始祖龍、人里に顕現す

ルーシー

第1話 プロローグ


「はぁ、はぁ、これって1対1じゃないのかよ」


 俺は悪態をつきながら、飛行を続ける。


 3対1なんて誇り高きドラゴンとしての誇りプライドを傷つけるだけだろ!


 なぜ俺がこんな状況に陥っているか。これは少し時を遡る必要がある。


 ◇

 ――数時間前


「最後の戦いはエルガと、クリンガの決闘じゃ」


 白銀に輝く鱗を持つドラゴン、ドラゴン族の長による言葉だ。


 クリンガは長の息子。長と同じく白銀の鱗を有している。俺自身、恵まれた体格であることは自覚しているが、やつも俺に負けず劣らずデカい体をしている。


「よろしくお願いしますね、エルガさん」


 そう言って、クリンガは自分のしっぽをこちらへ向ける。


「あぁ」


 俺はそれに合わせるように自分のしっぽでクリンガの物を叩く。人間で言うところの握手とか言うやつだ。俺たちの手は発達していないから握手などできないのだ。


 そして、すごい爽やかな良い奴を演じているが、裏の顔はすごく卑怯なやつであることを俺は知っている。今回の決闘、何を仕掛けてくるか分からない。最大限の警戒をしておくべきだ。


「では、ルールは特に問わん。死んだら当然負け、降参しても負け。ドラゴンらしく力で勝負せよ。始め」


 長が急に始めの合図を出す。周りに集まっていた他のドラゴン達は一気に飛び立ち、離れる。


 クリンガはブレスを放ち、牽制する。ブレスと言っても炎のブレスではない。氷のブレスだ。


 ドラゴンは基本、どの属性の魔法も使える。炎のブレスと思わせて別の属性のブレスを出す戦法もある。


 まぁ、俺は氷のブレスに対し、炎のブレスで対抗。


 瞬間、同士に飛び立ち、魔法攻撃の応酬が始まる。


 1時間も撃ち合っていると、森の木々が焼けたりし、倒れ始める。やがて俺たちが戦っていた場所は禿げてしまう。


 どうする? このままやり合っていてもジリ貧出し、時間の無駄。突撃するか?

 いや、やつとの距離は約1km……。よし。


 俺は魔法攻撃をやめ、クリンガに向けて突進を選択する。


 一瞬にして亜音速にまで到達し、クリンガに当たるまでには音速に到達する程の加速度でスピードが増す。


 クリンガは突進以外の選択肢はないと言わんばかりに俺の方へ突進してくる。


 アホか? アホなのか? これほどのスピードを前にすれば、普通、避けるという選択肢が出てくるだろうに。俺の巨体、スピードを考えれば、運動エネルギーは計り知れない。

 ……運動エネルギーってなんだ? 昔からよく分からない言葉が脳裏に浮かぶことはあるが、深く考えたことは無い。って今はそんなこと考えている暇はない!


 ――ドォォオンッ!!


 俺とクリンガの衝突により、衝撃波が飛ぶ。真下の木々はなぎ倒れ、というか地面が少し凹んで閉まっている。少し離れた木々もいくつか倒れている。近くの山はヒビが入りやがて崩れる。


 しかし俺らの額はヒビすら入らない。ドラゴンの肉体はこの程度の衝撃じゃあ、傷はつかない。


 しかし今はゼロ距離。絶好のチャンスだ。俺はぶつかりあった額を支点として体を180°回転させる。そしてクリンガの背中に飛び乗り、首に噛み付く。


 キタ! 俺の勝ちだ。


 しかし、俺は油断せず、噛み付いた首に炎のブレスをお見舞いする。俺の歯によって穴の空いた鱗からクリンガの体内へ熱気が行く。

 俺自身熱いが、自分のブレスでやられるほどやわな肉体ではない。


 そして次は間髪入れずに氷のブレス。熱くなったところに氷が来れば一瞬気持ちいいだろうが、少し経てば、苦しくなる。冷気がクリンガの中へと侵食し、冷やす。そして噛む力をどんどん強める。


 いいぞ、冷却と加熱を繰り返せば勝てる。


 そう思った瞬間。


「グッ」


 俺の体に衝撃が走る。……なんだ? 視界が定まらない。


 そして、振り返ると2体のドラゴンがいた。奴らか。こいつらはクリンガの取り巻き……。アイツらが俺たちの勝負の邪魔をしたのか。そう思っていると……



「よくやった。僕に加勢しろ」


 なんとクリンガはそのドラゴンに加勢するよう命令した。


「はぁ、はぁ、これって1対1じゃないのかよ」


 当然、俺は逃げる。クリンガと1対1なら勝てるが、3対1になると勝てる気がしない。それ程俺らの差はでかくない。


「くそっ、長はどこだ!? こんなこと認めていいのかよ!」


 俺は逃げながらも長を探す。


「ここは通行止めでーす」


「貴様ら……」


 クリンガの取り巻きの2体が俺の邪魔をする。逃げ、長を探すことに意識を割きすぎて気配を感じ取れていなかった。


 この2体なら一瞬て屠ることは可能だが、良いのだろうか。今ここで屠れば、俺への反感は計り知れない。


「くっ」


 石の礫で軽く牽制しつつ、再び長を探す。


 ……いたっ!


「長! こんなこと認められるのか!」


「誰も1対1て闘えなど言っておらん。力で闘えと言っただけじゃ」


「なっ、そんなこと認められるわけ――」


「後ろ、がら空きですよ」


 背中から衝撃を受け、落下する。クリンガの野郎にあって俺にない力……。


、かよ。ドラゴンとしての恥はないのか……」


 薄れゆく意識の中、小さくつぶやく。俺とやつのは同等。しかし権力という面で見れば0と100だ。


 ――ドォォン!


 背中から地面に落下し、クリンガ、その取り巻き2人、族長や他の者たちがこちらを見下ろしているのが見える。


「恥さらしは俺の方かよ。……最後に一矢報いてやる……」


 地面に背をつきながらも俺は魔法で、取り巻きの2人を氷漬けにする。


「エルガさん、ドラゴンとしての誇りはないのですか? 彼らはこの戦いには無関係だと言うのに……」


 白々しい演技だ。クリンガは「彼らの仇です」そう言ってこちらにすごい速度で降下してくる。


 やつの視線的に目指すは腹部。俺の無防備な腹部に絶大な力を持った運動エネルギーとともに俺に突撃する事で、俺の息を断たせに来てる。


 やばい……。このままだと確実に死ぬ。長達の方をみる……が、侮蔑の視線を向けてくる。クソっ。


 その時俺は、夢……いや、走馬灯を見た。




 しかしそれはドラゴンとしての俺ではなく、人として生きてきた俺の過去。


 この世界ではなく、地球という星で生きてきた人間。しかしそれは酷く曖昧なもの。断片的な記憶で、名前すら思い出せない。そんな、わけも分からない記憶が流れる。


 ただ1つ言えることがある。それは、過去の俺、人であった頃の俺も今の俺と同様に死ぬ間際に生きたいと願ったこと。


《漸くかの?》


 ふと、声が聞こえた。しかし次の瞬間にはクリンガの体当たりが俺に当たろうとしていた。


「くっ」


 悔しさ、憎しみ、後悔、色々な感情とともに諦めを感じ目を閉じる。





 …………あれ?


「来ないのか?」


 不思議に思い、目を開けると、そこには見覚えがあるような、無いような真っ白な空間が広がっていた。



 ◇

 ※あとがき

 こんにちは。完全に出遅れました。カクヨムコン用の新作です。

 新たなる地に転生したドラゴンの冒険がメインの物語になります。

 皆様に応援してもらえると嬉しいです。

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