第8話 クラスメイトからのお誘い
◇◇◇
時は流れ、昼休みが終わり、授業を受けて放課後になった。
昼休みに彼女たちの説得に失敗した僕は、あのあと1人寂しく教室に戻っていった。
(二股のお試し期間を隠すのをあそこまで嫌がるとは予想外だ……これからどうするか……もういっそ開き直るか……? それが1番いい気がしてきた……だってなぁ……この状況じゃ……)
教室は僕がいない間に、あることないこと……僕の黒い噂が広まっていた。
いわく『美少女2人を洗脳してる』。
おい、いつから人間は催眠術なんていう芸当をものにしたんだ……?
いわく『女を食い物にする鬼畜ヤリチン野郎』
おい、童貞になんていう異名を付けるんだよ……実際真逆だし……。
いわく『二股のクソロリコン野郎』
……なんでロリコンなんだよ。烏丸にチクっちゃうぞ? いいのか? あいつ怒るとめっちゃ怖いんだぞ……。
そんな感じでわずか数時間で僕の株は大暴落をしていた……。
そのくせ誰も話しかけてこない……僕に聞こえるボリュームで僕の噂をしている……本人たちは聞こえてないと思ってるんだろうけどな……。
まあ、元から下がるほど株は高くなかったか……でも、ボッチの心にはグサリとくる……
(……それでも今まではこんな重々しい空気じゃなかったからな……昨日までの僕は随分と贅沢な立場にいたんだな……はぁ、いいや早く帰ってゲームでもやろう)
僕はうんざりした気持ちで教室を出ると下駄箱に向かった。
ホームルームが終わってすぐに来たので、他の生徒はまだおらず、寂しい静けさがその場にはある。
「あの……少し……いいですか?」
その時……後ろから誰かが近づいてきて、話しかけてきた。
真面目そうな女の子の声だ……おっ、とうとう普通に話しかけられたか……普段ならそっけない態度でかわす僕だけど、今日だけは普通に話そう、という気持ちだ。
人と話すのは苦手だけど、遠くで噂されるよりはずっといい。
「え? ああ……何か用――」
振り向くと、そこには声と同じように真面目そうな女子が立っていた。
細身で黒髪をポニーテールでまとめていて清潔感がある。ノリがよさそうなタイプではなく、お堅そうな感じだ。
クラス委員長とかやってそう………
でも……そうだな。うむ……びっくりするぐらい見覚えがない。
「……えっと……誰?」
僕がそう言うと女生徒は明らかに不機嫌になる。いや、待て本当に見覚えがない。
最近地雷を踏むことが多い気がするけど、今回は潔白だろ。
「同じクラスの南戸由紀(みなとゆき)です」
「…………すまん」
僕真っ黒だった。もう2ヶ月同じクラスだ……。
「ふんっ、私のことなんかいいんです。あなたに大事なお話があります。お時間いいですか?」
女生徒は不機嫌そうな顔を隠そうともせず言い放つ。明らかに昨日経験した告白とは違う……甘酸っぱさなんか微塵もねぇ。
僕……女難の相とか出てるのか……?
変な噂が流れてる今、無視するのも後々めんどくさくなりそうだし……はぁついて行くしかないか……。
◇◇◇
同時刻。
高円寺慎太が遠巻きに見える位置にある下駄箱を影に、2人の少女がその様子を覗き見をしていた。
「さ、さくらちゃん、押さないでよ。ばれちゃうよ! 高円寺君、結構周り気にしてるんだから!」
「で、でも先輩が他の女に話しかけられてるっ!」
「こ、声大きいよばれちゃう。こういう浮気現場でも落ち着いて行動するのがいい女の秘訣だよ?」
美恵はウインクをしながら、諭すように笑う。
だが、さくらはその言葉だけでは割り切れないのか、頬を膨らませながら慎太を盗み見ている。
「うぅ、先輩の裏切者ぉ……しないって言ったじゃん。ぐすん、やだぁ、先輩を取られたくないよぉ」
(話してるだけで浮気かぁ……くすっ、愛が重くて可愛いなぁ)
「あっ! 美恵先輩! あの女、先輩をどこかに連れてくよ!」
「えっ、何その面白い……違う。えっと……遺憾な事態は!」
「美恵先輩……楽しんでる?」
「ソンナコトナイヨー」
「超棒読み! もうっ! いいからばれないように追いかけるよ!」
「いえっさあ! くすっ、隊長どこまでもついて行きます」
慎太の2人の彼女はこそこそと慎太と女生徒の後をつけて行った……。
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