入った俺たちはすぐにギルドへ行った。道中、行きで買った串焼きを大量に購入したので、これでいつでも食べられる。


 ――ガチャ


 時間も相まってか、ギルドには多くの輩がいた。しかし、俺たちが入るとすぐに静かになる。さっきまでは外まで聞こえるくらい騒いでいたのに。


 酔っている奴はすぐに酔いを覚ましたようで、赤い顔から青い顔に一瞬で変化していたりした。


『ヒュウラン、キサマラナニカ、スデニヤラカシテルナ?』(ヒュウラン、貴様ら何か、既にやらかしてるな?)


「……」


「ヒュウラン、白状した方がいいんじゃないか?」


「平気よ。ダメなことしてたら主神あるじからお叱りを受けるもの。でも、受けてない。つまりやってはいけないことをした訳じゃないの」


 そう言って、ズケズケと歩みを進めるヒュウラン。幸い、俺たちにビビってる冒険者連中はその道をあけ、ノータイムで受付まで行けた。


「こんにちは、ヒュウランさん。今回はどのようなご要件で?」


「ダンジョンを攻略したから、その報告に来ただけよ。はい、これ。エルガ、貴方も出して」


「あ、あぁ」


 ヒュウランに言われて金色に輝く冒険者証を受付嬢に渡す。


「……」


 冒険者証を受け取った受付嬢は専用の機器に冒険者証を翳すと黙りこくってしまう。



「あ、あの……」


「どうしたのかしら?」


「これは事実ですか?」


「私たちが虚偽の報告をするとでも?」


「………快挙だァァァァ! 上級ダンジョンがついに! ついに、攻略されたァァァァ!」


「……」

「……」

『……』


 受付嬢の豹変ぶりに驚いて声も出ない俺たち。対して他の冒険者連中はと言うと……。


「うぉぉぉぉ!」

「まじか! あいつらほんとにやりやがった!」

「ほんとか! 嘘じゃないんだな!」

「宴だぁぁぁぁあ!」


 どうやら大事に発展してしまったらしい。



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始祖龍、人里に顕現す ルーシー @Ryutoooooooo

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