第10話 二股の何が悪いんですか?

「えっと……お前らなんでここにいるんだ?」


 いきなり乱入してきた加賀と烏丸に「お前らまさか僕のあとをつけて来たのか?」という非難の視線を送る。


「この女よくも先輩をいじめたなぁぁぁぁぁぁ」


 加賀は南戸を威嚇するのに夢中で僕の視線気が付いていない……おい、この状況どうなってんだよ……。

 そして、烏丸は僕から露骨に視線をそらしている。

 

「……愛の力かなぁー。なぁんて? てへぺろ」


 おい、こっち見て言えや……。

 まあ、つけられてたにしろ、お前らが来てくれたのは非常に助かる。


 南戸の誤解を解いてくれれば……これ以上のこの『突き刺さるような視線』にさらされなくて済みそうだ……。


「じっ……なるほどです……お2人をうまく言いくるめて、自分に非がないようにしているんですね……その人心掌握術は恐ろしいです」


 くっ、この野郎……どれだけお前の中の僕は鬼畜で固定されてるんだよ……。


「ねぇねぇ、高円寺君。私、事情はほぼ把握してるんだけど、彼女のこと説得しようか? 表向きは優等生なんで上手くやるよ? えへっん」


「おう……悪いけどお願いする」


 なんか妙にわくわくしているような口調だから烏丸にあんま頼みたくないんだけど……。

 でもな……南戸の僕への態度は絶対零度だし……。


「がるるるるるるる」


 加賀はバーサーカー状態になってるし……相変わらずコロコロ表情が変わるやつだ……。

 ここまで芸風が豊富なのかよ……。


 とにかく……烏丸に南戸の説得をお願いするしかない……というかそれ以外に選択肢がないともいう。


「任せてよ。さくっと説得するから♪ るんるん♪」


 なんかわくわくし過ぎてて不安になるな……こいつはまだキャラがつかめない。

 基本自由を愛する感じがするけど……てか「面白ければなんでもいい! やふうううう!」と、思ってないか? こいつ……。


 はぁ……僕みたいなただのゲーマーには手に負えない相手かもな……。

 その分、加賀はわかりやすいけど。


「えっと……南戸さんだっけ? 少し話をさせてもらってもいいかな?」


「そうですね……あなたたちはこの鬼畜に騙されているんですよね? 夜な夜な下着の色を連絡させられているんですよね? そうなんですよね?」


 烏丸が友好的に話しかけると、南戸は僕に見せていた冷たい表情を消し、心配そうに烏丸を見つめる……。


 その顔には優しがあり、演技をしているようには見えない。


(……その優しさを少しでも僕に分けてほしいよな……)


 はぁ、でもこの感じだと問題なく話をまとめられそうだな。


 ……っと、安心していた時期が僕にもありました。


「私たちは騙されてません。くすっ、検討違いもここまでくると、道化ね」


 烏丸はさっきまでの無邪気な笑みを消して、今度は歳に似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべた。

 挑発的なその笑みはドラマとかで出てくる人殺しの魔性に女のようだ。


 その様子を見ると南戸は思わず一歩後ずさりをし、その顔には強い怯えが見える……無理もない僕の目にもあいつが魔女に見えるぞ……。


(お、おお……こいつマジ切れしてないか……? ほんとキャラが読めねぇな……)


「か、烏丸さん、私はあなたのことが心配なの。だってこの男は二股を――」


「くすっ、そもそも……二股の何が悪いのかな……?」


(で、でたああああ! 烏丸の姉御の決め台詞……! 一般人には理解できない真理の極地……まあ、うむ……あいつ結構やばい女だよな……)


 ようやく烏丸の性格の上下に慣れ始めた僕でも、耳を疑うレベルのなんだ……南戸は何を言われたかすら理解できてないだろうな……同情する。

 僕……当事者で高みの見物とかクズだなぁ。


「なっ、そ、そんなの……」


「くすっ、まっ、そういうことだから~。私たちもう行くねっ♪」


 それだけ言うと烏丸を南戸を背にして僕たちに元に歩いてきた。

 南戸はあまりのことに言葉が口から出てこないのか、そのばで唖然として立ち尽くしている。


「わああ、さすが美恵先輩! あの女何も言い返せなかったよ!」


(それは褒められたことじゃないんだけどな……明らかにあっちが正常者でこっちが異常者だろ……)


 まあ、これで無駄に敵意を向けられることもないだろう……教室ではボッチ街道まっしぐらだな……。


  ◇◇◇


 次の日の朝――。

 クラス中の視線が俺の席に向けられていた。


「高円寺、お話があります……ついてきてください」


「…………」


 おい、南戸のやつ普通に話しかけて来たんだけど……。あ、あれ? 昨日の一件で心が折れたんじゃないの?


「高円寺、聞いてますか? あなたに話しかけています」


 というか……『さん』がなくなってるし……俺の名前を口にした時に語気が強くなってるのはなんでだろうか……。


「あれからいろいろ考えました……私も昨日はいきなりだったので、高円寺に多少失礼な態度をとった自覚はあります」


「いや、多少というか……」


 登校拒否レベルのトラウマの言葉を投げかけられたような……。


「なので、少しお話をしましょう。それで――二股なんていう最低な行為はやめさせます」


 こ、こいつ……変な正義感と実直な真面目な性格が、いい感じでがんじがらめになってるな……そうか……こいつ正義感から昨日俺に話しかけたのか……

 こ、ここまでくると一周回って面白いやつに思えてきたな……


 

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