第8話 水泳部
SIDE:
入学式翌日の放課後、私は校内のプールで新入部員として部長のひなの先輩から紹介されていた。
新入生のほとんどは部活説明会の後に入部するのだが、私は中学時代、海外でそこそこ優秀な競泳選手として活躍していたため、入学前から水泳部に入部することが決まっていたのだ。
「はい、みんな、こちらが今日から入部してくれる1年の美月奏多さんでーす!みんなもこれまでの実績は聞いたことあると思うけど、うちのエースとして活躍してもらう逸材だから、粗相のないようにね♡じゃあ、美月さん、一言お願いしまーす!」
「はじめまして、1年F組の美月奏多です。ここでは過去の実績は関係ないと思っているので、結果を出せるように頑張ります。よろしくお願いいたします。」
ここでも私はクールな氷の姫を演じなければならない。
いつどこでコータ君が見ていても大丈夫なように。
むしろ、コータ君にはいつでも見てもらいたい。
そのために頑張るだけだ。
「おぉふ、なかなか、クールな美少女だねぇ。だが、それがイイ!!」
ひなの先輩のつっこみ?に部員の先輩方もむうーんとうなりを上げる。
「はいはい!!美月さんはすきぴはいますかー?いなかったら俺とメドレーリレーしませんかー?」
「はい?いきなりプライベートなこと聞くのはやめてください。あと、メドレーリレーはしません。」
「ひえぇー、ごめんごめーん。」
いきなり、男子部員の先輩(名前がわからないし覚える気もないから、以下チャラ男先輩という。)が変な質問をしてきた。
本当は「コータ君がカレピでぇーす!」って言ってみたいけど、まだそうじゃないし、氷の姫のキャラを崩すわけにはいかないから。
「はいはい!おふざけはそこまでね!あ、そうそう、今日は部活紹介パンフレットの写真撮影のために写真部が来るからね。モデルは愛理ちゃんがやるから他の人は写らないけど、撮影の邪魔にならないようにお願いね!」
「「はぁーい。」「わかりましたー。」」
そんな、やり取りがあって先輩方は練習を再開するので、私も準備運動をしていたのだけど。
「ん?写真部ってもしかして?」
と、つぶやいた瞬間、少し離れて所からひなの先輩の声が聞こえてきた。
「やほー!いぶきちゃん。今日はよろしくねー!」
「あ、彼が例のいとこ君か!うふふ、結構可愛い顔してるんだね♡」
そこにはなんとコータ君と眼鏡をかけたスレンダー美人の先輩?がいた。
「(ちょっ、もしかしてと思ったけど、やっぱりコータ君じゃん!!!しかも、美人な先輩?と一緒にいるぅぅぅぅ。ん?でも『いとこ君』って・・・あっ、コータ君の従姉のいぶきさんか!!)」
昔、コータ君と遊んでいた時にいとこのいぶきお姉さんも一緒に遊んでもらったことがあったのを思い出した。
2歳年上のお姉さんは真面目で面倒見がよいお姉さんって感じだったけど、今は眼鏡をかけてお淑やかに結われてる黒髪がなんていうか・・・逆にえろいぃ!!
なんか、後輩をいたずらに誘惑して、虜(おもちゃ)にしてそうで底知れない色気があるお姉さんだ。
「(これが、大人の色気ってやつかぁ・・・。もしかしてコータ君はいぶきさんみたいな綺麗なお姉さん系が好きなのかな?)」
そんなことを思いながら、二人から目が離せないでいると、コータ君の首には大きなカメラが掛けられてことに気が付いた。
「(え?もしかして、コータ君のカメラマンやるの?モデルは愛理先輩とかっていう人だって聞いたけど、コータ君に撮ってもらうんだ!!えー!ずるいずるい!!私もコータ君に撮ってもらいたいよーっっっ!しかも当たり前に水着姿じゃん!コータ君に水着姿撮ってもらえるなんて、愛理先輩ウラヤマけしからんがすぎる!)」
ついつい頭の中で長台詞をつぶやいているうちに、すでに撮影が始まっており、邪魔しちゃいけないってことを思い出してプールに飛び込んで練習をはじめた。
もちろん、周りに悟られないように真面目に練習しているけれど、撮影が気になって気になって息継ぎやターンのたびにチラ見しちゃうし、泳いでないときはもうずっと目で追ってしまう。
「(むぅ、なんだか、コータ君がイキイキしてるよぅ。愛理先輩も可愛いし、いぶきさんも綺麗だし・・・。てか、愛理先輩、コータ君に近くない?なんかカメラ見てすっごいニコニコしてるし!まさか、コータ君に色目使ってるんじゃないわよね?」
睨みつけるように撮影風景を眺めていたら、ふとコータ君の視線がこっちに向いた気がした。
思わず、気持ちがパアッとなって、笑みがこぼれそうになったが、私は氷の姫だったと思い出し、気付かないふりをして表情を変えないように踏ん張った。
「(はぁー、私もコータ君に撮ってもらいたかったなぁ。競泳用とは言え水着姿だし、コータ君にカメラ構えながらドキドキしてしてほしい・・・。動きながら撮ってたら、きつい締め付けの水着から見えてはいけないモノが見えちゃったり、そしたらどんどん興奮してエッチなポーズを要求されたり。いやん、そんなの濡れちゃうにきまってる!!濡れる通り越してイっちゃうまである!!)」
なんて、嫉妬と欲望まみれの妄想をしているうちに、いつの間にかコータ君たちは帰ってしまっていた。
ふと目に入った愛理先輩の頬がほんのり桃色に染まっていたことを憎たらしく思いながら、私は練習を再開するほかなかった。
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