第6話 最初の街


「お、あれじゃね?」


すごい速さで空を飛ぶこと数分。目下に街らしきものが見えた。


「そうですね。一旦降下しましょう」


ヒュウランの言葉に従い、降下する。

しかし、いかにも、なまちだなぁと、俺は目下に広がる街を見て、思った。


科学の力とやらを発見し、発展させる人間がまだ産まれていないため、「魔法主体の世界やってます」と言わんばかりの街並み。


まぁ、まだ発展途中だから仕方ないのかもしれないが、この数十億年の間に、発展と破滅を繰り返した人間たちをみて、思うことは「まだ伸び代がある」だ。おそらく今の時代は剣と魔法で戦う世界。


あと数千年、いや数万年もすれば、科学と魔法が融合した世界が誕生し、そしてまた破滅するんだろうなぁと思いながら昔のことを思い出す。


「随分と感傷に浸っているようですが、なにかあったんですか?」


「いや、この位の発展度合いに生きる人間が1番扱いやすいからな。この旅は楽に進むと思っただけだ。あと数万年ほど度のスタートが遅れていれば、俺は人間の生活に慣れることはないだろうからな」


科学が発展した世界では、「機械化」というものが進み、街や国に入る時にセキュリティとやらが介入し、怪しいものは入れないのだ。だから今くらいの発展度合いの人間たちなら簡単に欺けるし、街に入るのも入国するのも簡単なのだ。


主神あるじはそこまで計算されているのです。ドヤァ。それにこの時代ならあなたも活躍しやすいでしょうしね」


「うん、なんでお前がドヤるんだよ。でもまぁ、確かに俺が活躍することによって簡単に色々なところを飛び回れるもんな」


そんなことを話しながら街の方向へ歩いていると、デカめの門が見えた。もちろんドラゴンの姿の俺よりも随分と小さいがな。


「結構空いてんだな」


「まぁ、この街を出入りする人は大抵朝と夜だけだからよ」


「へぇ。まぁとりあえず入ろうぜ、そろそろ昼時だし、人間の飯でも食うか」


そうして、門をくぐろうとした時。


「止まれ!」


俺たちの前に軽く鉄の装備をしている男が現れた。かなり余裕が無い表情をしている。どうしてだ?


「人間が俺に指図するなッ――ェ~。おいヒュウランてめぇ! 急に叩くんじゃねぇ! アホか!」


「アホなのはどっちよ! いくらこの時代のセキュリティが弱いとしても検問くらいあるに決まってるでしょ! なんで素通りしようとしてるのよ!」


「そんなに言わなくてもいいだろ!? そもそもこんな科学のかの字もェ時代に、検問なんて出来るのかよ!」


「あなたは科学の力に心酔しすぎなのよ! 科学で出来ることは魔法でも再現可能なの」


そう言ってヒュウランは「ごめんなさいね」と男に謝りながら四角いカードを2枚出して男に渡す。人間に謝る必要なんてないのによ。


そして、カードを受け取った男はなにかにそのカードを翳し、何かを確認している。


「よしっ、通っていいぞ」


「はーい、ありがとうございまーす」


カードを返してもらったヒュウランは礼を言って俺の首根っこを掴んで街に入る。


「おい、さっきのはなんだ? 魔法の類なのは見ればわかったのだが」


俺はヒュウランに引き摺られながら問う。すると、俺の首を掴む手を離した。


「身分証よ。カードに魔力がこもっていたでしょ? あれを専用の機材に翳すと身分証の持ち主の情報が見れるの。容姿、年齢、犯罪歴とかね」


「あのカードが俺の身分証って訳か。でもそんなん登録した記憶なんざねぇぞ」


「はぁ。ほんとバカね。主神あるじが作ったのよ。容姿も事前に登録してあったし。あ、そうそう今のあなたは17歳の設定だから。その辺間違えないように」


「へぇ。あの神結構なんでも出来るんだな。でも、勝手にそういうの作ったら犯罪だろ? ………ってか17歳ぃ?」


なんで17年しか生きていない人間の設定なんだ? 俺は数十億年生きたドラゴンだぞ? グレードダウンしすぎだ。


「神は何をしても許されるの。人間は神を裁けないからね。それに本当はもっと低い年齢にしようとしたのだけれど、その見た目じゃあ、無理があるからってことで17歳の設定なのよ。田舎からでてきた17歳なら知らないことが多くても誰も何も言わないからね」


「そうかよ。そんじゃ街に入ったことだし飯でも食おうぜ」


ドラゴンの身体の時は腹なんて滅多に減らなかったのだが、この身体になって何故か空腹感が消えない。これもおそらく人間の生活に慣れるために神が用意したデメリットなんだろうけど、かなり燃費が悪いぜ。


「無理よ」


「は? なんでだよ」


「だって、私たち一文無しだもの。これから北門から出てダンジョンに行くわよ」


ダンジョン。知識だけはある。中には魔物が跋扈する危険な場所。しかし、行ったことは無い。俺が行ったところでどの魔物も相手にならないからだ。しかし、飯のためとあらば行くしかないだろう。


「よし! 行くぞ! ダンジョン!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る