第13話 慰めの本質
予想外のハプニングはあったが、おかげで奏多と仲直りのようなことができ、放課後、僕は少しだけ上機嫌で写真部の部室へ向かった。
今日は、部活動説明のパンフレットに掲載するために撮り溜めた写真データの整理をしなくてはならなかった。
「やあ、よく来たね。」
「いぶき姉さん、お疲れ様。これも写真部の大事な仕事なんでしょ?いぶき姉さんが勝手に写真を選んでくれても良かったんだけど。」
「さすがに私だけで終わらせられる作業じゃないでしょうよ。カメラマンの意向はしっかり取り入れたいしね。」
「はいはい、あー、あまり時間もないし早速始めよう。」
いぶき姉さんと僕は、パソコンを二つ並べて、部活の名前のついたフォルダごとに整理された写真を一枚一枚確認していく。
一つの部活につき、20枚以上は写真を撮ったが、パンフレット掲載できるのはせいぜい3~5枚程度ずつ。最終的に採用する写真は各部長に決めてもらうが、その部活の魅力がより表現されている写真を僕たちで10枚くらいには厳選する必要がある。
僕は体育会系部活を、いぶき姉さんは文化系部活を、という具合に手分けして作業することになった。
ときどき休憩を挟みながら、コツコツと作業を進めたがなかなかに時間がかかってしまい、ようやく僕が最後に残った水泳部のフォルダにたどり着いたところで、いぶき姉さんは作業を終えたようだ。
「おぉ、キミもあと一つだね。水泳部か、キミはメインディッシュを最後に取っておくタイプなのかな?」
「いや、それじゃあ、水泳部が僕のメインディッシュみたいじゃないですか。」
いぶき姉さんは明らかにからかいに来ている。
確かに、部活動の中で最も露出が多くて刺激的な水泳部ではあるが。
「ほらほら、一枚ずつ丁寧に見ていくよ。」
手伝ってくれようとしているのか、手持無沙汰になっただけなのか不明だが、とりあえず一緒に水泳部の写真を見ていくことになった。
たしか、水泳部の被写体は愛理先輩って言ったかな?水泳部らしく引き締まってはいるが適度に筋肉質で、女性特有の柔らかさをもつスレンダー美人の愛理先輩の写真を見ていると、ほんの少しだけ男子らしい気持ちになってくる。
「おっと、これはミステイクだね。R18とは言わないがR15の規制がかかってしまうよ。」
いぶき姉さんの指摘した写真をよく見ると、愛理先輩が元気に手を上に挙げるポーズで写っていた。そのポーズのせいか、パツパツの水着の着圧に負けた胸が窮屈そうに押しつぶされて脇下の方に流出しそうになっていたのだ。
「いわゆる横チ○だね、これは。」
「みなまで言わなくて言いですよ。まったく。」
「あ、こっちは、もっとヤバいかも。」
今度は何だ?と思いながら返事をせずにいぶき姉さんが指さす場所を見ると、胸の円の中心にあたる部分がほのかに尖っているように見えるのだ。競泳用水着だってそれなりに防止策を取られているはずなのでそう見えるだけかもしれないが、横にいるJKが見ても、ここにいるDKが見ても、そう見えるのだからそうでしかないように思えてしまう。
「ははーん、キミのメインディッシュはこれだったのか。」
「いやいや、違いますって。撮影の時には全く気付かなかったですし。」
「恥ずかしがらなくたっていいんだよ?君が健全である証拠さ。」
「だからー!」
「あはは、面白いねキミは。まあ、この写真はレタッチしてみて、それでもそう見えるならボツにするしかないね。よしと、じゃあ、次。」
「はいはい、次の写真は・・・、」
「「あ!」」
いぶき姉さんと二人で思わず声を出してしまった写真には、中央で愛理先輩が元気はつらつな笑顔を写っているまではよかったが、その後ろの方に、プールの淵からこちらをジーっと見つめるというか睨んでいる奏多の姿が写りこんでいた。
「これはこれは、本物のメインディッシュの登場だね。」
「いや、違うし!その表現にも飽きましたよ。」
「んんー、でも愛しい氷の姫の水着姿だよ?男子たるもの興奮するのはしかたないさ。」
「いくらなんでも、こんな小さく見切れてる写真に興奮なんてしませんよ!」
「そういうもんなのかね?まあ、いいよ。それはそうと、各部長にデータを渡すためにUSBメモリをとってきてくれないか?暗室の奥のラックにたくさん入っているはずだから。」
「はいはい、わかりました。」
正直、いぶき姉さんにこれ以上追及されるのは避けたかったので、話題が逸れてほっとしてしまった。
僕は、特に怪しむ理由もなく、いぶき姉さんから鍵を受け取り、一人で暗室へと入っていった。
暗室はカーテンがかかっていないので明るかったが、奥の方は陰になっていて薄暗い。ラックは一番奥だったなと思いながら、暗がりへ進んでいくと棚の上に置いてあった見覚えのない写真立てが目に入った。
「え?どうして・・・。」
その写真立ての中身である写真を見て驚いた僕の声とともに、心臓からドクンと大きな音が聞こえた気がした。
大きな音を立てた心臓は、瞬く間に脳と全身に大量の血液を送り込む。
急激に体が熱くなり、下腹部に痛みにも似た膨張感が込み上げる。
「くそ、なんでこんなところにこの写真が飾って・・・いぶき姉さん、なんでだよ!」
そう、その写真立てに飾られていた写真、それは例の写真だった。
あの女性が裸で写っている、妖艶な笑みを湛えたあの女性が。
カチャン
後方からドアが閉まるような音が聞こえたが、急激に襲ってきたあの衝動に抗うことができず、僕はその場に
スタ・・・、スタ・・・、スタ・・・
どんどん早くなる鼓動をどうにかして鎮めたいと考える僕に、後ろからゆっくりと誰かが近づいてくる気配がした。
シュル、シュルル
その誰かは、
『いったい誰だ』なんて考える必要はなかった。
ファサッ
膝をついた姿勢のまま何とか後ろを振り返った僕に、その人はふわりと何かの布をかけてきた。
柔軟剤の香りがするその布が僕からシュルっと滑り落ちると同時に僕の視界が開け、窓から差し込む光の中にその人のシルエットが現れる。
シルエットだけでも、さっきまで来ていたはずの制服を身に纏っていないことがわかる。
「やあ、それを見つけてくれたんだね。」
僕に声をかけたその人は、予想通り、いぶき姉さんだった。
けれど、その人は、制服を脱ぎ捨て、上下下着のみの姿で色っぽく微笑んでいた。
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