イルム公国⑩

賞金首の剣士を連れ、途方に暮れていた一行。


とは言え、仕事内容はヘラジカを持って帰らないといけないんだが……


先刻の襲撃でぶっ壊れた荷馬車を見ながら、どうしたもんかと首を傾げていた。

とにかくみんなで直さないとしょうがないので、バカを剣士と荷馬車の見張りとし、他3人で何か使えそうなものがないか探しに行くことにした。


『私もね、こんな感じの魔法で捕まってたんだよ!』


『ああそう。…ほんで?』


『キタニスのお城の兵士って、凄い五感が敏感なんだね!?魔族だと気づかない距離でもバレちゃってさ!それでね…』


特に変哲の無い過去話を永遠と聞かされ、途中で呆れて話を遮った。


『あっそ!……そんで!?何が言いたいんだよ!?』


先刻までの長話によるものか、この大声によるものなのかは分からないが、付近の魔族に見つかってしまった。魔族の階級としては中位の魔族だがやたらと身丈の大きく、周囲の木と同じくらい。団子のような姿で大きな目玉がついている。


『………ゲゲッ!?』


『はあ…バレたぞ。悪いがこのザマだ。お前だけでなんとかしてくれ。』


……とは言えこいつの魔力量…並の冒険者では無いよな…


魔族の眼光から放たれた光線に応じてグッと一瞬構えた後光線を弾いてみせた。


『わあお……』


魔族に向かって走り出したと思えば音速を思わせる速度で殴りかかり、数回の連撃の末、魔族を蹴鞠のように宙に蹴り上げた。


飛んでいた鷲や鳥型の低級魔族が蹴り上げられた魔族に激突し、魔族と同時に落下した。落下後まだ息のあった魔族の目玉を踏み潰した。


戦闘終了後はいつもの調子に戻ってむしゃむしゃと魔族を頬張り始めた。久しぶりの食事に上機嫌だ。


宙に蹴り上げる件といいどこまで考えてやってんだこいつは?そんな事を考えられるようには思えねえけど…でも戦闘中の様子を見るに殺しに関しては…


剣士は戦闘中の彼女のギャップに驚かされていた。すると、彼女は先刻撃ち落とした鷲を差し出してきた。


『あ?』


『お腹空いてるんでしょ?』


『…まあそうだが…』


『生でほいと渡されて食える訳ないだろうが!!!』


『せめて火焚こうや!!!』


鷲を焼くために火を囲っている。…というか、火、焚けたんだな。


『…分からないな。どうしてお前みたいなのが冒険者やってるんだ?』


『え。魔王倒したいから』


『魔王ねえ』


『逆に…どんな人が冒険者になるの?』


『…魔王か。確かに、この世界のガキは…みんなそれを夢見て成長する。

かの勇者の聖戦は、それだけ良くできた話だな。』


『知ってるかもしれないが、大層な世界じゃねえよ。俺は実家が貧しくてね、兄貴が家を継ぐから、俺は口減らしのために家を追い出されただけだ。』


『俺が何したって実家の名前は落ちねえし、実家はもう俺を覚えてねえよ。』


『お前も見てきたんじゃねえのか?到底魔王を討伐するような英雄には見えなかっただろ?』


カリーナは冒険者ギルドで溢れていた柄の悪そうな冒険者達を思い浮かべた。


『この世界は魔王がいなくてもおかしい。できない奴は差別され人扱いされない』




『ねえルーファ?ろくに魔法使えないような奴と仲良くしてたってホント!?』


学園の生徒会のメンバーに問いただされているルーファ。


『彼らは転校してきたばかりなんだよ。生徒会長として、学園の生徒には平等に接しなきゃだよ!』


『えー!?ここ魔法学校だよ?魔法使えない子が魔法使えるようになる介護施設ではないんだって。』


『……!!リアン君みたいなのだっているんだよ!それだけで判断するのなんて間違ってるんだって!』


『そのリアン君は今や一番の問題児だろ!?ルーファさあ…』


『リアン君はリアン君!彼らは何も悪い事なんて!』


『そおかな?今に見てなさいよ』





『むしろ、ずっと魔王達魔族の軍勢と戦っていた時代の方が、よっぽど人して尊重されると思うね。』


『勇者の…?聖戦??』


だあーーーー!!!!そこから知らんか!!!!




二徹明けの中、書斎での書き仕事の最中、刹那的に攻撃を察知したシュナイザー。反射的に魔法杖を取り防御魔法を展開した。防御魔法に突き刺さったのはクナイ。


『全く、寝てないんだから勘弁してもらいたいね』


暗殺者の打撃に対し白魔法の魔力を込めて格闘で応戦。狭い書斎での戦闘は魔導士にとっては圧倒的な不利要素なのだが、体術と絡められる白魔法は比較的有利に戦闘を進められる。


『あの勇者から手を引け。潔く我らに差し出せ。』


『それだけは出来ん相談だな。頼まれちまってるんでな。』


『というか、初めから殺すつもりじゃなかったろ。殺す間にしてはぬるすぎる』


『あんたを殺すといらんしがらみを生むからな。』


『かの勇者すら成し得なかった魔王の完全討伐。君ら魔王の先槍が欲しがるのも分かる。』


『今の魔王様は不完全な状態だ。彼女のような強い器が必要だ。』


『ガルム人にも、あんたみたいな美人いるんだな。』


『…なっ!?』


『雷槍。』


指先から黄金の輝きが射出され、女暗殺者の肩口を掠めた。ディネルが放ったものと同じ魔法だろうが、弾速が速く傷口からの流血で暗殺者は魔法の射出に気づいた。


『…流石。手慣れてるわね。』


『本来なら魔導士と暗殺者の対戦カードでは君ら暗殺者が有利のはずだが…』


『あーちなみに、さっきの半分本音だから。』


『チッ…』


瞬間移動魔法で暗殺者は消えていった。


『めんどくさいねえ。やっぱり目をつけられている。』


シュナイザーは自身の魔法で開けてしまった部屋の穴を確認した。その際にカリーナが持ち帰った狙撃銃が目に止まった。


『これって…ガルムのだよな…』


『出会してるってことか…』





『勇者の聖戦ってのはな!500年前人類と魔王軍の戦いを、ソルビアの勇者ローランが魔王を打ち倒したっていう歴史だよ。誰だって知ってるけどな!!!』


『その時の勇者ローランの仲間である4人が結界を張って国を作ったんだ。それが今の4つの国。』


『……って!聞いてんのかって!!!!!!!おい!!!!!』


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