第7話 いざ、ダンジョンへ


「……なあ。俺、このダンジョンを運営している奴らから金とってもいいよな?」


 ダンジョン周辺に来て俺が最初に放った言葉だ。


 なぜか。そう。ここらにあるダンジョンは全て、俺から漏れ出た魔力が原因となり、発生したダンジョンなのだ。


 俺が居座っていた森から数百キロもあるのになぜか俺の魔力はここらで溜まり、ダンジョンを生成した。どうやら、溜め込んでいる魔力の量によってダンジョン内の魔物の強さ等が変わり、難易度が違うらしい。


「ダメよ。あなたがちゃんと魔力制御しなかったのがいけないんじゃない」


 まぁヒュウランが言っているとは間違っていない。俺が長年魔力を垂れ流してきたせいで、ダンジョンができてしまったわけだし。なんならこのダンジョンができた当初はこの周辺に住む者らの脅威にすらなっていただろう。


 そして、一文無しの俺らはこういうダンジョンで魔物を倒し、素材を換金することによって一文無しから脱却できるのだ。魔力を垂れ流しにしていた過去の俺に感謝するしかない。


「それで? どのランクのダンジョンに入るんだ?」


「もちろん、1番難しいやつよ。強い魔物ほど高く売れるし」


 俺は分岐路に立ち質問すると、さも当然と言うようにいちばん難しいダンジョンに行くと言う。



 俺たちからみて右の道に行くと全10階層の比較的簡単なダンジョン。通称初級ダンジョン。

 真ん中の道を行くと全然50階層のちょいムズダンジョン。と言っても階層によって難しさは変わるから、上層は初心者~中級者向け。下層は中級者~上級者向け。通称中級ダンジョン

 左の道を行くと未開拓の層が残るダンジョン。現在103階層までは攻略されているが、その下はまだだ。1回層から中級ダンジョンの中層ボス並の魔物が現れる。通称上級ダンジョン。


「まぁ妥当な選択だな。狩場はその場に応じて考えるとしよう」


 おそらく俺らの力であれば上級ダンジョンですら攻略可能だろう。しかし、名を知られていない俺らが上級ダンジョンを攻略したとて誰も信じない。


 上級ダンジョンを攻略するのは「ハンター組合」で実力の証明をしてからだ。


 俺らは左の道へ行った。


「さぁ! 攻略するわよ!」


 なんて言いながら。


「ちょっと待て! 考えろ! 攻略するのは後日だ」


「なんで!?」


「はぁ」と言いながら説明した。

 知名度のちの字すらない無名な奴らだ。そんなヤツらが上級ダンジョンを攻略したとて、誰も信じるはずがないこと。


「ま、まあ? わかってたわよ。あなたを試しただけ。そう、試しただけ」


「そんな焦ると説得力が無くなるぞ。お前は全知じゃなかったのか? 」


 そんな、賢い女を気取りつつも何一つ上手くいっていないヒュウランを尻目に歩みを進める。


「ここか」


 目の前には入口の大きな洞窟があった。中からは俺の魔力を感じる。街の門の入口くらい大きい穴だ。


 この上級ダンジョンからは他のものの気配も感じないし、こちらに向かってくる気配も感じない。つまりそれだけ上級ダンジョンに挑む猛者が少ないということだ。103階層まで踏破した者たちはおそらく昔の人間だろう。おそらく長い時間破られていない記録と推測する。


「おぉ」


 中に入るとオーク将軍ジェネラルが5体ほど歩いている。オーク将軍の実力は人間基準で見れば強いかもしれないが、俺からすれば数千数万体いても相手にならん。俺から見ればゴブリンもオークもオーガも全て同じような実力。

 無限から見れば1も10も100も1000も変わらないというわけだ。


「エルガ、ここは私がやるわ。私はあなたの実力をある程度把握しているけれど、あなたは私の実力を知らないでしょう? お互いの戦力の把握は必要なことよ」


「お、おう」


 俺が返事すると歩みを進め、オーク将軍の元へ行く。


「ブビィ」

「ブヒブヒ」

「ブ、ブフフフ」


 ヒュウランを見たオーク将軍らは、格好の餌を見つけたと言わんばかりに、子種を植え付けられる女体を見て興奮している。


「……やはりオークの視線はいつ浴びても寒気がしますね」


 そう言って目の前にいた自分の体の数倍はあるであろう五体のオーク将軍ジェネラルの首を簡単に撥ねる。


「見事なものだ」

 俺はパチパチと拍手をしながら褒めた。


「ありがと。ほら、早く解体するわよ」


「解体の仕方など知らん。手本を見せてくれ」


「はぁ。ちゃんと見てなさいよ」


 教えを乞うと素直に1から教えてくれる。


「……血抜きはしないのか?」


 血抜きをしない肉は不味い。ドラゴンの体であれば殺した魔物をそのまま食していたのだが、血の味がする肉は美味しくなかった。


「何言ってるのよ。血抜きなんて魔法で出来るわよ。血抜きに時間なんてかけていられないし」


「へぇ」


 やはり欠陥だらけの魔法だな。血抜きを魔法で済ませるなら解体も魔法で済ませればいいものを。……なんて言える訳もなく、静かに解体の様子を見る。


「これで終わりよ」


 なんとヒュウランはものの数分でオーク将軍という巨体の解体を終わらせた。


「すごいな」


 つい、素で驚いてしまった。オーク将軍の皮を剥ぎ肉を部位ごとに切り落とし、綺麗に並べている。


「私にかかればこんなものよ。さ、エルガもやってみなさい」


 ヒュウランは血まみれになった腕を水魔法で洗い流している。


「あぁ」


 俺は短く返事をしてオーク将軍の一体に手を翳す。イメージは血抜き。その後に肉を部位ごとに分けるだけ。


「何やってるのよ。血抜きが終わったなら早く解体さなさ、い……よ。え?」


 ヒュウランは綺麗に解体されたオーク将軍を見て驚きの声を上げる。


「魔法の力だ。ヒュウランも出来るはずだ。お前らが魔法と呼ぶものは俺からすれば子供の戯れに過ぎん。さっきも言っただろう。魔法は奇跡の力だ。普通に考えて不可能なことを実行することを魔法と呼ぶんだ」


「へ、へぇ」


「ほら、やってみろ」


「え、えぇ」


 そして、ヒュウランは俺と同じようにオーク将軍に手を翳すとオーク将軍の体が光に包まれる。

 そして、光が収まると……肉があった。


「ほぅ。やるではないか。さすが神の使徒と言ったところか?」


「ふふっ、私の手にかかればこんなもんよ」


 どうやらヒュウランはひとつ高みへ登ったようだ。


「よし、この調子で進むぞ」

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