第17話 無駄な足掻き

「あとはお前だけだぞ、ボーデン・ザッツ」


 前衛2人を戦闘不能になり、1人は帰ってしまった。


「まだ。まだ、ボクは負けてなどないっ! インフェルノ!!」


 そう言ってザッツはデカい魔法を放つ。


「お、おいヒュウラン。あいつ仲間諸共俺らのこと殺そうとしてないか? 人間ってそんなに薄情なのかよ」


「そんなことないわ。これは、彼が単純に自己中心的な性格だからよ。あと、壁に打ち付けた子は魔法の範囲外っぽいし、平気そうだけれど、あのショートカットの女の子は死ぬわよ」


 そう言われ、1度、1つ結びの方をみてザッツの魔法の範囲外であると視認し、ショートカットの女の前に立つ。ザッツの魔法から守るため。


「おい、ザッツのやつついにやるぞ!」

「ザッツの十八番おはこだ!」

「来るぞ! インフェルノ!」

「あのままだとルイちゃん諸共死んじまうぞ!」

「なんであの二人は危機感も持たずに話し合ってるんだ!?」


「……それにしてもあれがインフェルノ? 巫山戯るのも大概にして欲しいですね。ファイアボール」


「へ?」

「え?」

「おいおい」

「うそだろ!」


 ヒュウランが選んだ魔法、ファイアボールに対し観客たちは驚きの声をあげる。インフェルノにファイアボールで対抗しようなんてと思ったのだろう。実際、ヒュウランのファイアボールはザッツのインフェルノの数十分の一程度の大きさしかない。


 傍から見れば気が狂ったのだとか思うだろう。


 ただ、感じればわかる。内包魔力が桁違いだ。ヒュウランのファイアボールは俺から見ても「アホか」という量を詰め込んで無理やり縮めている。これが何かの拍子に爆発でもすれば……。


 ――ドォォォォォン!


 瞬間、インフェルノとファイアボールが衝突する。ファイアボールの威力に耐えられないインフェルノはその場で爆発し、インフェルノとの接触によりファイアボールも爆発してしまう。


 もちろん、ファイアボールの方の威力が強いので、ザッツは多大なダメージを負うことになる。一応観客の方には結界を張ったし、司会の周りにも結界を張ったので死者は0か、ザッツだけだろう。


 当然、俺の方にもヒュウランの方にも爆風は来る訳だが、動じることは無い。


「なっ、なんだこれは……」


「貴様のご主人は貴様ごと俺らを殺そうでしたぞ。それでもまだあいつについて行くのか?」


 目を覚ました女は爆風の中にいることに驚き、声を上げる。


「こ、これがボーデン様の魔法……」


「違ぇよ。ヒュウランの魔法な。あのカスがこんな爆発起こせるわけないだろ」


「そ、そうなのか。それにしてもお前はこの爆風を直に受けても平気なんだな」


「お前ら人間とは身体の出来が違う。ちょっと暖かい風が送られてくるだけだな」


 人間この姿でも防御力等は龍のままらしい。この程度の爆風、本当に痛くも痒くもない。


「そ、そうか。龍人は強いのだな」


「……」


 俺はその言葉を聞いて、無言で立ち去ろうとしたが、後ろからヒュウランの圧を受けて、その場に留まることにする。


「貴様、俺と龍人を一緒にするな。次一緒にしたら体中の骨という骨を折り、四肢を少しずつバラバラにして殺す」


「え、あ……」


 少し殺気立ってしまい、失神させてしまう。


 まあいいやと思いながら少しすれば爆風も収まり……。


「お、生きてんじゃん」


 俺とヒュウランの数十メートル先では膝に手を付きかろうじて立っているザッツの姿が見えた。


「でも焦げてますね」


「ところどころ、な。髪とか原型ないし、服も無くなってやがる」


「見るに堪えないですね……」


 かろうじて立っていたザッツではあるが、髪は焦げて異臭を発し、服は焦げて塵と化し、全裸状態。


「てめぇの主様だろ? 早く何とかしてやれ……って、失神してるんだった」


「もう、何やってるのよ。審判? 早くしてもらえる?」


「しょ、勝者! 謎の美少女ヒュウラン&龍人族エル――」


 ――ドォォォォォンッ!


「やめなさいって言いましたよね。私がいたから彼の後ろの壁が破壊されただけで済みましたが、もし私がいなければあなたは殺人の罪を着せられていましたよ」


「……くそっ」


 こうして波乱こそあったものの俺たちの実力は無事、証明された。

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