第20話 お前はペットだ


「あれは神獣、フェンリルよ」


「神、獣。神の獣か?」


「それ以外何があるのよ」


「いや、神の使徒が獣相手に神獣とか言っていいものなのかなと」


「それは主神あるじへの侮辱かしら?」


どうやら、ヒュウランは目の前の獣……神獣フェンリルを「神獣」と呼ぶことに抵抗がないらしい。それにあいつのことも出してくる始末だ。


「なぁ、フェンリルと神の関係性ってなんなんだ?」


「……神の子と言ったところかしら。私とは姉弟きょうだいと言っても過言では無いわ」


つまり、フェンリルは神が手ずから作り上げた神の子。それだけ言われれば理解出来る。なんせ俺はこの世界最初の生物だから。


この星に最初は俺しか生物がいなかった。しかし、俺、そして我が子がこの星に慣れた頃、神が魔物を。そう、他の世界から。この星にいる生物は皆、先祖を辿れば、別の世界から連れられてきた存在だらけなのだ。中にはこの世界で自然に発生した微生物なんかはいると思うが、9.9割の種族は神が他の世界から送り込んだ種族なのだ。


そしてフェンリル。ヒュウランは、フェンリルを神の子とすら言った。つまりは神が手ずから作り上げたヒュウランと同等の存在。


「そうか。強さは?」


「え、私の説明で理解出来たの?」


「出来たから別の質問をしてるんだ早く応えろ」


「はぁ、せっかちね。フェンリルは神獣だけど、調停者のあなたよりは強くないわ。後、獣モデルだから、人間モデルの私よりも少し弱いくらいね」


「まぁ、俺より弱いのはわかってはいたが、そのモデルというのは神が子を作る時にベースにする種族のことであっているか?」


「その通りよ」


「獣の方が人より弱いのか?」


「説明すると長くなるのだけれど……」


ヒュウランからの説明を要約すると、獣は人より本能的に生きるから、強い力を持たせすぎると、暴れた時に大変なんだとか。要は、理性的な人間モデルの方を野性的な獣モデルよりも強くすることで、獣モデルが暴れた際に、止められるようにしているんだとか。


「ま、この世界に俺がいる限りその心配は無用な訳だがな」


『キサマラ、ワレヲマエニダンショウトハ、イイドキョウダナ』(貴様ら、我を前に談笑とは、いい度胸だな)


「おぉ、喋った。しかも人の言葉」


「エルガ、それ以上はダメよ」


あ、バレた。俺が言いたかったのは、神獣のくせに調停者、神の使徒とのコミュニケーションに人の言葉選ぶなんて、と言いたかったのだ。


「フェンリル。あなた、私が誰だかわからない?」


『フハッ、ワレヲマエニ、イノチゴイカ?』(ふはっ、我を前に、命乞いか?)


「あーあ。あいつ、救いようがないよ。ヒュウラン」


「獣モデルだと、知能も下がるのかしら……」


そう言うと、ヒュウランは何故か力を込め始める。

魔力を集めている……? いや魔力では無い。目に見えない、俺の知らないものだ。


「あら、これが見えるの? ふふっ、エルガ、これは神気という物よ。神の系譜に連なるものにしか使えないの。あなたも神になれば使えるようになるわ」


「はいはい、すごいすごい」


なんか自慢げに言われたので、つまらない反応をしてしまった。


『……ソレハ、シンキ……。マサカ、ワレノキョウダイ?』(……それは、神気……。まさか、我の兄弟?)


おいおい、神気と言うやつを見ただけで、判別出来るなら、最初から判別できるようにしておけよ……。


「やっとわかってくれたわね。あなた、ここのダンジョンの最後のボスかしら?」


『ア、アァ。ソウダ……ソウデス。ワタシガコノダンジョンノサイゴノボスデス』(あ、あぁ。そうだ……そうです。私がこのダンジョンの最後のボスです)


「なんだ、最初からその態度を見せないさいよ。獣としてどうなのかしら。強者を前にした瞬間平伏すのは」


『イヤ、サカラウトソチラノチョウテイシャサマニコロサレソウナノデ……』(いや、逆らうとそちらの調停者様に殺されそうなので……)


「あはっ、よくわかってるわね。じゃあ君、殺してもいい? 主神あるじからは特に禁止されてないから殺すけど」


『イイイ、イヤイヤイヤ、チョットマッテクダサイ。ワタシノホウデアルジカラシジヲモラッテイマス』(いいい、いやいやいや、ちょっと待ってください。私の方で主神あるじから指示を貰っています)


「なーんだ、最初から言いなさいよ。それで? なんて言われてるの」


『オヌシノホウニワガコ……オヌシノアネト、チョウテイシャガムカウカラ、タビニドウコウセヨ、トイワレテイマス』(お主の方に我が子……お主の姉と調停者が向かうから、旅に同行せよ、と言われいます)


なるほど。自己紹介もしてないのに俺の事を調停者と呼んだのはそれが原因か。


「そうなのね……。でもあなたの巨体じゃあ旅に連れていくことはできないわ。人の姿にしてもいいかし――」


「――ダメだ、ヒュウラン。誇り高き獣を人の姿にするなんて。お前は何を考えている。俺の時もそうだ。別にお前が旅をして俺が小さくなって同行しても良かったというのに、わざわざこの俺を人の姿にしおって。おい、そこのフェンリル」


『ハ、ハイ!』(は、はい!)


「小さくなれるか?」


『モチロンデゴザイマス!』(勿論でございます)


「よし、じゃあ小さくなれ。お前は今日から俺らのペットだ」


『え?』

「え?」


※あとがき

作者の都合により15日から18日は更新出来ないです。申し訳ございません。

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