安心しろ、ビビリの俺には二股なんてできない

第7話 速報美少女の二股論

「それで相談なんだけど……」

　僕は恐る恐る話題を切り出す。

　まっ、そんなに気を重くする必要はないとは思うけどな……２人だって大事にして変に注目を集めるのは嫌なはずだし。

　気軽に聞いてみよう。

「周りには二股のお試し期間は内緒にして欲しいんだけど……」

「やだ」

「お断りします」

　無表情で同じ内容の言葉を言い放つ彼女たち……。

「…………はっ？」

　こいつら今なんて言った。僕の聞き間違いじゃなければ普通に断られた気がするんだけど……

　普通に「オッケー！　オケマル！」となる予定だったので戸惑う。

「え、えっと……」

　空気が重い……２人ともじーっと僕のことを見ている。

　加賀はどことなく怒ってる感じだが……烏丸は何を考えてるんだがわからない……ただ笑顔で僕を見てる。

　ガチで怖い。美人なのが余計に怖さを引き立たせてる……。

　えっ？　ぼ、僕なんか選択肢間違えた？　ギャルゲーだとこのままバッドエンドにいく雰囲気なんだけど……。

「高円寺君。あなたの意見ならなるべくは尊重したいと考えております。ですが、私も人間なので聞けない願いというものがあります」

「わ、わかった、。わかったから、僕的には……その事務的な口調を辞めてもらえると……嬉しいです」

　いやマジで怖い。だってさっきから冷たい笑顔だよ？　軽いホラーだよ……。

「先輩！　わたしの話を聞いて！　いいから聞いて！　早く聞いて！　てか聞け！」

　加賀は我慢が限界を超えたのか、怒りを爆発させて僕に詰め寄る。あー、加賀が、うがあああって怒るとなんか微笑ましくなるな。

　それが……笑顔で怒ってる人が隣にいると……余計にな……。

「くすっ、ちょっと、悪ふざけが過ぎちゃったかな？」

「えっ？」

　急に烏丸の顔から冷たさが消え、温かみのある笑顔になった。

「あれ？　もしかしてからかわれただけか……？」

「うん、いくら何でもそんな理不尽なことで怒らないよ？」

「そ、そうか……」

　マジでガチギレされてると思った……というか、あの冷たい笑顔を向けられるとめっちゃ怖い……烏丸は怒らせないようにしよう……。

「わたしは本当に怒ってるよ！　むきいいいいい！」

　お前はいいや。なんか和む。

「それで断られた理由を教えてもらってもいいか？」

「うん。だって私たち何も悪いことしてないよ？」

　悪びれもなくそう答える烏丸。

「私別に何もしてないし？　わからなーい」みたいなとぼけ顔だ……。

「い、いや、確かに法に触れてるわけでもないけど……」

「そうそう！　先輩そうだよっ！　別に誰に迷惑をかけてるわけでもないし！」

「くすっ、さくらちゃんはわかってるねぇ～。悪いことしてないのに、こそこそお試し期間なのも変な話じゃない？」

　ま、マジかこいつら……周りにどう見られても何も感じてないのか……？　えっ？　気にしてる僕がおかしい……訳ないないよな……絶対こいつらの常識がおかしいだろ……。

　こ、ここで負けてはいけない。常識がある僕に正義はあるんだ。

「で、でも、ほ、ほら世間体とかあるじゃん……？　世間体って大事よ？　ものすごく大事よ？　ボッチが気にするぐらいには！」

「せっかく先輩とイチャイチャするのに、コソコソするなら世間体なんていらないよ！」

　お前無茶苦茶言うな！　何その超パワー理論！

（くっ、ここは烏丸に加賀を説得してもらおう。烏丸は僕らの中では１番常識人のはずだ。ど、どうせ、また冗談で言ってるだけだろう。きっと、たぶん、おそらく！）

　そんなことを考えてすがるような気持ちで烏丸を見た。

　烏丸は僕と目が合うとニコッと笑う。うわっ……なんかデジャブ……。

「くすっ、高円寺君そもそも……二股の何が悪いんですか……？」

　満面の笑みでそんなことを言った……。

　マジで頭が痛くなってきた……。

　そして――。

『二股の何が悪いんですか……？』

　この烏丸の言葉が、今後の僕たちの関係を固く結んでいくことになるのだったーー。