第17話 ご褒美をください、お願いします
勉強会が始まり数時間。
烏丸は本人が言う通り、最近ほとんど勉強してなかったのか、試験範囲はもちろんのこと、授業で先生が何を喋ったかすら覚えていなかった。
マジで大物だよ……ある意味。
「美恵先輩……なにこの答案は?」
加賀が呆れながら烏丸の生物の答案をひらひらさせた。
その顔は幼いながらも瞳にしっかりと意思がのっているので妙なプレッシャーがある。
烏丸はそんなプレッシャーに怯えつつおずおずと口を開く。
「生物は頑張った方だよ? ほ、ほら25点も取れてるし、テストの時はちょぴっとやる気あったし……」
「ならこの答えは何!?」
加賀が答案を烏丸の目の前に突きつける。
加賀が怒ってる理由が気になったので僕はその答案を覗き込んだ。
「あっ高円寺君、み、見ない方が」
そう言われると余計に見たくなる。
なになに……。
『上記の図の細胞はどのような作用で再生をするか答えてください』
なるほど細胞についての問題か……いろいろ書きようがあると思うけど……なになに。
『ピッコロの血が流れてるから』
「お前馬鹿じゃないの?」
「あはは……ストレート言うね」
「お前馬鹿じゃないの?」
「に、二度も言わなくても聞こえてるよ!」
悪い。2回言わないとこの真摯な想いが伝わらないと思った。これは酷い。
「いや、確かにピッコロの血が流れてるなら再生するけど……」
「でしょ!? ふっふふっ、そうなんだよね。多分入ってるのは神と融合した時のものだよ」
「なるほど、まあそもそも頭の核が壊れない限り再生するからなーー」
「先輩! 美恵先輩のペースに巻き込まれないでよ!」
悪ノリしていたら加賀に怒られた……うん。今のは僕が悪い……それどころじゃないんだった。
「まったく! 美恵先輩ももう少し集中してよ! 崖っぷちなんだよ! 泥沼なんだよ!」
「いや、そうは言われても私勉強するととにかくボケたくなってくるの」
「なんだそのくそ面白い発作は……」
まずい。最初の清楚で優等生イメージの烏丸のイメージがどんどん崩れていく……。
「…………」
そんな風に思いながら烏丸を見ていると、烏丸が急に頬を赤らめて、こちらにチラチラと何か言いたげに視線を送ってくる。
「えっと……私の状況でこんなことを言うのもおこがましいんだけど……人間って生き物は目標があれば頑張れる生き物じゃない? なんなら、ご褒美が欲しい」
その言葉に加賀が呆れつつも大きくうなづく。
「うーん。何がなんならか、わからないけど。そうだね。わたしも受験の時は目標があったから頑張れたし」
「どんな目標なんだ?」
「なっ!!! 先輩に言えるわけないじゃんん!!!!」
いきなりのガチギレ!? なんで!?
「あっ……お、女の子には秘密にしときたいことがあるの!」
「そうだよー高円寺君。くすっ、私たちは秘密を着飾って美しくなるんだから」
「お前らはどこの組織のお姉さんだよ……まあ、いいや。それで? 烏丸はどんなご褒美が欲しいんだよ」
「それ……烏丸っていうの」
「えっ?」
さっきまで遠慮がちな表情をしていた烏丸だが、一転悪戯っぽく笑った。
「くすっ、来週の期末テストで私が全ての教科で赤点を回避したら……名前で呼んでほしかったりするなぁ」
「な、名前ってーー」
「そんなのずるい!!! ずるい!!! ずるい!!! わたしも読んで欲しい!!!」
俺が事情を聞こうとした時、加賀が言葉に割り込んできた。
その顔は慌てていて告白の時に割り込んできた表情と似ている感じがする。
「大丈夫、大丈夫。私の手柄はさくらちゃんの手柄だから、もちろん一緒だよ!」
烏丸の言葉を聞くと加賀は目の色を変えて俺に顔を寄せてくる。
「ほ、本当!? 約束だよ先輩! 嘘ついたら聖杯の泥を飲んでもらうからねっ!」
それ僕が飲み干せないやつ!
くっ、なんか話がトントン拍子で進んでいる。とてもじゃないが、嫌とは言い出せない雰囲気だ。
僕だって男だ。名前で呼び合う恋人に憧れないわけじゃない。
だが、名前で呼び合いなんかしたら、ますます学校で白い目で見られるんじゃないのか? 何より……恥ずかしい。
うん、……ここはまだ時期早々だな。人間にはその人にとって最適なペースというものがあるんだ。
「お、おい、今の話だけどーー」
「くすっ、これで一歩また仲良くなれるねぇ〜」
「さくら……先輩がさくらって……呼んでくれる。えへへ、さくら、さくら、さくら、さくら、さくら、さくらって、えへへ」
「…………」
とてもじゃないがそんなことを言い出せる空気じゃねぇ!!!
ま、まあ、これで烏丸がいい点数取れればいいか……名前で呼んでみたい気持ちも少しはあるしな。
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