第11話 お泊まりへの布石

   ◇◇◇

 

 休日を明日に控えた昼休み。

 僕はいつも通り空き教室で加賀と高円寺と『プラスα』でお弁当を食べていた。


 僕の二股お試し生活が始まって2週間ほどが経過した。


 6月から7月になり、女子の制服は夏服にバージョンアップした。そして、来週からの期末テストをクリアすれば学生が待ち望んでいる夏休みだ。

 

 僕だってお試し期間中だからな……様々なイベントがこれから待っていると考えると嬉しくなってくる。


 だが、浮かれてばかりもいられない。

 日に日に僕の評判は悪くなっているのを肌で感じている……人間とは馴れる生き物だと言うが……やっぱり馴れないこともある。ビビっちゃう……


 そりゃそうだ……日常からいきなりファンタジー並みの非現実に放り込まれたんだ。


 すんなり馴れる方がどうかしてるだろ……クラスメイトたちもまだ腫物を扱うみたいな態度だし……というか、最近男の嫉妬視線を強く感じるんだよな……僕、そのうち刺されるんじゃないだろうか……。


「先輩、美恵先輩! 今日の放課後って暇だったりしない?」


 そんなふうに考えごとをしていると、加賀が楽しそうに顔を寄せながら話しかけてきた。

 その瞬間、つけている香水のせいか、甘い香りを感じ、思わずどきどきしてしまう。


「お、おい、近いって」


「えっー! いいじゃん、いいじゃん!」


「あっーさくらちゃん、いいなぁ~。くすっ、私ももっと近づいちゃおうかなぁ~」


 烏丸は悪戯っぽい笑みを浮かべながら席を立ち、僕に身体を寄せてくる。たじろぐ僕の反応を楽しんでいるようだ。


「……おほん」


 その時、僕たちが座っている席から4つ離れた席で昼食を取っていたプラスαこと、南戸が小さく咳ばらいをする。


 南戸の顔を見ると険しく……じっーと僕の顔をにらみつけていた。

 どうやら……「てめぇここ学校なんだよ。いちゃついてるんじゃぇよ」と言うことらしい……。


「もうっ! 南戸先輩邪魔っ! どっかいってよ!」


「邪魔をして申し訳ないですが……あなたたちが如何わしい行為をしないための監視です。不純な関係をしてるんですから、そのぐらいは我慢してください」


「むうううう!」


 物怖じしない性格の加賀南戸にかみつくが、南戸は涼しい顔に戻り、学食で買ったサンドウィッチを食べ始めた。


 南戸は前の校舎裏での1件以来、僕に付きまとってきている。なんか「犯罪者を放置なんてできるわけないじゃないですか」とのことらしい……


 変なスイッチが入って暴走してないか……?


 僕は犯罪者じゃないんだっての……

 まあ……本人は変に真面目だから、今みたいに度が過ぎない限りは口を出してこないし、南戸なりに気を遣っているのは伝わってはくるんだけど……


(はぁ……とりあえず話題を戻すか……このままじゃ加賀の不満が爆発しそうだ……南戸と相性が見るからに悪いしな……でも、烏丸はそうでもなさそうなんだよな……面白がってるだけかもしれないけどな……)


「加賀、それで放課後が何だって?」


「ああ! そうそう! 今日の放課後わたしの家に来ない? テストも近いし、勉強会しようよ!」


「勉強会……?」


「わぁ! さくらちゃん、面白そうだね」


 ああ、勉強会か……でも、家に行くとなると両親に会うことになるんじゃ……それはなんというか心の準備ができてない。


 二股中のお試し期間という確変中なので一生心の準備ができない気がするけど。


「お、おい、僕お前の両親に合わせる顔がないんだけど……」


「大丈夫! 両親は今海外旅行中だから家にいないんだぁ! なんなら、お泊りしてよ! 明日休みなんだし!」


「お、お泊り!」


「お、お泊りですか……!?」


 僕と南戸の声が被る……南戸に関しては顔を赤くして慌てて手に持っていたコーヒー缶を落としそうになっていた……意外に初心な奴だな……。


 だが、当事者である烏丸は目を輝かせていた。

 この時点で僕の運命は決まったようだ……でも、お泊りはともかく、勉強会は悪くない……。烏丸は頭はよさそうだし、教えてもらえそうだ。


 うん、彼女家で勉強をするだけだ。なにもやましいことはない……よな?

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