第11話 店主が踏み抜いた地雷
――カランカラン
ヒュウランに案内されてやってきた店は表通りからは離れたとおりにある店だった。
「らっしゃい」
店主はイカつい顔つきをした小さい爺さんだった。さっきのギルドというところでガタイのいいヤツらを見たばかりだったから、余計小さく見えるが、人族のようだ。中に客は居ない。
「……見ない客だな。好きなところに座れ」
「はぁーい」
全く臆さないヒュウランは、間抜けな声を上げ、店主の前のカウンター席に座る。
机の上にも周りにもメニュー表などは見えない。店主がいる厨房にメニューが書いてあるのが見える。頭の中には「居酒屋」という言葉が浮かんだ。
「エルガ、どうしますか?」
「ここで失敗はしたくない。ヒュウランに任せる」
まだこいつと出会って数時間程度なのだが、わかったことがある。普段はちょっとすました感じでできるオンナみたいな喋り方をするが、俺と2人だけの時はお転婆なお嬢様みたいな口調になる。
「そう。それじゃあハイオーク定食をふたつくださる?」
「はいよ。今から作るからちょっと待て」
そう言われたのでヒュウランと他愛のない話をして待っていると、「はいよ」という声と共に、白いものが出てきた。
「これは米よ。肉は多分あとから出てくるけど、今、米を全部食べるのは進めないわ」
「なるほど……っ。美味いな。噛めば噛むほど甘みが出てくる」
テーブルの上にある箸というものを使い、ご飯を食べる。今全部食べないでいつ食べると言うんだ? 冷めてしまうと味も半減してしまうだろう。
――コトン
店主が次にカウンターに置いたのは黄土色をした汁物。そして、間髪入れず肉が現れる。
「キタキタ。いただきます」
ヒュウランは嬉々として2つの皿を手に取り、目の前に置く。
「こっちの汁物は味噌汁よ。飲んでみなさい。美味しいわよ。中身は……大根とワカメね。私が一番好きな具だわ。こっちの肉はさっき注文したハイオークの肉よ」
「お、おう」
ヒュウランが急に饒舌になり、ご飯の説明をしてくれる。その間、店主は腕を組み、目を瞑り、ウンウンと首を縦に振っている。
「――ズズっ。美味いな! んん、こっちの肉も美味い」
「言ったでしょ? 後、この肉を一切れずつご飯の上にバウンドさせて食べてみなさい」
「お、おう。うん、肉の味は特に変わらないぞ?」
「バウンドさせたところ。ご飯を食べてみて」
肉は一切れずつ食ってくれと言わんばかりに既に綺麗に切られているので、そのひとつをご飯にバウンドさせると、肉についていたタレがご飯に付着する。ヒュウランはそこの部分のご飯を食べろと言っていた。
「んん! 美味いな! 何もつけないまま食べるのも良いが、こうやってタレを少しつけて食べるのもいいな!」
「そうでしょう? 説明はしたわ。あとは黙って食べましょう」
「おう、そうだな」
その後、俺たち2人は黙々と食べた。
「ふぅ。ご馳走様」
「ご馳走様?」
ヒュウランと同じように手を合わせ、同じ言葉を発する。
「そうよ。食べる時はいただきます、食べ終わったらご馳走様。人族の常識よ。育ちの悪い連中はそんなこと言わないけれど」
「なるほどな。ご馳走様」
「ふふっ、2回目よそれ」
「さっきのはお前の真似をしただけだ。ちゃんと意味を知ってやらなければ意味が無い」
「律儀ねぇ。まぁそれがドラゴンなのかしら」
そう言ってヒュウランは自分の皿をカウンターに置く。
「会計をお願いします」
「……3万ネカだ」
「まぁ、高いけれど妥当の値段ね。はい」
ヒュウランは何か言いながら銀貨3枚を渡した。
「店主さん、この店ってちゃんと営業できているのかしら?」
「出来ている。夜になれば、稼ぎのいい冒険者たちが来る」
「そう。はい、これ」
「……オーク
「違うわよ。明日も来るわ。メニュー表にオーク将軍の定食がなかったから。明日私たちが来た時はこの肉を出してちょうだい」
「はっ、気に入った。次からもここのメニューにないもので、欲しいものがあれば持参してこい。作ってやる」
「ふふっ、ありがとう。楽しみにしているわ」
「あいよ。龍人族の
ここの店主は普段は全く喋らないと言われている。そんな店主がヒュウランに当てられて少し喋りすぎると、エルガの地雷を踏んでしまった。
「あぁ!?」
「あっ」
俺がキレたことを悟ったヒュウランは焦った表情をした。
エルガ達7匹のドラゴンは、この世界の龍を下に見ている。ドラゴンの恥とすら思っている。そんな龍から派生し、好んで人の姿をしている龍人族を龍よりもドラゴンの恥さらしだと思っている。そんな龍人族と間違われたのだ。美味い食事を食べて機嫌が良くなければ、この街は消えていたかも知らない。
もしこの場にいるヒュウランがエルガを窘めなければこの街は確実に消えていただろう。
◇
※あとがき
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