第20話 撮影会②~奏多視点~

 SIDE:奏多


「じゃあ、撮影していくからこのセットのところに立って。」


「わ、わかったわ・・・。」


 コータ君に支持されて、スタジオセットの真ん中に立つ。

 自分から撮ってほしいなんて言っておいて、いざその時を迎えると緊張で顔がこわばってしまう。


「じゃあ、いつも通りのクールな表情からとらせてもらおうかな?」


「ええ、こうかしら。」


 やはり、コータ君のお望みは私のクールな表情なんだと少し安堵した。

 きっと、これまでのキャラづくりの努力は間違っていない。

 海外に行く前の関係に戻れたわけではないけれど、少し大人になった私たちの新しいスタートラインにちゃんと並べているのだと思って嬉しくなった。


 コータ君がファインダーをのぞき込んだのに合わせて、私は深呼吸をして、カメラのレンズを見つめる。

 

 「(コータ君、しっかりと私を、私だけを見て。そして私を写真に焼き付けて。)」


 今わまだ、言葉にできない思いを乗せて、レンズを隔てたコータ君に届けと言わんばかりに睨みつける。


 ピピッ、カシャ。

 ピピッ、カシャ。

 ピピッ、カシャ。


 静寂に包まれるスタジオセットに響くシャッター音に私の鼓動は高鳴っていく。


 シャッターが切られるたび、コータ君に私の中を覗かれて記録されていくような感覚に身体の熱が上がっていく。

 

 「(ああ、もっと見てほしい。コータ君、好き。)」


 コータ君が覗くファインダーには私はどんな風に写っているのだろうか。

 表情やポーズはちゃんとキメているはず。

 でも、あのSNS女のようにメス顔になってしまいつつある気がしてならない。

 なぜなら、表情とは裏腹に私の心と体は敏感に反応の兆しを見せ始めているからだ。


 「じゃあ、次はこの椅子に座ってみてくれるかな。」


 いぶきさんの声がして、ふと我に返る。

 このまま、カメラの世界に入り込んでしまっていたら、コータ君にはしたない姿を見せてしまったかもしれないと少し冷や汗をかきながら指示に従った。


 用意された椅子に腰を掛け、カメラとコータ君に相対する。

 あれ?椅子に座るとスカートの丈が気になっちゃうな。

 机や鞄で隠すことができない状況で、コータ君の視線が私の胸から膝のストライクゾーンを行ったり来たりしているような錯覚を覚えてしまう。


 「(それなら、いっそ)」


 こんなチャンスはめったにないと、私は覚悟を決めて少し悪戯してみることにした。


 ぎりぎりスカートの中身が見えないような角度で、脚を組みなおす。

 

 シャッター音が聞こえるたびに、視線を変え、手の位置を変え、脚の組み方を変え、カメラに隠れたコータ君の瞳が、私の手や脚、胸や腰に引き付けられるよう願いを込めた。


 でも、その悪戯が自分の首を絞めることになった。


 コータ君に私を見てほしいという思いが、コータ君が私を見ているというイメージが、私の身体をどんどん熱くさせる。

 レンズが私に焦点を合わせるたびにコータ君の指が私の身体を優しくなぞってくれるような、シャッターが切られるたびにコータ君に指で弾かれているような、実際にはありもしない刺激のイメージが全身を駆け巡る。


 そのうちに、なんだか頭がぽーっとしてきて、目が潤み視界が霞む。

 鼓動は早く大きくなり、唇に力をいれないとよだれを垂らしてしまうような感覚が襲ってくる。

 下の方はもう暑くて、汗ではない液体が下着を湿らせている感覚がわかる。

 

「か、奏多、照明が熱いかな?そろそろ疲れただろうから終わりにしよう。」


 コータ君に声をかけられて、ハッとした。

 私ったら、いやらしいことを考えて、だらしないことになっていたのではないか。

 コータ君にそれを見透かされていたら。


「ひゃ、ひゃい・・・ぁ。」


「え?」


「あ、いえ、なんでもないわ。そうね、少し暑くて疲れたわ。お気遣いありがとう。」 


 火照りと混乱からか、変な声を出してしまったが、何とか我に返ることができたところで撮影は終了した。

 

 

 余韻に浸りって少しぼーっとしていると、いぶきさんは先に部屋を出て行ってしまった。


 コータ君と二人きりになって、緊張感が甦ってきたところで声をかけてくれた。


「じゃあ、データは後日渡すから。」


「ええ、楽しみにしているわ。今日は時間外だったのにありがとう。」


「いや、なんだか、誤解させてしまったみたいだし、お詫びでもあるから。それに、約束を果たせてよかったよ。」


「や、約束を覚えていてくれたのね。」


「もちろん、今日は予定外だったけど、僕も楽しみだったから。」


 コータ君がこんな些細な約束を覚えていてくれたこと、楽しみにしていたと言ってくれたことが嬉しくて、笑みをこぼしてしまいそうになり、顔を伏せる。


「また、撮ってくれるかしら?」


「え?うん、もちろん。」


 やったぁ!また、今度撮ってもらう約束ができた!

 今度はどんな感じで撮ってもらおうかなぁ。できれば、二人きりでもうちょっと攻めた感じで・・・なんて。

 心の中ではにやけ散らかしている。顔に出さないキャラを作ってきて本当に良かったと思った。


「あっ。」


「え?」


「いえ、そろそろ部活に行かないといけないわ。」


 私が押し掛けたせいなのだが、撮影に夢中になっていて部活のことをすっかり忘れていた。

 ちょうど、いろんな意味でクールダウンが必要だし、早くシャワーも浴びなくてはいけない。


 部活のことを思い出して冷静になると、また二人きりの状況に緊張してしまいそうなので、名残惜しいがそそくさと写真部の部室を後にすることにした。


「いつか、もっと刺激的な写真を撮ってもらうわよ。」


 

 

 



 

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君のヌード写真を僕が撮る~笑顔を見せなくなった美少女幼馴染と、彼女の笑顔を撮れない僕~ TAMA @su3suzuk

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