安心しろ、ビビリの俺には二股なんてできない
シマアザラシ
第1話 二股の男
奇跡とはこの世に本当にあるものだ……。
この世に生まれて17年……僕、高円寺慎太(こうえんじしんた)は今それを実感していた。
放課後……僕は人気のない校舎裏に、1人の女生徒に呼び出されていた。
「……あの……高円寺君。あなたのことが好きなの。私と付き合ってほしいの……」
「…………」
女生徒は目の前で頬を赤らめながら僕から視線をそらしながら、そんなトチ狂ったことを言い始めた。
言っておくが……僕に告白してきた女生徒はとびっきり可愛い。
身長は150センチ後半で背中まで伸ばした綺麗な黒髪に、アイドルをほうふつとさせる整った顔。足や腕、腰はびっくりするぐらい細いのに、制服の上からでもわかる巨乳だ。
まあ、でも名前すら知らないんだけど……廊下とかで時々見たことはある気はするけど……確か同学年だった気がする。
「あ、あの……返事を聞かせてほしいな……」
「い、いや……なんで僕に……?」
それに比べて僕はスポーツも勉強も苦手の目立たない一般人だ。
身長も160センチ中盤で高くもないし、イケメンでもない。
得意なのは趣味のゲームぐらいで……自分で言うと非常に情けなくなるが、趣味に没頭するあまり、友達もほとんどおらず、クラス内では根暗と評判で……クラスカーストは下から数えた方が早い……ボッチマンだ。
「それは……かっこいいからです……。あとにゲームに熱中してる姿が可愛くて……それと優しいから……きゃあ、言っちゃった」
えっ……それ誰のこと……?
とてもじゃないがこの世界線の僕のことを言ってるとは思えない……。
僕は疑り深い男だ……だてにクラスで孤独のロンリーを気取ってない。
信じられるのは自分だけだ。
僕はそんな不信感を丸出しにし乾いた口を開いて声を出す……。
「あ、あれでしょ? ……もし付き合ったら、思いっきり馬鹿にされるんでしょ? 「お前何マジになってるのぉ! ばっかじゃねぇの!」みたいな」
「す、すごい被害妄想だね……そんな裏はないよ。私は純粋にあなたのことが好きなの……」
僕の言葉にショックを受けたのか美少女が悲しそうな顔をしている……。
ぼ、僕が悲しませたのか……。
「う、うぅぅ……嘘は言ってないよ?」
……本当にそうなのかもしれない……。
ぼ、僕はちょろくない。しっかり考えてる……。
で、でも、仮に僕が騙されていたとしても、僕が馬鹿にされて終わりだろう……多分。
なら……この子を信じて付き合うのが吉じゃないのか?
「それとも知らない私と付き合うのは嫌?」
「えっ……それは全然……君みたいな可愛い子に告白されて「いや、知らない子からの告白なんて」みたいな返答をする奴は、リア充で底辺の気持ちをわからないくそ野郎だ」
「こ、高円寺君。リア充への逆恨みもすごいね……でも……ふ、ふーん、可愛いかぁ……くすっそうなんだ……」
嬉しそうに笑う名も知らぬ美少女。可愛い……もう付き合ってしまおう。男は決断力が大事だし――。
『ちょっ~~~と、まちなさいよ!!!!』
その時背後から別の女の子の声が聞こえた。
強気で変わらしい声に反応して僕は後ろを振り向くて――そこには髪をに茶色に染め、肩までの髪にウェーブをかけた今時の子だった……。
背は告白された子よりも小さく150センチあるかないかぐらいだ。そして特徴的なのは強い意志を持ったような瞳だ。
こ、この子も可愛いな……。
「えっ、えっと……君は――」
「先輩っ! わたしもあんたのことが好きなのっ! わ、わたしと付き合って!!!」
「………はっ?」
こいつも何を言ってるんだ……?
「わ、わたしはそこの女よりもあんたを幸せにできるわ! だからわたしと付き合いなさいよっ!」
待て、こいつ……誰だよ! 名前どころか顔も初めて見たよっ!
「わたしと付き合うの!? 付き合わないの!?」
高圧的にぐいぐい迫ってくるが……顔は真っ赤で、余裕が微塵もないように見える。
余裕がないのは僕も一緒だけどなっ!
普段はクールっていうか根暗でテンションが低いと言われてる僕だけど……いきなり知らない美少女2人に告白されたらさすがにテンパるって!
「ま、待て! 何が何だかわからない――」
「うーん、さすがは高円寺君モテモテだねっ!」
最初に告白してきた美少女Aが俺と美少女Bの間に入ってきた。その顔は「楽しくなってきた。わくわく」という感じだ。
えっ……いきなりどうした? お前のテンションおかしくない!?
「女の子に提案なんだけど……『ふたりで高円寺君と付き合わない?』」
「……な、何を言ってるんだ……? はっ? 俺に二股しろって――」
「それいい!! あんたナイスアイディア!! それ採用よ!」
「はっ? はあああああああああああああああああ!?」
話がジェットコースター並みに急でついていけない。いや、ジェットコースターの方が安全装置がついてるぶん親切。
「くすっ、決まりだね」
「うん、わたしたち2人は今からあんたの彼女よ!!」
「話がどんどん進んでいく!?!?!?!?」
俺の雄叫びむなしく……僕は彼女公認の二股男になろうとしていた……。
何が面白いって……やがてこのことを学校中の生徒に知られることになる……。
ただでさえクラスカーストの低かった僕の生活はどうなってしまうのだろうか……。
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