第16話 パワーバランスの崩壊

「えっと……実は馬鹿でしたぁー。てへぺろ?」


「てへぺろじゃない。なんだこ芸術点が高い点数は……ていうか、よくうちの学校受かったな……」


「そ、それ! わたしなんかすっごい苦労したんだよっ!」


「あ、あはは……えっと……それは……」


 言いずらそうに愛想笑いを浮かべる烏丸。

 この学力が本当だったら、絶対入れないだろ。全教科の合計点で加賀の3教科以下だ。

 見た目だけなら加賀と烏丸の学力って逆だよな……。


「…………」


 僕は改めて烏丸の姿を見た。

 美少女だ……まごうことなき美少女だ。しかも知的な雰囲気が出てるし、言動もか余計に違和感が強い……。


 そしてそんな美少女は開き直ったのか、なぜか自慢気に語り始める。


「私実は学校の勉強が嫌いでね。高校に入ってから殆どしてなかったんだよね。いや~、中学の時は嫌々勉強してて点数取れてたんだけど、最近段々ときつくなってきてね」


 なるほど……なら地頭は悪くないわけか。というか高2まで持ったことを考えるとむしろいいか。


「中学の財産でテストを受けてたのか……それにしたって世界史2点っていうのは酷くないか?」


「私興味ないことはすぐ忘れるから。興味のあることは一生忘れないけどねっ。ペロっと」


「ドヤ顔で言うなや。お前このままだマジで留年するからな」


 僕がそう言うと烏丸はちょっと嫌そうに苦笑いをした。

 どうやら留年がしたい訳ではないようだ。


「それはさすがに嫌だなぁ。さくらちゃんと同学年になるのは面白そうだけど」


「ええーそれはさすがにやだよ! ちょー絡みづらいじゃん!」


「僕も嫌だぞ。彼女が留年して後輩になるとか……どんな顔でお前と話せばいいんだよ」


「えっ……? も、もしかし私留年したらこの関係はお終い?」


 そこまでの決断はしないと思うけどな…僕二股のお試し期間なんていう極端なことをしてる最中なんだし、留年ぐらいでは「別れます!」とはならない気がする……

 そこまでまともじゃない……


 だけど……。


「…………」


 加賀が何か言いたげに僕の方を見てくる……「てめぇ、甘やかすんじゃねぇぞ。おらああああああ」という心の声が聞こえてくるようだ……。


 というか、ここにきて2人の立ち位置が入れ替わったようだ……人間とは不思議だ。


 肩書が違うだけで見え方が変わってくる……もうなんか加賀がしっかり者に見えて来たんだけど……昨日まで子供だと思ってたけど。


「うぅ、高円寺君は私を見捨てないよね……ずっと構ってくれるよね……」


「そ、それは……」


 そんな捨てられた子犬みたいな顔するんじゃねぇ。それが美少女ともなればそれは倍プッシュだ……思わず許したくなってくる。


「か、確認だけど、なんで勉強をしてないんだ?」


「いや、面倒だからだけど。私好きなことしかしたくない――。ちょっと、待って、そんな哀れみの表情で見ないで……」


「ちなみに授業は?」


「持ち込んだ本を読んでるか、スマホでゲームをしてるんですけど……」


 こいつダメだ!!!

 こ、ここで心を鬼にしないとずるずるダメな方向に行きそうだ。褒めるとダメなタイプだ。


「美恵先輩! 勉強するよっ! 勉強は根性がものをいうんだからっ! わたしなんて受験前に70時間ぶっ続けで勉強して受験後に倒れたけど、偏差値を40も上げたんだから!」


「い、いや……お前それは極端だろ。何がお前をそんなに駆り立てたんだよ……」


「……じぃーー」


 なんでそんなに僕を睨む? うん……? なんか失言をしたかな……?


「もうっいい! とにかく美恵先輩はこれから猛勉強!」


「は、はい……」


 加賀は勢いよく烏丸に詰め寄る。その剣幕に烏丸は少し怯えているような反応だ。昨日までは加賀が烏丸を頼るような感じだった。


 信頼しているように見えたし、仲もとてもよさそうで……烏丸も精神的には大人っぽいから暴走しがちの加賀の面倒をよく見ていた。

 まさに姉と妹のようだった。


 だが……今は完全にパワーバランスが逆転してるようだ……。


「これからみっちり勉強するからねっ! それこそ寝る間も惜しんで!」


「うぅ、ちょっとは手加減を……ね?」


「だめええ!! 絶対に美恵先輩を留年なんてダメっ! 美恵先輩はわたしの同士なんだから! そんな惨めな想いは絶対にさせない!」


「ご、ごめんなさい……ご迷惑をおかけします……」


 まあ……パワーバランスが変わっても仲がいいのは変わりないな……。

 加賀も烏丸のことを心配してるのは強く伝わってくるし、烏丸もそれがわかっているから、申し訳なさそうなんだろう……。

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