第1話 入学式前日

「やあ、よく来てくれたね。待っていたよ。」

「どうも、いぶき・・・いぶき

「呼び方なんて好きにしていいよ、私とキミの仲じゃないか。」


 僕は入学式の前日、この人、鈴村いぶきに呼び出されて、進学先の鳳凰高校の写真部の部式に呼び出されていた。

 僕が入学する高校の写真部で新たに部長になった人だ。

 入学式前に新入生が立ち入っていいのだろうかと疑問に思っていたが、写真部への入部が確定しているので問題ないそうだ。


「ところで、それがおじさんのカメラだね。」

「はい、父のでした。」

「パパも私には見せてくれなかったからね、キミが使うことになってうれしいよ。」


 いぶき姉さんは、僕の父、啓太郎の弟の娘、つまり従姉だ。

 背は平均的だが、スレンダーで色白な美少女。

 メガネをかけているが、地味な感じは一切なく、高校生ながら、ちょっと色っぽい社長秘書でもやってそうなという感じだ。

 叔父の鈴村佳次すずむらよしつぐは父の叔父にとっては兄の死後、写真館を引き継ぎ、カメラマンとして活躍している。業界では故人である父を凌ぐ売れっ子となった。

 


「それと・・・」

写真データだね。」

「はい。」


 僕は、いぶき姉さんが個人で使用しているPCにUSBメモリを挿入し、保存されているファイルを展開した。


「何度見ても素晴らしい作品だね。」

「僕には素晴らしさはわかりません。でも・・・。」

「でも?昂ってしまう・・・だろ?」

「いや、昂るって・・・そんなことは。」

「誤魔化す必要はないよ。そりゃ、女性のあられもない姿だもの。それも、初恋の女の子と瓜二つの。」


 そう言っていぶき姉さんは、僕の手の甲に人差し指を這わせる。


「約束どおり今後はここでデータを保管しよう。写真部のセキュリティは万全だし、キミと私だけの秘密にできる。」


 僕はこくっとうなずく。


「それにしても、本当に似ている。早く実物、いや奏多ちゃんに会いたいよ。」

「僕は、あまり彼女に関わりたくありません。彼女の笑顔を見ると・・・」

「この写真がフラッシュバックする・・・よね。」


 僕は握っている拳に力を入れることしかできない。


「大丈夫。その時は私が対処してあげるから。そこの元暗室は今日からキミと私だけの隠れ家だよ。」

「ありがとうござ・・・と言っていいのかわかりませんが。」

「大丈夫、お姉さんを信じて。」


 そう言って、手を引いて二人で暗室だった部屋へと僕を導いた。

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