第10話 学校での姉

SIDE 凛花


「・・・ってな訳で、奏多は氷の姫って呼ばれてるんだ。だからと言って恐れられてるとかじゃなく、いつもクラスメイトに囲まれてるけどな。」


「なるほどなるほど、それで氷の姫なんだねーw」


 ある日の、学校帰り、私は大好きな幼馴染のお兄ちゃん(通称コタ兄)と一緒になった。

 日本に帰ってきてからお姉ちゃんとコタ兄はすぐに高校に入学しちゃったし、私は中学三年に転校したばかりでなかなか会う機会がなかったから、偶然、学校の帰り道を一人で歩いているを見かけて声をかけられたのは本当にラッキーだった。


 それにしても、お姉ちゃんが氷の姫なんて言われているのは本当に意外だ。

 私たち姉妹は小さいころからあまり似ていないと言われているが、私の明るくて元気な性格はお姉ちゃん譲りであると言っても過言ではないと思う。


「なぁ、凛花、家での奏多ってどんな感じなんだ?」


「あ、そうそう、さっきも言ったけど、家でもお姉ちゃん、無理やり笑わないようにしてるっていうか・・・。こっちに帰ってきてすぐは、いつもにこにこしてたのに、入学式の日だったかな?帰ってきてから少し落ち込んでるようなそうでもないようなで、でも、ほとんど笑顔を見せなくなったの。」


「そ、そうなのか・・・。」


「ねぇ、コタ兄、お姉ちゃんになんか言った?そもそも、どうして学校でお姉ちゃんとあんまり話さないの?」


「い、いや、何か言った訳じゃないはずなんだけど・・・。学校では俺みたいな陰キャと話してると友達もできないだろうから、あまり構わないでもらった方がいいと思ったというか。」


「うわぁ、ひっどーい!!お姉ちゃんそれは悲しむよ!お姉ちゃん、日本に帰ってコタ兄に会えるの本当に楽しみにしてたんだからね!」


「そ、そうなのか・・・、でも俺は奏多の笑顔を見ると・・・。あ、いやなんでもない!」


「ん?何を言いかけたの?」


「いや、こっちの話だから・・・。」


「ふーん、まぁ、いいけど。私もお姉ちゃんもずっとコタ兄に会いたくて、海外での3年間は我慢してきたんだからね!それは理解してほしいなー。」


「わ、わかったよ、そう思ってくれてたのは嬉しい。明日、奏多に話しかけてみるよ。」


 コタ兄の話を聞いて、お姉ちゃんがどうしてあんまり笑わなくなったのがわかった気がした。

 原因はそれだけじゃないのかもしれないけど、お姉ちゃんのことだからコタ兄の態度に影響されたのは間違いない。

 

「そ!それでよろしい!あ、でも、もしお姉ちゃんと仲直りできなくても、コタ兄には私がついてるからね。可愛い妹が慰めてあげるから安心して。」


 お姉ちゃんの状況を聞いて、ついついフォローしちゃったけど、私はお姉ちゃんの味方って訳ではない。

 私だって、小さいころからコタ兄と一緒に過ごしてきて、当然のようにコタ兄に恋をしていた。

 コタ兄はたぶん私のことは妹のようにしか思っていないだろうけど、海外に行っていた3年間は、コタ兄に会いたくて会いたくて本当に帰国を楽しみにしていた。

 同じようにお姉ちゃんがコタ兄を好きだってのは、最初から分かっていたし、お互い打ち明けることはいてないけど、お姉ちゃんも私の気持ちは気付いているだろう。

 だから、私はお姉ちゃんの邪魔はしないし、お姉ちゃんにも私の邪魔はされたくない。きっとこれは二人の仲では暗黙の了解ってことになっている。

 今は、お姉ちゃんとコタ兄が高校で同じクラスで、お姉ちゃんにアドバンテージがあるんだから、ここはちゃんとしてもらわないと、一番避けなきゃいけないのは、私でもお姉ちゃんでもない他の女にコタ兄を取られてしまうことだから。

 お姉ちゃんにはせめてそれを防いでもらわないとね。

 たとえ、お姉ちゃんがコタ兄を落としたとしても、妹の私は彼女の妹ポジションで虎視眈々と次の彼女の座を狙うことだってできるし、なんなら私はハーレムエンドでも良いとさえ思っている。


「あ、ありがとう、凛花。凛花の明るさと優しさには昔から助けられてるよ。凛花が本当の妹だったらよかったと思うくらいだ。」


「(んんー?)まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいから良しとします!何かあったらはいつでも私に相談していいかね!」


「あぁ、頼りにしてる。って、もはや凛花の方がお姉さんみたいだな。」


「あはは、いっそコタ兄が私の弟になる?ぐへへへ、毎日、甘やかしてあげるよ。」


「い、いや、それはさすがに・・・」


 あぶないあぶない、つい、私の姉属性がまた開眼してしまうところだった。

 私は末っ子の妹キャラだけど、本当はコタ兄を甘やかすのが好きでたまらない。

 学年はコタ兄が一つ上だけど、誕生日は一週間しか違わないし、小さいころなんて序列的には、お姉ちゃん>私>コタ兄って感じで、優しくて少し頼りないコタ兄の手を引くのは私の役割だった。

 

 日本に帰ってきて久々に見たコタ兄はすっかり背も伸びてカッコよくなったけど、中身はまだ私たち姉妹の方がお姉さん。

 

「(私がうまくコタ兄を導いてあげないと!)」


 電車から降りてお家の近くまで来たところで別れるコタ兄を見送りながら、私はそんなことを思っていたのだった。

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