第8話 龍とドラゴン


「全然いないわね。手応えのある魔物」


 とは、ヒュウランの言。


「仕方ないだろ。片や調停者を承る始祖龍、片や神の使徒。俺ら2人に手応えを感じさせるほどの魔物が50層にいてたまるか」


「それもそうね。でも、ドラゴン系の魔物が未だに現れないわね。やっぱり最上級の魔物はもっと下層に行かなきゃいないのかしら」


「……お前何言ってんだ? ドラゴンはこの世界に俺と6人の子供たちの7体だけだ。他にドラゴンは存在しない」


「何言ってるの、はこっちのセリフよ。ドラゴンは他にもいるわ。レッドドラゴンとか、ブルードラゴンとかアースドラゴンとかいるじゃない」


 ヒュウランのその言葉に俺は絶句した。


「お前、あいつらを龍として認識しているのか、?」


「……? もちろん。だって、名前にドラゴンがついてるじゃない」


「なっ……。それは奴らを見た下等な人間が我々ドラゴンと少し姿が似ているだけで、同種と勘違いしているだけだ。あんなトカゲ紛いと同じにするな」


 しかし、俺が力説するとヒュウランは「ぷぷっ」とバカにしたように笑う。


「何がおかしい?」


「だって、君の言うトカゲ紛いとやらはね、ワイバーンに対して同じように思っているのよ」


「はっ、俺からすればトカゲ紛いもワイバーンも大差ないがな。同じようなもんだろあんな奴ら。トカゲ紛いも俺の実力を知れば、自分とワイバーンは同等の存在だって認めるはずだ」


 とは言ったものの、俺がトカゲ紛いを下に見ている理由をはっきり言わないのを見て、ヒュウランは不思議そうにこちらを見る。


「ドラゴン紛い? ってのを毛嫌いしてるのはわかったけどさ、なんでそんなに毛嫌いしているの? それに彼らもワイバーンのことを下に見ているし。教えてちょうだい」


 俺は人差し指を立てながら説明する。


「いいだろう。まず、理由その1、奴らはひとつの属性しか扱えない点だ。しかしその練度は高い。故に人々はトカゲ紛いを危険視している。俺たちドラゴンは本来全ての属性を最高水準で使うことが出来る。まぁ我が子らは得意属性に全振りしているせいで他の属性が疎かであるが。しかし、それでも全ての属性を扱うことが出来る」


 次に中指も立てて2個目の説明をする。


「次に2つ目だ。単純に小さい。我々ドラゴンは個体差はあれど体長は50m前後。対してトカゲ紛いの体長は30m前後。大きくても40m程度だ。小さすぎる」


 次に薬指も立てる。


「最後だ。奴らの体は脆い。もちろん人間からすればとても強度が高く感じるだろうが、俺からすれば人間もワイバーンもトカゲ紛いも変わらん。紙だ。そんなわけで俺は奴らを見下している」


「へぇ。じゃあ、トカゲ紛い達の方がエルガ達ドラゴンに勝っている部分とかないの? 例えば体が小さい分旋回速度が早いとか」


「ヒュウラン、貴様先程から無礼ではないか? いくら我らの方が巨体と言っても奴らに遅れを取るほど飛行能力は低くはない。むしろ我々の方が早いまである。自分の体の理解ができていないのだ奴らは」


「へぇ。それよりさっきから全然魔物に会わないんだけど、なんか理由知ってる?」


 俺のありがたいお話を理解したのかしていないのか知らないが、ヒュウランが急に話題を変えてきた。


「我々という強大な力を前に逃げ出しているんだろう。少し強くなれば相手の強さもある程度は理解できるようになる。まさか60階層辺りからその兆候が見れるとはな」


「そうなんだ。じゃあちゃっちゃと下層に行きましょ! ドラゴンのいる下層に行って、素材を回収しまくりよ!」


「まぁ、悪くない考えだ」


 ヒュウランの提案を素直に受け入れる。今まで歩きながら進行していたが、少し走っても構わないだろう。


 ◇


「ね、ねぇ。ここって」


「100階層だな」


 そう、あれから魔物に会うことなく100階層までやってきてしまったのだ。上級ダンジョンは10階層事にボス部屋と言うものがあり、特定の魔物が必ず湧くらしいのだが、60~90階層のボスは逃げ出していたらしい。


「とりあえずここのボスを倒したら一旦街に戻ろうではないか。本当はオーク将軍の戦利品だけでも十分な金になっているのだろう?」


「そうしようか。それに、確かにオーク将軍の戦利品だけでも高級なお昼ご飯が食べれるんだけどつい興味本位で……」


「案内役のお前が私情を挟んでどうする。本当はオーク将軍だけで良かったのにわざわざ100層まできて俺の手を煩わせたということだよな。神に報告したらどうなる事かなァ?」


「や! やめて。それだけはほんとに勘弁してください。そ、そうだ! 街で1番と噂のお店に行きましょ!」


「噂の? 確かお前は全知なんだろ? 噂で店を決めるのではなく、本当に上手いところに案内あするのが筋ってもんだろ」


「で、でもぉ」


「でも、なんだ?」


「わかりましたー。案内しますよ! でも文句は言わないでくださいね!」


 自棄ヤケになったヒュウランは面倒くさそうに返事しながらボス部屋の扉を開ける。


「……へぇ」

「おぉ! ……はぁ」


 俺は面白そうに声を漏らし、ヒュウランは歓喜の後ため息をついた。


「どうせならレッドドラゴンが良かったなぁ」


 そう、俺たちの前に現れたのはアースドラゴン。素材は高く売れないし、肉も美味くない。そのトカゲ紛いの中で上1番防御力が高い種類だ。人間の間ではハズレ竜とすら言われいるドラゴンがいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る