第11話 仲直りへの

 SIDE:航太


 昨日、偶然に凛花と帰り道が一緒になり、奏多のことについていろいろ話を聞くことができた。

 中でも、奏多と凛花が僕に会うのを楽しみにしてくれていたことは、本当に嬉しかったし、僕も同じ気持ちだった。


「(それなのに僕は・・・)」


 奏多に冷たい態度をとってしまったことはもちろんそうだが、その原因である僕の衝動。奏多の笑顔に性衝動が抑えられなくなってしまうこの性質が何よりも悔やまれ、情けない気持ちになってしまう。


 どうにかして奏多との仲を回復したい。

 だけど、衝動がコントロールできない以上、笑顔を見てしまうことは許されない。


 例えば、奏多と仲直りできたうえで、奏多が僕に笑顔を向けないようにすることはできないだろうか。

 いっそ、正直にあのことを話してしまおうかとも考えたが。


「(そんなことを告白されて、引かない女子はいないだろ!)」


 自分で簡単に否定できるほど、そんなことはわかりきっていた。

 きっと、僕のことを嫌悪の対象と見るに違いない。


 それでも、一歩進むためには勇気を出さなくてはいけない。

 

 チャンスは昼休み。

 奏多はいつも一人で中庭のベンチでお弁当を食べている。

 僕はここに何気なく通りかかり、気楽な感じで声をかける。

 そして、言うんだ。

 

 「(今の君はかっこよくて嫌いじゃない。)」



 ◇◇◇



 SIDE:奏多


「奏多ちゃん、おはよー!」

「おはよう、佐藤さん。」


 いつものように私が教室に入るなり、クラスメイトは挨拶をしてくれる。

 こんなにも不愛想にしているにも関わらず、慕ってくれるクラスメイトがいることは本当に感謝すべきことだ。

 それなのに、私は一番に話がしたい相手には声をかけることすらできていない。


 けれど、昨夜、妹の凛花から良い話を聞いた。

 凛花と航太が話したこと。

 コータ君が私のことを気にかけてくれていること。

 今日、もしかしたらコータ君から話しかけてくれるかもしれないこと。


 今の私にとってはその情報は今日の登校を高校入学以来一番の気合を込めたものにするには十分だった。

 

 絶対に話しかけてもらえるように、その時を慎重に待とう。

 下手に自分から動かず、コータ君が自然に話しかけられる雰囲気を作ろう。

 そのためには絶対に笑顔を見せてはいけない。

 そして、今の私がコータ君好みなクール系女子になれているか確認しよう。


 チャンスは昼休みかしら。

 私はいつも中庭で一人でお弁当を食べる。

 もし、そこに、コータ君が通りかかってくれたら。

 ならべく、表情を崩さずに。


 「(今の私はどうかしら?)」



 ◇◇◇



 SIDE:航太


 昼休みになり、奏多が弁当を持って教室から出るのを見届けた。

 後を付けたように思われるのは恥ずかしいので、少し時間をおいてから深呼吸をした立ち上がると、奏多の居場所を探して中庭に向かった。


 何を話していいか思いつかなかったから、カメラを持っていくことにした。

 このカメラは奏多も知っているから、話のタネにでもなればと思った。 


 案の定、ベンチに腰を掛ける奏多を見つけたので、少し離れたところで一旦立ち止まる。


 一息ついて、『いざ』、と思ったところで奏多に近づいていく男子生徒が目に入った。

 すたすたと奏多の座っているベンチに近づくと、奏多に断ることもなくこともなく隣に腰を掛けた。


「あ、あの美月さん、少しお話いいかな?」


「え?あ、はぁ・・・。」


 奏多は一瞬驚いたような期待にあふれたような眼をしたと思ったら、ずけずけと隣に座った男子生徒の顔を確認して残念そうにため息交じりに返事をした。

 

 僕は何が起こっているのか理解するのに時間がかかったが、ここに居合わせたことが見つかってはまずいと思い、物陰に隠れて聞き耳を立てた。 


「僕、3年の高崎って言うんだ。サッカー部のキャプテンをやってる。」


「そうですか。」


「君、すごく綺麗だよね。水泳部の練習を見て気になったというか、一目惚れしたんだ、もしよかったら僕と・・・。」


「プールの練習覗くとか気持ち悪いので、どこかに消えてください。」


「え?覗いてなんか、たまたま通りかかった時に・・・」


「たまたま、通りかかって塀の外からプールの中を覗くとか最低です。」


「ちょ、そんなんじゃないから!というか、先輩にそんな言い方失礼だろっ!くそ、綺麗な顔してるからって調子に乗るなよ。一年女子が、俺をコケにしたらどうなるかわからせてやるっ!!」


「いや、ちょっと!やめて・・・」


 カシャカシャカシャ!!


 奏多に冷たくあしらわれた男子生徒がヒートアップしていき、奏多を組み伏せようとしたところで僕は物陰から静かに飛び出し、持っていたカメラのシャッターを切った。


 シャッター音に気付いた男子生徒は、奏多に覆いかぶさろうとしていた顔を上げ、きょろきょろとあたりを見渡すとカメラを持った僕を見つけた。


「おい、お前っ??、なに写真とってんだよっ!盗撮するなっ!」


「へ?あー、すみません。シャッター音がお邪魔でしたかね?そこに綺麗な花が咲いていたので、つい撮ってしまいました。」


「あ?嘘つくな!今俺がこの女を押し倒したところを撮っただろ?」


「え?今、そこの子を押し倒したんですか!?それは合意の上なんですかね?合意があったとしても、校内でそれままずくないですか?あー、花を撮ったんですけど、もしかしたら見切れて写ってるかもですね。すみません。」


「あ、いや、これは事故で、てか、写真データ見せろよ!写ってたら消してもらうぞ!!カメラをよこせ!」


 男子生徒はそう言うと僕のカメラに手を伸ばしてきた、と、思ったら後ろにいた奏多に足をかけられて、前のめりに思いっきり転がって来た。


 僕は、そいつの顔の前にしゃがみ込むとほくそ笑みながら言う。


「あー、すみません、データはリアルタイムで写真部のクラウドにアップされるので、ここでは消せないですね。ちなみに、ちゃんと写ってるみたいなんで、このまま引き下がってくれて、二度と彼女に近づかないと約束してくれるなら後で部室にいってちゃんと消しておきますよ?」


「く、くそ、もうその女にちょっかい出さねぇよ、だから約束してくれ。写真ばらまかれたら俺は終わりだ・・・。」


「わかりました。約束ですよ、サッカー部のキャプテンセンパイ。」


 そう言うと、コケて制服を土まみれにしたまま、そいつはすたすたと去って行った。

 もう大丈夫、と心底ほっとしたところで後ろを振り向く。


「コ、コータ君・・・。」


 奏多が睨んでいるのか泣きそうなのかわからない表情で、顔を引きつかせながら僕に声をかけた。





 



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