第22話 やりくり上手な女
時間はたち10時半――僕は心身ともに疲れ切っていた。
「あ、あ、あーざした~」
正直に言おう僕はコンビニバイトをなめていた。レジを適当に打ってそれの繰り返しだと……とんでもない。
この仕事は人間の醜さと対峙する奥深き仕事だ……。
さっきまでガラガラだったはずの店内には一気に客が流れ込んできた。そして――そこから僕は人間の闇を見た。
少し……コンマ5秒対応が遅れるだけ待っている客が不機嫌そうににらみつけてくるし、弁当の温めが甘いとすぐにクレーム来るし、お湯とかもすぐ催促が来る。
さらにはそんなことをモタモタしてるとレジの前には大量の客……もう、テンパってしまう……。
そうなると、こいつらはなんで朝からコンビニ並んでるんだ? という訳のわからない逆恨みが心に生まれてくる……憎しみの連鎖だ。
「はぁ、働くって大変なんだな……」
そんなこんなでピークを何とか乗り越えた僕だが案の定満身創痍だった……。
お客はさばききり、店内はガランとしている。
「お疲れ様です。ふふっ、高円寺、意外にレジ打ち早いですね」
「ふん、僕の倍のスピードで接客してたやつに言われても嫌味でしかない。人間が本当に褒められて嬉しいのは自分より格下に褒められた時だからな……」
「はぁ、高円寺は変にひねくれてますね……褒めてるんだから、素直に喜んでくれればいいんですよ……」
少し拗ねたように言う南戸。うるせえ、性格はそう簡単には変えられないっての。
「はぁ、それよりもこれから客入りはどうなんだ?」
「これからは昼まではそこまで込まないですよ。ただ、昼ピークは今の3倍はくるんで覚悟してくださいね」
「おいおいおいおい。今の3倍だと。冗談だろ? この辺り住んでる人間は人の手で作られた愛情を含む昼食じゃなくて、機械で生産された愛のないコンビニ弁当で昼食をとるのか……寂しいやつらめ」
「はぁ、ナチュラルにうちのお客さんを貶すのはやめてもらえますか……? はぁ、せっかく見直しかけてたのに……」
「こいつやべぇな」みたいな目で見るんじゃねぇ。まあ、俺も自分がやばいやつだとは思うけど……。
「でも安心してください。烏丸さんと加賀さんにそろそろ出社して頂きますから。昼ピークまでの時間で基本を覚えて貰います」
「素人にいきなり昼ピークなんて大丈夫か? まったく足手まといはごめんだぜ」
「何ですか……? その次回には冒頭で死にそうなセリフは……。それに自分も数時間前までは素人だったくせに……」
人間とは自分のことを棚に上げるのが得意な生き物だからな。
『あああああ!! もう先輩がバイトしてる!!!』
その時、さくらがコンビニの入り口に現れた……ん? なんかこいつ怒ってないか?
そんなさくらに対して愛想笑いを浮かべる南戸。
えっ……? どうしたんだ?
「加賀さんおはようございます。早いですね……まだ時間ありますよ?」
「乙女の第六感だよっ! 南戸先輩、言ったじゃん慎太先輩と同じ時間の勤務にしてくれるって! なんで慎太先輩が先に働いてるの!?」
あーそういう……って。
「おい、僕は元々別の時間って聞いてたけど……」
「3人一緒に仕事を教えると悪ふざけしそうでしたし」
南戸は悪びれた様子もなく言い切る。
くそ、間違ってはいない。
はぁ、時間に関してはみんな納得してるものだと思って、特に連絡しなかったのが裏目に出たか……。
「むぅぅぅぅ!! 嘘つき!」
「まあまあ落ち着いて。でも、これは特かもしれませんよ?」
「ええーそうとは思えないけど! 慎太先輩といられる時間が減った!」
「高円寺には基本を教えましたから、加賀さんは高円寺に教わることができますよ?」
「えっ……し、慎太先輩に教えてもらえる……? えへへ。私頑張るからねっ!」
一気に機嫌を直す単純で可愛いさくらちゃん。
おい、僕の存在が普通に利用されてないか……?
「もしかして全部作戦通りか……?」
さくらに聞こえないように小声で呟く。
「何のことですか……? ふふっ、みんな幸せなんだからいいんじゃないですか?」
この正義マン、案外いい性格してるな……。
だけど、さくらと美恵に教えるのは面白そうだからいいか。美恵もそろそろ来るだろうしな……。
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