第19話 とある提案

 勉強会の数日後。

 テストも無事に終わり、明日から夏休みだ。


 学生にとってと夏休みとは特別な物だ。

 僕みたいな引きこもりの学生でもやりたいことはたくさんある。ゲームとかゲームとかゲームとか……。


 しかし、そんな心わくわくする夏休みに入るにはテストをクリアしなけれなならない。

 うちはそこそこの進学校なので、できない者には補修三昧の日々が待っている。


 前回全ての赤点の烏丸はその筆頭のはずだったんだけど……。


「やはり烏丸さんは優秀ですね」


 南戸が感心したように言う。


 テストが返却された放課後。俺と加賀、烏丸、そして南戸は空き教室に集まっていた。

 テスト勉強の成果を確認するためだが……僕と加賀は人間が持つ才能に絶望している。

 だってなぁ……。


「こんなの不公平だよ! な、なんで美恵先輩こんなに点数いいの!?」


「……まったくだ。たかだか数日勉強しただけでここまで点数がよくなるんだよ……」


 平均点86点……。数日前までオール30点以下だった人間だと思えない……。


「くすっ、そんなに褒められると照れちゃうなぁ。でも……せっかく点数が上がったのにさっき先生に『真面目にやれ』って怒られたんだけど。ふぅ、世の中理不尽だよね。やれやれだぜい」


「当たり前だ……不正か、悪ふざけだと思われても文句を言えない」


「なんなら、カンニングを疑われなかっただけマシだよ!」


「あはは……なんか2人の態度もきつくなってないかな。まあ、親密度が上がったと思っておくよ」


 この状況にけろっとしている烏丸さん。こいつかなりの大物だな……。


「? なんで点数のいい烏丸さんが責められてるんですか? 烏丸さんはいつもこのぐらいの点数を取っているんですよね?」


 いいなぁ。南戸の中ではまだ優等生烏丸のイメージが守られてるんだよな……俺もこのがっかり感を記憶事消したい。


 人間の固定概念とは恐ろしい。普通南戸の言うことは間違ってると、僕たちのやり取りからわかりそうものだが、烏丸の頭がよさそうな雰囲気が、烏丸は馬鹿だという考えを消しているのだろう……。


「ねぇねぇ……高円寺……い、いや、慎太君……? 約束覚えてよね?」


「あっ! ずるいずるい。わたしもわたしも! ねぇ慎太先輩?」


「…………」


 そういうやあ、そんな約束したな……。

 いや……嘘ついた。めっちゃ意識してた……。


「高円寺?」


 何かを察したのか南戸がこっちをにらんでるんだけど……。

 どこか怒っているというよりは呆れている雰囲気だ。


「はぁ、高円寺、また適当な安請け合いしたんですか……? そういう適当な性格は直した方がいいですよ?」


「……いや、その……名前で呼ぶ約束を……」


「南戸先輩! こ、これは恋人同士(仮)なら普通のことなんだよ! うちのクラスの男子もわたしのことを名前で呼ぼうとするし。まあ、速攻で訂正させるけど」


「さくらちゃんに以下同文」


 温度感の高い2人の意見に南戸が苦笑いを浮かべながら軽く頷く。

 おい、正義マン。何を納得しようとしてるんだよ……もっと否定してくれてもいいんだぞ……?


「いいんじゃないですか? 加賀さんの言う通り、他の人もやってることですし」


「…………」


 お前らは何もわかっていない。それはスクールカースト高い連中の話だろ?

 俺みたいに下から数えた方が早い連中にとってはハブられるきっけかけになりかねない行動だ。

 ここは素直に断った方がいいのだが……。


「……わくわく」


「さくら、さくら、さくら」


 まあ……僕はすでに周りの評価なんて最低だし、今更気にすることもないな。

 それに約束したし……。


「えっと…………美恵、さくら……」


「わあああああああああああああああああああああ!!! 美恵先輩やったよ! 慎太先輩が呼んでくれたよ!」


「うんうん、ラブラブだねぇ……」


 うん。なんかめっちゃ恥ずかしいけど……ふたりの喜んでいる姿を見ていると、恥ずかしさなんてどうでもよくなってくるな……。


「さあ、話もまとまったようですね。私から1つ話があるんですけど……」


「ん? なになに? ふふっ」


 いつもは南戸を敵視している加賀だが、今は機嫌がいいのかあたりがものすごく優しい。


「はい。実は私の実家でやっているお店で『バイト』を募集してるのですが、よかったら夏休み限定でやりませんか……?」


「……えっ?」


 突然の南戸に提案に間抜けば声が出てしまった。俺とお前って犬猿の仲じゃなかったけ?

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