第9話 二股のお試し期間とはなんぞや?
◇◇◇
僕はクラスメイトの南戸と共に校舎裏に向かっていた。まさか……2日連続ここに来ることになるとはな……。
昨日と同じでここは相変わらず人がいない……。
まあ、昨日とは180度空気が違うんだけど……昨日は告白される前のドキドキで心臓が破裂しそうだったけど……今日は「この真面目そうな女子に何を言われるんだろう……」ということを考えると胃に穴が開きそうだ。
お堅い印象を受けるけど南戸もレベルの高い美人なんだけどなぁ……。
「この辺でいいですね……」
俺の前を歩いていた南戸が振り向き足を止める。
その顔はまだ不機嫌そうでしかめ面だ……明らかにいい話ではなさそうだ。
ええい、引き伸ばしてもいいことないんだから、早く本題を聞いてしまおう。
「えっと……話って……なに?」
「はい。教室で噂になっていた件です」
やっぱりか……そうだよな。それぐらいしか僕を呼び出す理由はないよな……。クラス中大混乱だし……。
もっとも渦中の本人たち(僕以外)はお気楽な感じだけど。
「皆さん、誰も高円寺さんに聞こうとしないので、私が聞くことにしました」
「なるほど……」
興味からか聞いてるのか……そりゃ近くに二股疑惑に奴がいたら気になるもんな。
「それで……噂は事実なんですか? あなたは烏丸さんと加賀さんの2人と付き合ってるんですか? 二股をしているんですか?」
南戸はどこまでも真面目な口調で早口でさらには絶対零度思わせる様な冷たい態度だ……。
言葉が進むにつれて不機嫌さが増していくようだ……。
えっと……せっかくの美人なんだから、もう少し笑ったらいいのではないでしょうか……?
変なプレッシャーがすごいんだけど……。
「…………」
ど、どうしよう馬鹿正直に「二股のお試し期間をしてます!」っていうと、ガチ説教されそうな雰囲気なんだけど……。
というか……この人雰囲気が重く暗くてマジで怖いんだけど……。
烏丸とは違った怖さだ。烏丸が笑顔でガチギレするのも背筋が凍り付くようだが……南戸の場合は冷たい口調や態度がただ怖い。純粋に怖い。
「何ですか? 急に黙り込んでどうしたんですか? 不都合なことでもあるんですか? 言葉にしてくれないとわかりません。教えてください」
「おい、ち、近いって!!」
近い! 近い! 詰め寄ってくんな!
だから怖いよ!!! 瞳に明るさがないし、人間として明るい感情が一切ない。もう殺し屋の目にしか思えない!
「いいから答えてください。私は真実が知りたいんです」
もうこいつの真意が全く分からん……そもそもなんでこいつはこんなにも僕のことを知りたがってるんだ? ファンか……? 意味がわからん……。
でも……。
「…………」
もう僕をにらみ殺す勢いで見つめてくる南戸さん……。
マジで殺し屋だなこの人……天職だよ。
(はぁ……か、覚悟を決めるか。ま、まあ、僕の考えすぎかもしれない。もしかしたら怒る気なんて別になくて興味本位で僕に聞いてるのかもしれないし)
そうだ。何でもかんでもマイナス思考で考えるのは僕の悪い癖だ。
気軽に聞けばいいんだ。さらっと、ふわっと、さくっと。
「ああ、二股のお試し期間中なんだ」
「うわっ、二股お試し期間とか正気ですか? と言うかお試し期間って何? 真正のゴミですね。こんな大きな生ゴミ私初めて見ました。いえ、生ゴミの方がまだリサイクルして肥料にできる分まだマシですね。あなたは地球に住むすべての女性に対して害にしかならない存在です。早く消えたらどうですか?」
「ご、ご、ごめんなさい……」
くそおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
こいつ予想以上に死にたくなることを言ってくれるな!!!!!!
そんなことだろうと思ったよ! 心の隅ではこういう展開があることを予想はしてたよ! 強がってただけだよ!
「…………汚らわしい」
まだを僕のことをこの世の最も汚らわしいものを見るような視線を向けてくる南戸さん。
ま、まずい。このままでは最低のクズ野郎のレッテルが張られる。
ここは弁明をするんだ。そうだ人間は言葉という魔法で自分自身を守れる生き物なんだ。自分自身の無実を自分の口から説明するんだ。
僕はクズだ。だけどクズなりに自分の正当性を証明する!
「き、聞いてくれ。南戸!」
「何ですか……? 気安く名前を呼ばないでもらえますか? 2人の女性を騙すなんて最低の男ですね」
「そ、それが誤解なんだ。僕はちゃんと2人の許可を取って二股のお試し期間をしてるんだ! あっちからのプレゼンなんだ!」
「二股のお試し期間をあっちから……? ごめんなさい、ちゃんと、きちんと、普通に、日本語で話してもらえますか?」
意味がわからないのは僕も一緒だよ! 二股お試し期間ってなんだよ! 頭おかしいくて、狂ってる!
だが事実だ!!!!
「いや、それが本当ことなんだ! 僕は嘘なんか言ってない!」
「犯罪者の言葉を誰が信じるというのですか……?」
僕は犯罪者じゃねぇ! って言っても何も信じてもらえなさそうな雰囲気だな……くっ、こうして世の中に冤罪が生まれるのか……て、てか、これ詰んだんじゃないのか……ぼ、僕の高校生活終わりか……?
そんなあきらめの思考が僕の脳裏に過った時――。
『先輩をいじめるなあああああああああああああああああああああああああああ!!!』
なんかよくわからん救世主がこの場に現れた。
救世主、加賀の後ろにはにやにやと面白そうに笑ってる烏丸までいる……。
僕を救いに来てくれた……のか? えっ? ま、待って。これって……余計めんどくさいことにならないか……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます