第5話 ドラゴンのポテンシャル
「初めまして。
そう言って、ヒュウランと名乗る女は軽く頭を下げる……が
「お袋からの命令?」
「お母様から?」
「母上からの使者ってことー?」
うん。我が子の反応が予想と真逆だった。てっきり、「誰だテメェ」「父上との時間を邪魔するな」とか言うと思ってたのに。
なんなら、神―と言っても、神はたくさんいるらしいので俺も
まぁたしかに、あいつがいなければこいつらも生まれなかったわけで。そういう意味では母親という認識であっているのかもしれないが……。主神のことは子供達に教えたことはないぞ?
「はい。あなた方のお母様からの使者にございます。お母様はお父様を神にするため、人間の世界を経験させたいと思っております。反対する方はいらっしゃいますか?」
・・・
6頭は顔を見合わせ、静かになる。
「反対する理由あるか?」
「お父様が神になるならいいんじゃない?」
「僕達はお父さんと違って人間に差別意識はないしねぇ」
おいおい、誰も反対しないのか? それどころか人間に差別意識がない? 俺もねぇよ。ただ、劣等種の人と最強種のドラゴンってだけだ。
「そうですか。ということですので、エルガさん、観念してください。あとずっと見上げているのは疲れるので人の姿になってもらいます」
そういえば、俺たちの体の高さは約50mはあるんだよな。でかいビルを見上げているようなもんだろうか。
そして、ヒュウランが俺に手をかざすと、俺の目線がどんどんと下がる。
そして、ついにヒュウランとそう変わらない高さになってしまった。160cm程度のヒュウランに対し、俺の今の身長は180cm強と言ったところだろうか。まぁ、俺からすれば20cmなど誤差にすぎない。
「随分と凛々しい顔立ちですね。
「お、おい。やめろ」
俺の制止を聞かず、テキパキと動き始めるヒュウラン。ドラゴンの姿から急に人の姿になったのだから衣服など纏っていない。それに髪の毛と言うやつも邪魔だ。人はこの髪をアレンジして個性を出すらしい。戦いの時に邪魔になると言うのに。
そして俺の髪は高い位置でひとつに纏められ、服を着せられた。確か甚平だったか? 昔、貢物を持ってきた人間が着ていた服によく似ている。
「ふんっ、見た目に反してなかなか動きやすいな」
「
「さすがはお袋だぜ」
「お母様さすがね!」
「母上さすが!」
我が子らも主神のことをヨイショしている。あいつに敬意がないのは俺だけなのか?
「それでは早速行きましょうか。あなた達は戻ってもらって大丈夫ですよ。あなた方のお父さんのことはちゃんと見ておきますので」
ヒュウランがそういうと、みんなそれに従い、元いた場所に戻り始めた。
「なぁ、人里に行くのはいいんだけどよ、ここからどれくらい離れてるんだ?」
「数百km程度ですかね。ここは森の中心部ですし、この森にあなたがいるせいで人間は近くに村すら作らないので、森の開拓は進まないんです」
「ハイハイ。俺のせいですよ。数百kmなんて距離をこの小さい体で歩いて行くのか?」
「はぁ。そんなアホみたいに時間が掛かることする訳ないじゃないですか。あなた、その姿でも空、飛べるでしょ?」
「はぁ? 翼がねぇのに空飛べるわけないだろ!」
空を飛ぶには羽ばたいて風を発生させ、魔法でその風を強くし、自身の身体を上に押し上げるのだ。
「……あなたは何年生きているのですか?
「ほらね」と、ドヤ顔で上昇するヒュウラン。正直ウザイ。が、言っていることは間違ってはいない。ここで俺がヒュウランと同じ方法で飛行したならバカにされる。
かと言って、そう簡単に新しい魔法を思いつくなんて出来な……あぁ。
「はっ、そんなアナログ式の魔法なんざ魔法とは呼べねぇ。時代はデジタル式だ」
アナログとかデジタルとかよくわからんが、人として生きていた頃の俺の記憶にある言葉だ。
ヒュウランのように魔法と魔法を掛け合わせて、空を飛ぶのもいいが、「重力を軽くする魔法」と「風を発生させる魔法」と言う、なんとなく理解できそうな魔法ではなく、「空を飛ぶ」と言う、ロジックが理解できそうで出来ない圧倒的不思議な力こそ、魔法と呼ぶのに相応しいのでは無いか?
などとアホなことを考えつつ、上昇する。
「……全く風を感じないですね。すごく緻密な魔法……って訳では無いようですね。さすがはドラゴンと言った所でしょうか。『空を飛ぶ魔法』というのは誰でも思いつきますが、実行は出来ません。とても難しいので。それをいとも簡単にやってのけてしまうところがムカつきますが、
そう言ってヒュウランは北側に飛行して行った。そして、その後を追うように俺もついて行った。
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