第5話 頑張って作ったお弁当
完全アウェーの教室から脱出後、僕と烏丸は加賀が待っているという空き教室にやってきた。
ここは理科系の荷物置き場にされているらしく、いろんな備品が壁際に積まれている。
しかし、物置にしては綺麗に片付いており、ほこりっぽさもない。
「あっ! 2人ともおそーい! 待ちくたびれちゃったよ」
「えっ、私たち結構早く来たとお思ったけど……くすっ、さくらちゃんやる気満々だね。可愛い♪」
「う、うるさなぁ。ほら2人とも早く座ってよ」
そんな教室の窓際の席には加賀が頬を膨らませながら座っていた。
加賀の前の机には大きな3段のお重が1つ置かれている。
どうやら待たせてしまったようだ……しかし、今の僕にはそんな加賀を気遣う余裕がない……。
なにせ教室から走ってきたのだ……軽い酸欠だ。
僕のクラスが1階でここは最上階の3階だから、結構距離あったしな……。
「はぁはぁ、わ、わるい……し、死ぬ……」
「せ、先輩、死にそうなほど疲れてるけど大丈夫? そ、そまでして急いでくれてたんだぁ……ふ、ふーん」
「ご、ごめんね。高円寺君、私が教室で大ごとにしたから……」
「い、いやそれはいいんだけど……はぁはぁ」
なんで烏丸は汗1つかかないで余裕しゃくしゃくなの? 体力おかしくないですか……? ぼ、僕の体力がないだけか……いや、両方だな……。
「大丈夫、落ち着いてきた……」
「よかった…本当にごめんなさい」
「あ、謝らなくていいって」
申しわけなさそうに深々と頭を下げる烏丸。
え、えっと……そんなに真剣に謝られると教室でのことを言いづらいじゃん……落ち着いたら文句の1つでも言ってやろうと思っていたのに……。
(まあ、でも冷静に考えたら、事前に口留めしなかった僕も悪し……まあ、いいか。ばれたもんしょうがない。他の対策をこの昼飯で2人に相談しよう)
「くすっ、高円寺君って優しいね……でも体力ないと大変だよ? 将来2人を相手にするんだから」
ごちゃごちゃ考えてると、烏丸がイタズラっぽくふわっと柔らかく笑う。僕はその不意打ちのような笑みにドキッとしてしまう……。
やっぱ……とびっきり可愛いよな……言ってることもものすごくおかしいけど。
「はいはい~。話がまとまったら早く食べようよ。わたしランチデートをしたいんだからっ」
「お、おう……」
「はい! 先輩は真ん中の席に座ってね」
加賀にせかされ、指定された席に座る。僕は学習机の正面に座り、その左右に加賀と烏丸が座る。1つの机を3人で囲む形だ。
「じゃーん! 先輩と美恵先輩のために早起きして作ったんだぁ~」
加賀は自慢げに3段のお重のフタを開く。すると……中には和食中心の料理が所狭しと詰められていた。見た目も鮮やかなその品々に僕と烏丸は目を輝かせる。
「す、すげぇ……金がとれるレベルだな……」
「う、うん、さくらちゃんってお料理得意なんだね」
「ふふーん、もっと褒めて褒めて。全部手作りなんだからっ!」
加賀が得意げなのもわかる。中には煮物、煮魚、豚の味噌焼き、栗きんとん等々、手間がかかりそうな料理も多くあり、これを作ったとなると料理が上手いのだろう。
さらにはこのお弁当で1番の魅力はなんといってもその彩りだ。
素人目に見ても色合いを気にしていて、配置や食材を考えているのがわかる。
「なんか食べるのがもったいないな……僕なんかが食べていいのか……?」
「何言ってるの先輩! 2人のために作ったんだからっ。毎日だって作ってあげるよ」
「で、でも……これ時間かかったんじゃない? 何時に起きたの?」
烏丸が遠慮がちに加賀に聞く。すると加賀は褒められて気分がいいのか明るい口調で答えた。
「朝の2時ぐらいかな?」
「えっ……?」
「…………」
聞いた瞬間、僕と烏丸の表情が固まる。
「か、加賀。そ、それ朝っていうか深夜じゃねぇか……体調大丈夫か?」
「う、うん。さくらちゃん眠くないの?」
「大丈夫! さっきまで保健室で寝てたからっ! 先輩に寝不足で可愛くない顔なんて見せたくないし!」
「おい……」
普通に支障出まくってるじゃねぇか。
「あはは……」
絶句する僕に空笑いを浮かべる烏丸。なんか、さっきの烏丸もそうだけど、愛されてることはめっちゃ伝わってくるので非常に怒りづらい……。
「それにお姉ちゃんを叩き起こして、食材の切込みとか手伝ってもらったから、そこまで大変じゃなかったの! だから先輩たちは何も気にしなくて大丈夫!」
「………………」
2時にたたき起こされて弁当の手伝いをさせられるとか、お姉さんが不憫すぎる。
とにかく……弁当を頂こう。僕たちがおいしく食べないと誰も幸せにならない……。
「加賀、これ食べてもいいか?」
「そ、そうね。私も早く食べたいなぁ」
僕と同じ考えなのか、烏丸が便乗してきた。同士よ。明日からはお弁当を作ってもらうのはなんとか遠慮しような?
さすがに申し訳なさすぎる……特にお姉さんに。
「ふふっ、2人ともそんなに慌てなくてもいいのに。わたしがよそってあげるねっ!」
でも僕たちの考えとは裏腹に、加賀は嬉しそうにお弁当を持ってきたお皿に盛りつけ始めた。
その笑顔は可愛くて……なんだか微笑ましかった。
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