第5話 氷の姫
SIDE:
「へぇ―、奏多ちゃんっていうんだー!すっごく可愛くて清楚でお姫様みたい!!」
「ほんとだよなー、可愛いし綺麗系な感じもある。」
「髪もさらさらだし、スタイルも抜群だねー。」
「しかも帰国子女なの?まさにお姫様だね!」
コータ君を追いかけて1年F組の教室に入ったところで、クラスメイトに囲まれてしまった・・・。
次から次へと可愛いとか綺麗とか言われるのは悪い気がしないけど、今はそれどころではない。
同じクラスになれたと密かに喜んだのもつかの間、囲まれてる間にコータ君は自分の席に行ってしまった。
席の位置は教室の端と端のため、クラスメイトが邪魔で様子なんか見えもしない。
「(てか、どういうこと?『君の笑顔は見たくない』って何なの?)」
さっき、廊下でコータ君がつぶやいた言葉が胸に突き刺さって抜けない。
「(3年も離れているあいだにコータ君は変わってしまった?)」
「(それとも思春期男子特有の『好きな子とうまく話せない』とか、『気になる女子にわざと悪態つく』とかってやつ?)」
私だって海外でだけど、3年間思春期を過ごしてきたから、男の子の心情だって少しはわかっているつもりだ。
むしろ、
髪型だって日本の流行を研究して、みんな大好き(?)さらさらのゆるふわボブカットにしたし、メイクだって
すべてはコータ君に愛されるため。
日本に帰ったら感動的な再会からすぐにコータ君といい感じになって、イチャラブ青春学園ライフを満喫する。
これが私の海外生活中3年間の目標であり、生きる目的だった。
そして、もう一つ。
幼いころ、コータ君はおじさんの真似をしてよく私の写真を撮っていた。
私はコータ君に写真を撮ってもらうのが大好きで、日本に帰ったら、またコータ君の
コータ君の専属モデルになって、可愛い私、綺麗な私、少しずつ大人になっていく私、いつしかコータ君と大人の階段のぼっちゃった私・・・、そんな写真を撮ってもらう、もう一生、撮り続けてもらうのが夢だった。
コータ君に撮ってもらうこと想像するだけで・・・。
「(はぁはぁ、コータ君がファインダー越しに私を見てる。)」
ポースと表情がキマった瞬間、コータ君の人差し指がシャッターボタンを押すたびに、私の身体を愛撫してくる。
カシャっとシャッター音が鳴り響くたびに、私の全身に電流が流れていく。
バシュっとフラッシュの光が包み込むたびに、私のすべてを抱きしめてくれる。
そんな妄想で、お腹の下の方が熱くなって、その熱で何かが蕩けて溢れて、時には下着に不思議?なシミができちゃうなんてこともあった。
「(なのに、どうしてなの??)」
クラスメイトに囲まれたまま、私の頭はハテナでいっぱいだった。
想定、計画と全然違う。
3年ぶりの再会の日だって、コータ君は目を合わせてもくれなかった。
なんとなく、妹の凛花には昔の優しいコータ君のまま接していたようだったけど、私には塩対応。
今日だって朝から塩塩だし、さっきのセリフは何だったの?
「(私の笑顔ってそんなに可愛くないのかな?)」
いや、今まさに周りの子たちは、私の満面の笑みを可愛い可愛いともてはやしている。
「(でも、なぜに笑顔はって限定的?)」
「(笑顔じゃなかったらいいのかな?)」
「(もしかして、コータ君はクールで大人な感じが好きとか?)」
「(確かに私の笑顔は可愛い系みたいだし、子供っぽいのは好みじゃないのかも。)」
「(むぅ・・・悩んでてもしょうがないし、唯一のヒントにすがるしかないかぁ。)」
いつしかクラスメイトの声なんて耳を通り抜けていて、自問自答の末、私は一つ作戦(?)を思いついた。
『コータ君の前では笑顔を封印してクール系のかっこいい大人JKになりきる!!』
と言っても、コータ君にだけクールぶっても意味ないだろうし、いっそ、高校生活はクールな氷の姫キャラでスタートさせてしまおう。
もし間違ってても、その時キャラ変したらいいし、そのくらいの対応力は海外生活で身に着けてきたつもりだ。
とにかく、今はコータ君に嫌われないよう、いやいや、ちゃんと愛してもらえるようにコータ君好みの女の子にならないといけない。
せっかく幼馴染属性を利用して素敵な青春を過ごせると思っていたのにパパの転勤のせいで、3年も待たされた。
3年の間に、おじさんは亡くなって、コータ君はすごくすごく悲しんだだろう。
私はその時、傍で慰められなかった、寄り添えなかった、支えられなかった。
それでも優しいコータ君が、私を嫌っていることはないはず。
だから、必ず起死回生の挽回をしてみせる!!
逆転満塁ホームランをIT IS GONEして見せる!
「(よし・・・、やってやろうじゃない。)」
目を閉じて、大きく深呼吸して意を決する。
閉じた目を、ゆっくりと気持ち切れ長に見えるように開き、凛として冷たい音色の声を出す。
「ねぇ、みんな・・・。褒めてくれるのは嬉しいんだけど、私、馴れ馴れしいのは苦手なの。」
「ひぃ、あ、ご、ごめんなさい奏多さんっ。」
「い、いきなり馴れ馴れしかったよな、申し訳ないってか、ごめんなさい。」
「そそそ、そうよね、徐々に仲良くなれたからいいなー・・・。」
さっきまでのきゃんきゃんした雰囲気から一転、クラスメイト達の表情は液体窒素をかけられたようにこわばっていた。
「いえ、わかってもらえたらそれでいいの。」
「みんな、クラスメイトとして程よい距離感でよろしくね。」
もちろん、クラスメイトを必要以上に邪険にするのは得策ではないし、コータ君だって私が孤立するのは望んでいないはずだ。
みんなとは波風を立てない適度な距離感で、コータ君好みのクール系を演じなきゃならない。
「(はぁ、難易度高いな・・・。でも、負けない!)」
入学式が始まる直前、心の中で自身のキャラ方針を確定し、決意を新たにする。
すべてはコータ君に好かれるために、コータ君の専属
これが私が鳳凰高校の「氷の姫(仮)」になった瞬間だった。
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