第16話 圧倒的な力の差
「皆さんこんにちは! 司会を努めさせていただきます、モーリーです! 彼らの説明は不要でしょう! 片や貴族のパーティー、片や昨日突如現れた底知れぬ美男美女パーティー!それでは! 両パーティー集まったところで、試合開始!」
へぇ、こんなすぐ終わるような試合にも司会を呼んで盛り上げるのか。なんて思っていると、直ぐに始まってしまう。恐らく、俺らだけ知らさていないことだろう。俺たちが怯んだ一瞬でザッツパーティーを優位にさせたいのだろう。
その証拠にザッツパーティーの前衛は直ぐに走り出している。
最初に走り出したのはやはりと言うべきかタンクだ。綺麗な赤い長髪をなびかせ、褐色の肌は陽の光を浴びれば綺麗に輝くことだろう。そんなタンクは好戦的な笑みを浮かべて突撃してくる。装備は露出が多く、軽装備って感じだが、多少の傷は覚悟の上って感じだろう。その分スピードで翻弄するタイプだ。
そのタンクの後ろを走るのは二人の戦士。見たところ、二人ともよく似ている。恐らく普通に姉妹か双子だろう。二人とも、薄いピンク色の髪色に桃色の目。片方は肩くらいのショートカットだが、もう片方は腰ほどまである長さの髪を高い位置で1つ結びにしている。
タンクを観察している時に思ったのだが、長い髪は戦闘において邪魔にしかならないと思うのだが、それを言ったら、同じく長髪のヒュウランにキレられそうなので言わないでおく。
「どうする? あんまり速くはないが、後ろでザッツが魔法の準備をしているぞ。俺、人族の魔法見た事あるが、時代によって違いすぎてどれを参考にすればいいのかわからん」
「後衛の男の方は私の方で何とかします。まずは格の違いを見せるために貴方も物理で戦ってください」
そう言ってヒュウランは数歩後ろに下がった。
えっ、マジ? 俺武術とか習ったことねぇぞ。しかも人間の体初心者の俺に剣技や体術など扱えるのか?
と、とりあえずゼロ距離で戦うのは良くないなと思い、氷の剣を生成する。別に、土魔法とかで作っても良かったのだが、芸術のためだ。氷の剣の方がカッコイイ。
俺が氷の剣を出すとタンクは驚きこそしたものの、止まることなく俺の方へ来る。ホントにあと数メートル位のところで短剣を取り出し、戦闘体制に入る。左手には小さい盾を持っているので、小回り重視の選択だろう。ならば。
「まずは学ぶとするか」
剣術など扱ったことのない俺はただ剣を振り回すのもかっこよくないと思い、タンクの動きを真似ることにする。一瞬でしゃがみ、俺の懐に入り込んだ女は、切り上げのモーションを取る。俺はそのまま自分の剣をとりあえず氷で作った直剣を短剣に縮める。
「ッッ!」
相手が攻撃のモーションに入ってから剣を変えたから一瞬驚いたタンクの攻撃のキレが落ちる。
女の切り上げを横凪でいなし、右足を踏み込み、女と同じように懐に入り、切り上げを真似る。
「……こうだな」
「クッ」
もちろん、こいつに殺意なんて抱いていないので殺さない。首元の寸止めで勘弁してやる。この間わずか数秒。
全力で避けようとして体を仰け反らした女は悔しそうにして1歩後ろへ下がる。すると負けを認めたのか、俺に背を向け一人帰ろうとする。
「ちょっとリリー! なんで帰ろうとするのよ! まだ負けてないでしょ!」
「あいつは悪魔だ。さっきまで剣なんて触れたことないみたいな顔しといてあの鋭さだぞ? 演技だとしたならば相当厄介な戦い方だし、演技じゃないとすればそれだけ素質があったということだ。正直あのバケモンに私の技を盗まれたくないし、盗まれなくても簡単に負ける。現に私は死んだようなものだ」
戦士の仲間に呼び止められたが、つらつらと自分の弱さを語り俺の強さを語り、負けを認める。
「いいから早くしろよ。それとも時間稼ぎのためか?」
「「――ッ! うるさい! 死ねぇ!」」
姉妹戦士は仲良く声を合わせて、左右から詰め寄る。
ショートカットの方が直剣で、1つ結びの方が直剣2つの二刀流ってとこか。
「ふむ、いいだろう」
俺は右側に走り出す。目的はショートカットの戦士だ。
「こっちに来たか! ならば好都合! 死ね!」
殺意マシマシの袈裟斬りを逆袈裟で受け止める。体の使い方は袈裟斬りの逆って感じで動かせば何とかなった。
――キィィィン
「いいぞ、もっと来い」
そのまま剣を振り切り、一旦リセットする。
彼女の流派なのか癖なのかよく分からんが、視線で相手を騙すことを得意としているらしい。さっきの撃ち合い、俺の右足を視ながら袈裟斬りしてきた。もし俺が右足をカバーしていれば綺麗に着られていたことだろう。
しかし今は俺の首を睨みながらの突き。2回攻撃し、視線とは全く違うところと全く同じところを狙い、3手目では相手を疑心暗鬼にさせるテクニック。
実に面白い。しかし、剣技自体はさっきの短剣タンクの方がキレがあるように見える。つまりこの女から学ぶことはもうないというわけだ。
相手の突きを躱し、腹部に剣を突き刺す。鎧で隠して露出の少ない彼女だが、その鎧を突き破り、背中まで貫通させる。
「視線誘導は素晴らしかったが、さっきの女よりも剣技が雑だな。もう学ぶことは無い」
瞬間、後ろからなにか感じた。
振り返ると俺の両肩に剣が置かれており、1つ結びが頑張って俺の身体をX字に切り裂こうとしている。
「……何してるんだ? そんな貧弱な攻撃じゃ俺を切れないぞ?」
「はっ?」
「レイ、に……げろ。こいつは、はぁ、バケモンだ」
「ルイは静かにして! ボーデン様の魔法が準備できるまで私達は時間稼ぎをしなきゃいけないのよっ!」
そう言って一旦俺から距離をとる1つ結び。
見たところ、一刀流も二刀流も基本は変わらない。左手でも右手と同じように剣を扱えるか、右手と左手のコンビネーションはどの程度か、が鍵になりそうだが、俺に二刀流は必要ないっぽいし、既に1つ結びからは学ぶことは無いな。
1つ結びに手のひらを向け、風を送る。
最初は何も感じていなかったが、段々と風を強くすると、後ずさりし始める。よし、今だな。
「吹き飛べ」
すると一瞬で1つ結びは壁に打ち付けられた。弧を描くなんてもんじゃない。直線的に一瞬で壁に打ち付けられた。それだけ強い風を送り込んだのだ。
「あとはお前だけだぞ、ボーデン・ザッツ」
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