第10話 容赦なく

「アイデオットさん……」


 ヒュウランに話しかけてきた男と受付嬢は面識があるらしく、男の名前を知っていた。


「あんた、連れはいい顔してるらしいが、弱そうな身体してんなぁ? オレと来いや! 楽しいこと教えてやるぜぇ?」


「ふふっ、見る目のない男に許す体はなくてよ。早く散りなさい」


 どうやら、俺の体を貧弱だとか言っているが、神によって造られた体を否定されたヒュウランは怒りを隠せないらしい。それに、アイデオットとやらは見たところ、見た目だけの筋肉だけで威張っているようだ。そしてそんな奴に皆が怯えている。人間とはなんとも可哀想な種族だ。


「ッ! このクソアマ! 言わせておけば――いでぇ!!」


 ヒュウランに見る目がないと言われすぐ逆上した男がヒュウランに掴みかかろうとしていたので、軽く腕を捻りあげると、情けない声を漏らした。


「別にこいつに手を出すのに関しては何も言わん。ただ、貴様、天罰が下って死ぬぞ?」


「き、貴様ッ、ちょっと強いからっておちょくりやがって!」


 そう言って、男は俺の顔面めがけ、拳をスイングする。

 やれやれ、俺はこいつの身を案じて教えてやったと言うのに。自分の使徒を男に良いようにされたら、あの神は黙ってないだろうしな。まぁそもそもヒュウランならなにかされる前に相手を殺してしまいそうだが。


 ――ゴンッ!


 男が俺を殴った音がギルド内に響く。周りの人間たちは俺たちの争いを静かに見守っていた為、余計に音が目立つ。


「……満足か? それと、貴様が先に手を出したよな? これは正当防衛としてなりたつ、よな?」


 軽く受付嬢を見ると、頷く姿が見えた。


「よし。じゃあ死ね」


「や、やめろっ」


 自分はやっておきながら、やめろなどとほざく男の顔を掴み、握り潰そうとした時。


「エルガ、ダメよ。殺すのはダメ」


「こいつは俺を殺す気で殴ってきたぞ? ちゃんと殺気も感じた。俺は同じ事をするだけだ」


「それでもダメなの。ココは人目が多いでしょ? 殺すなら人が少ないところでやらなきゃダメ」


「なるほど。人目があるところで人を殺しては行けないのか。だが、その話を人目があるところでしてもいいのか?」


「えっ? ……あ。ん゛ん゛。良い?エルガ。人目があるところでこういう話をしてもダメ。今回は私のミスだわ」


 咳払いをして、平静を装っているが、だいぶ焦っているな。てか、思ってたんだが、ヒュウランってかなりポンコツか?


「そうか。じゃあこいつの処分はどうする? やられたならばやり返さなければならん。どうすればいい? 教えてくれ」


「そうね……。両手足を切り落として傷口を塞ぎましょうか」


「それだけで良いのか? 傷口を塞いだら死なないだろ」


「いいのよ。そうすることで彼は今後一生1人で歩くこともできないし、ご飯も食べられない。冒険者の仕事も出来なくなるだろうし、多分仕事も見つからない。衰弱死するか、今まで恨みを買っていた分、復讐にあって殺されるか。あとのことは知らないけれど、今殺すよりも苦しんで死ぬわ」


「……天才か?」


 人間は四肢を切り落とせば何も出来ないし、魔法で切り落とされた四肢を生やすこともできない。そうと決まれば、実行だな。


 俺は手刀で手足を1本ずつ切り落とそうとした。その時。


「ちょっと待ってくれ。そいつはウチの大切な冒険……者で、な」


 後ろから静止の声が聞こえたが、構わず1本目を行く。


 男の右腕を切り落とした後、後ろを振り向くと、白髪を生やしたイカつい顔面のジジイがいた。


「今は取り込み中だ。貴様もこうなりたいか?」


 途中で止められるのも嫌なので、再びアイデオットに向き直り、左腕、右足左足を切り落とす。


「い、いでえよぉ。ギルマスゥ、助けてくれぇ」


 泣きながら、ギルマスとやらに助けを求めるアイデオットの傷口を塞ぐ。


「よし。あんた、俺に用があるらしいな。待たせて悪かったな。聞くぞ」


「あ、いや~その。そこのアホはウチの冒険者でして。体が資本なもんで、四肢を切り落とすのだけは勘弁して欲しいとお願いに来ただけでして」


「そうか。でももう無理だな。もう切り落としちまったし。こいつが悪いし」


「そ、そうですか。それは失礼しました」


 多分、こいつがギルマスとやらだろう。この中で1番いい服を着ている。


「あ、あの!」


「今度はなんだ」


 受付嬢からの呼び掛けにうんざりしながら返答してしまう。


「その、査定が終わりました……」


「おぉ! この騒ぎの間を査定に充てていたか! 有能だなお前」


「あ、ありがとうございます。で、ではこちら、白金貨12枚と金貨が8枚です」


「ありがとう」


 硬貨を受け取ったは良いが、価値が分からない。ヒュウラン助けてくれぇ。


「ヒュウラン。これは正当な査定か?」


「そうね。思ったより高く売れたわね。お姉さん、この金貨を崩すことはできるかしら? 金貨5枚を銀貨50枚にお願いしたいのだけれど」


「か、かしこまりました。……こちらから失礼します」


「ありがとうね」


 ヒュウランが金を全部受け取り、ギルドを後にする。


 ◇

 その後のギルド


「お、おい。あいつらやばくなかったか?」

「あぁ。特に男の方。容赦なく手足を切り落としてたな」

「てか、あのしっぽ見たか? ありゃ龍人族だぞ」

「龍人って、あの!?」


 これはエルガが悪魔の龍人、悪魔龍デビルドラゴンと言われる原因となった一幕だ。


※あとがき

こんにちはルーシーです。今年最後の更新です。

気づいてる方は気付いていると思いますが、ヒュウランの口調に統一性か無いです。これは私の中のヒュウランのイメージが定まっていないのが原因です。よろしければヒュウランのイメージをお聞かせください。

結構おちゃめな性格とか、お嬢様気質とか等々よろしければお願い致します。

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